「えと、それでどうだったかな…?」
キリト君が殿を務め、僕が先導する形で何とか撤退した後…ケイタ君がそう聞いて来る…
……不安そうに聞いて来る辺り、自分たちに問題が有るのは分かってるみたいだが…その目の奥に僅かばかりの期待が有るのが見て取れる…正直、僕の見立てに間違いは無いだろう…茅場晶彦、アスナ君にキリト君…コミュニケーション能力に明らかに難が有るパートナーとそれなりに長く付き合って来たんだ…それに比べれば彼は素直な方だと言える(アスナ君の場合は半分八つ当たりに近い勢いで僕を嫌ってるだけだからまた違うだろうけど)
恐らく、第三者に彼は言って貰いたいのだ…今はまだまだ未熟だが磨けば光る、と。自分たちには見込みが有ると…そう言って欲しいのだ。
だが世の中そんなに甘くは無いし、言葉に毒が混じっても根は優しいキリト君がそんな事は言わないだろう…彼は敏い…中途半端に甘い言葉を吐いてやれば彼らは簡単に堕落の一途を辿り、最後は破滅する事が分かっている筈だ。
結局彼は僕にも言った通り彼らに厳しい言葉をかけるだろう…そう思っていた所…彼から予想外の言葉が出て来て、僕は当てが外れる事になる…
「…先ず聞くけど、お前らの中にテスターは居ないんだな?」
「うん、そうだけど…」
「じゃあ、お前らにソードスキルの使い方を教えたのは誰だ?」
「え…?それは…」
彼の歯切れが悪くなる…思っていた展開にならず、こっちも困惑してるけど…取り敢えずフォローは入れないと駄目だね…
「ケイタ君、その人はリアルの知り合いかい?」
「…いえ、違いますけど…」
キリト君からはタメ口でも良いと言われたけど、やはり僕に対する口調は硬い…まぁこの場合はキリト君の言葉が詰問してる人間のそれだからかもしれないけどね…
「…なら、プレイヤーネームを出してもそこまで問題にはならないと思うよ?…最もその人から口止めされたとか、他に君にどうしても言いたくない事情が有るとかなら無理に言わなくても良いけど。」
「…いえ、大丈夫です…分かりました。その、クラインって人なんですけど…」
「!…本当に、そいつは…クラインと…言ったのか…?」
「えと…そう、だけど…」
「キリト君?」
彼の方を見てみれば身体は少し震えていて、顔色も悪い…と言うか、表情自体かなり苦しげだ…
「…ごめん、ちょっと待っててくれるかな?」
「え?はい、分かりました…」
「すまないね…」
僕はキリト君の手を引いて彼らの元から一旦離れた。
「…大丈夫かい?」
「ああ…」
取り敢えずキリト君を適当な木陰に座らせ、彼が落ち着いたのを見計らって声を掛けた。
「クラインと言うのはベータテストの時の知り合い…いや、もしかして初日に言っていた君がはじまりの街に置いて来てしまったと言うプレイヤーの事かな?」
「!…何で、分かった?」
「君の反応を見て当たりを付けた。そろそろ君に付き合う時間も長くなって来たからね…」
この世界では基本的に感情が顔に出やすい…彼はそれを分かっているせいか出来るだけポーカーフェイスを心掛けている様だけど…さっきも言った通り僕も彼との付き合いが長くなって来たし、そうでなくても今のは読みやすかった。
…つまり、それだけ今の彼は脆いって事だろう。
「…凄い人なんだろうね、初心者だったのに習ったばかりの知識を他のプレイヤーに還元して最低限戦える様に育てたんだから。」
「…ああ…本当にあいつは強いよ、俺なんかよりずっと…」
「見捨てた様な言い方してたけど、近況を知れて良かったじゃないか。少なくともその人は逞しく生きている…きっと、今この瞬間も。」
「ああ…そうだな…」
「だから君は凹んでる場合じゃない…きっとその人は何れ君と同じ所まで上ってくる…」
「そう、だな…」
「戻ろうか、キリト君…今は彼らの事をどうにかしなきゃならない。」
「ああ。」
……後に彼にかけたこの言葉が実現し、本当にクラインと言うプレイヤーがキリト君に会いに来るなんて僕も予想だにしてなかった…話が進まないから、あくまで彼を立ち直らせる為に適当な事を言っただけのつもりだったんだけどね…