僕たちが戻って来たのを見て、彼らは雑談を止めてこちらに一斉に視線を向けて来る…
「…で、まぁ取り敢えず戦い方を教えるって言ってもだ…お前らが何処まで戦えるか分からないとこっちは何を教えたら良いか判断がつかない。元々今日まで生き残って来たんだ、最低限は戦えるんだろう?」
「ええ、まぁ…」
歯切れが悪い…コレは本当に基本しか分かってないんじゃないかな…その辺は僕も人の事は言えないけど。
「…先に聞くけど、お前らは今日コレからフィールドに出る気は有るか?」
「はい、アイテムの補給を終えたらすぐに。」
夜中に出て戻って来たのに、補給をしたらまたすぐにフィールドに出るのか…キリト君の顔を見れば案の定渋い顔をしている…
「…そうか、じゃあ取り敢えず今日は俺たちも一緒に行こう…先ずはお前らがどのくらい戦えるのか俺たちに見せてくれ。」
「はい!分かりました!」
元気が良いね…具体的な事は何も喋って無いけど他のメンバーも士気は十分って感じだ…一人を除いて。
「……」
僕はサチさんへ視線を向ける…その顔には明らかに怯えが滲み出ており、身体も少し震えてるのが分かる……コレは完全に僕の勘だけど、彼女を重点的に見てないとヤバい気がする…アスナ君の様に無謀な事しかしないのも問題だけど、彼女の様に過剰に怖がってるのも結構不味い…恐怖を感じなければ危機に鈍感になるだろうけど、かと言って彼女の様に怖がり過ぎるのも良くない。
……その恐怖はいざと言う時に…きっと彼女の身体の動きを止めてしまうだろう。
その動きの停止は、この世界では致命的な隙になる…
「ま、とにかくプレイスタイルが分からない以上…アイテムの補給については俺たちは口出し出来ないから、お前らで行って来たら良い…俺たちは準備出来てるからここで待ってる。」
キリト君が僕に視線を向けて来る…さすがに意図は分かるので頷いておく…うん、何だかんださっきの戦闘でもHPその物はほとんど消費しなかったし特に補給の必要は無いかな。
「はい!じゃあちょっと待っててくだ「ああ、それと」え?」
「お前らは俺より歳上みたいだし、敬語は要らない…あ、コイツにもタメ口で良いぞ。」
キリト君が横にいる僕を親指で差す……いやまぁ、別にこんな時に礼儀についてうるさく言う気も無いけど…何で君が言うんだろうね…?
「えと、本当に良いんですか…?」
彼が僕にそう聞いて来る…
「…うん、まぁ別に構わないよ。」
リアルでもそれだとさすがに困るけどね…
「…そうか、分かった…じゃあ少し待っててくれ。」
「ああ……慌てなくて良いぞ?こっちは別に急ぎの用事も無いから。」
現状ここで買うアイテムなんて、精々予備の武器とポーションくらいで…特別時間もかからないと思うけどね…
…慌てなくて良いと言ったのに一斉に走り出す面々…それに遅れてついて行くサチさん…そんな彼らを見て溜め息を吐く…さて。
「…キリト君。」
「何だ?」
「…あのメンバーの中で要注意人物は誰だと思う?」
「…多分、あんたも同じ意見じゃないか?改めて確認する必要有るか?」
「一応、ね…有ると思う。」
「…なら、同時に言ってみるか…行くぞ?せーの…」
「「サチ(さん)」」
やはり彼も同じ事を考えていた様だ…見事に声がハモった。
「アレだけ怯えてるんだ…どうにかしないと多分戦闘中パーティの足を引っ張る…コレから先もずっとあの状態なら、とてもじゃないが迷宮区に連れて行けないだろうな…と言うか、フィールドに行ってもヤバそうだけど…」
「何か対策は浮かぶかい?」
「そう言われても…戦い方を見ないと何ともな…最低限戦えるなら何とかなる…怖い理由は、言ってしまえば分からないからだ…だから未知な事象を潰せば良い…モンスターを見慣れて対処法さえ頭に入っているなら、恐怖は多少薄れるものさ…最も、無理な奴は残念ながらどうやっても無理だけど。」
「中々辛辣だね…」
「人の命が懸かってる…俺も適当な事は言えない。」
「彼女は仲間がいるから何とか生きて来たタイプに見えるけど、戦力外通告…出せるかい?」
「別に攻略に参加する事がこの世界での役割じゃない…非戦闘員でも出来る事は有るんだよ。ま、それを勧めるかどうかもあいつ次第になるけど…もしあの状態から奮起出来るなら、あいつきっと強くなるぞ。」
「臆病な人ほど危険には敏感だったりするしね…」
「この世界に職業システムは無いけど、例えば…スカウトは天職だったりするかもな。」
「…この場合は斥候の意味で合ってるかな?」
「ああ。この手のゲームには偵察の出来る奴は重宝されるぞ…このゲームなんて特にそうだ。」
「それは…何故だい?」
「…βテスト時代もそうだったけど…ボスはその辺にいるモンスターとは攻撃パターンがまるで違う。全く予想も着かない攻撃をされる事が結構有った…その時先に身体を張って威力偵察してくれる奴がいたら、その後の戦いが楽になるんだよ…もちろん、危険な役割だけどな。」
「彼女に向いてるとは…思えないんだけど…」
「別にやるかやらないかはあいつ次第だ、他にも安全な仕事は有るさ…ん?戻って来たな。」
キリト君の示した方を見ると彼らがこっちに手を振りながら走って来る所だった…さて、ハッキリ言って前途多難な予感しかしないんだけど…まぁ何とかなるだろう……正直、そう思わないとやってられないよ…