「…で?本当にここに放置して行くのか?」
「前回は途中で起きられて、背負ってたのはバレなかったけど自分が意識があった時とは違う場所にいた上、見知らぬ人間が傍にいたせいで完全にパニックに陥ったからね…今は顔見知りだけど顔見るなり、罵声浴びせられるなんてのは君も嫌だろう?」
「…ま、確かにそうだけどな。」
安全地帯まで行った所で彼女を降ろす…悪いけどこれ以上ワガママお嬢様の相手をするのは御免だ。さて…
「何かしらのトラブルに巻き込まれる可能性は有るけど…僕はそこまで責任は負えないな…今回はこれが最後の温情だ…」
僕は横たえた彼女の傍らにポーションを置く。
「じゃ、攻略に戻ろうか…キリト君。」
「……本当に良いのか?」
「…この後彼女がどうなろうと…はっきり言ってそれは自業自得だよ。疲労が溜まってる自覚があったかは別にしても、あの時君の提案を受け容れていればこんな事にはならなかったんだ…確かに彼女が死んだら将来有望なプレイヤーが一人いなくなることにはなるけど…ここは了承して欲しいな。」
そもそも彼女はプライドが高い…負け知らずだった昔の僕と違い虚勢も張っていたんだろうけど…そういう事じゃない…
「ちなみに今僕も言ったけど…確かに彼女が僕たちと一緒に来ていれば状況はまた違った筈だ…でも、連れて来たら連れて来たで…彼女は僕たちの足を引っ張ったと思うよ?」
「ん?何でだ?」
「それは…おっと。彼女が起きたら面倒だ…歩きながら話そう…」
「…そうだな、分かった。」
「彼女はね、僕と会った時からとにかくプライドが高かったんだ…母親の期待に応える為に必死だったのも確かだろうけどね…」
「…いや、それあいつのリアル事情だろ?俺に言っていいのか…?」
「ん…?良いんじゃないか。」
「また適当だな…」
「僕は彼女に嫌われてるからね…色々話をするなら赤の他人の君の方が適任だと思うよ?そもそも僕は正体がバレたら困るしね…」
「……取り敢えずこの場では話半分で聞く事にするよ、それで?あいつが足引っ張るってのは?」
「あー…また微妙に話が逸れるんだけど…両親が近くにいる時の彼女は猫こそ被るから僕にも気を使うんだけど…基本的に当たり障りの無い話しかしないんだ…いなくなったらいなくなったで、僕への文句しか口から出て来ない。だから僕は彼女自身の口から自分の事を聞いた事が無い。」
「…それで?」
「彼女には一人兄がいてね…」
僕がそう言った時、僕と出会ってから彼が今日まで一度も見せた事の無い表情を見せた…コレは…動揺…?
「…あいつ、兄貴がいるのか…」
「ああ、うん…」
気にはなったけど…別に僕は彼のリアルの事情には特に興味が無いし、そこに踏み込める程…特別親しい間柄と言う訳でも無い。
「彼女には嫌われているけど…彼女の歳の離れた兄とは比較的仲が良好だったんだ…で、彼の話によると…アスナ君は自分にも他人にも厳しいタイプでね、母親が厳格だったせいらしいけどね…」
「…要するに、アスナは俺たちの空気が合わないって事か。」
「その通り。それと…ゲーム好きの彼曰く、アスナ君はそもそもゲームをした事が無いらしい…」
「は…?じゃあ何で突然こんな所に?」
「さぁねぇ…少なくとも自分では買わないと思うよ。彼女の兄や、父親は了承するかも知れないけど…母親は絶対に承諾しない。ゲーム好きのお兄さんから話を聞いていたのかも知れないけど…今までやった事が無かった以上…何か特別な切っ掛けが無ければ、チャンスが有っても触ろうともしなかったと思う。」
「…取り敢えずここに来た理由はともかく…アスナは性格的に俺たちと絶対に反りが合わないし、ゲームの知識もほとんどゼロだから確実に足を引っ張られるって事か。」
「そういう事。だから連れて歩くリスクはかなり高いと思うよ。」
少なくとも今の僕たちに合わせるのは絶対に無理だ…確かにこっちでフォローは出来るだろうけど、攻略はまるで進まないだろう…これから先も出来るだけ関わらないのが賢明だ。