フィールドに出る前に一旦足を止めて…フレンドメッセージ機能を使ってキリト君にメッセージを送る事にする…コレは事前にフレンド登録した相手がフィールドや迷宮区にいない限りはリアルタイムにメッセージで送れる、と言う便利な機能だ……拠点にしている場所も同じで、何だかんだ一緒にいる事の多い彼にメッセージを送るのは初めてだけどね…
"サチさんがフィールドに出た!今から追い掛ける!"
焦って何度も打ち間違えながらも何とかそれだけ打つ事が出来た……PCや携帯で送れる電子メールの様に件名とか色々項目が有った気がするけど今は知ったこっちゃ無い!伝われば良い!
すぐに返事が返って来た…メニューを操作してメッセージを開く…
"はぁ!?あんた何で止めないんだよ!?"
"そう言われても!こっちが止める間も無く出て行っちゃったんだ! "
こっちが返事を出してすぐにまた返信が来る。
"取り敢えずあんたはサチを探してくれ!こっちも今から行く!"
"でも仮に合流出来ても場所は!?フィールドではメッセージが送れないから座標を伝えられない!"
"あんた馬鹿か!?本当に製作側の人間かよ!?フレンド登録したプレイヤーは互いに位置情報を確認出来るんだよ!もうメッセージ送らなくて良いから早く追い掛けろ!見つからなくなるぞ!?"
……そんな機能が有るならフレンド登録の時に言って欲しかった…は、僕が言ってはいけない言葉だね…とにかく今は急いで追い掛けないと!
無駄に広いフィールドを駆け回る…さすがに迷宮区には行ってないと思いたい…っ!いた!
フレンジーボアに睨まれ、腰を抜かしているサチさん…幸い今は一体しか居ないとは言え、よりによって想定出来る中でも最悪のシチュエーション! っ!アレは!?
「不味い!」
後ろ足を地面に擦り付けてる!アレは確か突進の前動作だ!
「させるか!」
咄嗟に腰に着けているポーチから投擲用の針状のソレ…所謂ピックを掴む。
「(練習もろくにしてないが仕方無い…)くっ…当たれ!」
基本の動作だけは一度試した事のあるそれは…投剣の初期スキルの〈シングルシュート〉…発動させた…後は当たってさえくれれば…!良し!
「ハハ…僕の運も案外捨てたもんじゃないな!」
ちょうど走り出そうとしたのか、後ろ足の動きを止めたフレンジーボアの目にピックは寸分の狂いも無く突き刺さった…危なかった…もし他の場所だったら…きっと刺さりもしなかっただろうね…
悲鳴を挙げて横倒しになり、のたうち回る猪に背中から抜いたアニールブレードでソードスキルを発動し、消滅したのを見届けてからサチさんの前に立つ。
「サチさん?」
「っ…?」
「あー…今はその体勢のままで良いから、取り敢えず目を開けてくれるかな?君は…まだ死んでないよ?」
「私…生きてる…?」
「うん、まぁ危なかったけどね…」
フレンド登録やパーティー登録した訳じゃないから彼女のHPは見れないけど…全く減って無い、って事も無い筈だ…
「落ち着いたなら帰ろう。皆心配している「私、お荷物なんですよね…?」…え?」
「皆口に出さないけど…私、分かってたんです…モンスターが怖くて怖くて…震えてるだけの私は…何の役にも立って無いって…」
「サチさん… 」
「私…もう逃げたいんです…こんな…怖い世界から…私は…何も出来無いし…」
成程…強くなりたいんじゃなくて…ただの自殺志願だったのか…
「サチさん…僕もキリト君も…きっと彼らも…君がお荷物だなんて思っていないよ?」
「え…?」
「君には…君にしか出来無い役割が有る…ソレを全うする事で君は彼らに貢献出来る…」
「私にしか…出来無い…事…」
「帰ろう。さっきはその説明をする筈だったんだ…さ、立って…!サチさん、やっぱりもう少しそのままでいてくれ…!」
「え…?なん「良いから!Mobがポップする!出来るだけ身を低く!」!…ヒッ!?」
ちょうど僕たちを囲む様に光の大群が上がり…フレンジーボアが次々に現れる…くそっ!前言撤回だ!何で僕はこう運が悪いんだ!?いや!コレもこのゲームを作ったあいつのせいだ茅場晶彦ォォォォォ!…ふぅ。この場で叫んだらサチさんが怖がるからね…とは言え何れは外に出さないとストレスで可笑しくなりそうだよ…と、それより!
「サチさんHPはどれくらい残ってる!?」
「え!?えと「あ~もう!どっちでも良いや!取り敢えずコレ!早く飲んで!」え!?あっ、ありがとうございま「礼は良いからそのまま!座ってて!」はっ、はい! 」
やはり僕もさすがに限界だったのか、思わず彼女に強い口調で叫んでしまう…てかもうポーションが今彼女に渡した一本しか無いじゃないか…さっき彼らに会う前に補充しておくべきだった…!本当に僕は何をやってるんだ!?大体、身を低くしたところで彼女へのダメージをそこまで減らせるとは思えない!いっそ逃げろとでも指示した方が良かったんじゃないのか!?
「っ!しまった!?」
気付くともう猪の内の一体が目の前にいた…一体だけ?同士討ちにならない様に工夫した…?誰だよ、学習なんてする…こんな高度なAIフィールドにいる様な雑魚に搭載したのは!?
「くそっ!…ぐふっ!?」
どちらにしても後ろにサチさんが居るから躱す選択肢は取れない!へし折られる可能性が頭に浮かび、咄嗟に剣を背中の鞘にしまって、腕を交差して受け止めたが駄目だった…そのまま僕は突進を食らって吹っ飛ばされ、宙に浮く…!
「がはっ!ゲホッ…痛…くは無いけど結構辛…いな…!」
地面に叩き付けられた衝撃で咳き込む…錯覚だ!この世界の僕は呼吸なんてしてない筈なんだ!
「ふざけるなよ!?お前の相手は…僕だろ!?」
視界から消えた僕を無視して、サチさんに狙いを付けようとしているクソ猪に拾った小石を〈シングルシュート〉を発動してぶつける!
「ハッ…そうだ!僕だけを見てろ!」
猪が僕の方を向く…当たり所が悪かったのか知らないが、今のでHPは中間域まで一気に減っていた…良いさ、赤くなるまで問題無い…ポーションが無いから間違ってもこれ以上喰らえないけどね…
「ほら!かかって来いよこのクソ猪!」
こんなの僕のキャラじゃない…ここに来る前…いや、昔の僕ならそもそもサチさんを追い掛けたりもしない筈だ…
「本当に…いつから僕はこんなに面倒見が良くなったんだろうね…こんなの何の得もしないって言うのにさ…」
ただ、何故だろうね…悪い気はしない…少なくとも今は、ね…
「人間様を嘗めちゃいけないよ?イノシシ君?君に…人の怖さって奴を教えてあげるよ…」
心の内にいるのだろう…いつもの冷静な自分が僕の吐いた言葉に驚くのが分かる…僕だって怖くない訳じゃ無い…本当はこの場でいっそ震えて蹲りたいくらいに怖い!…でも、僕の身体はそうしなかった…ちゃんと動く…そして今なら…ハッキリと見える!
「本当に見た目通りの猪だねぇ…君は…ほら、突っ込んで来るだけなら…きっと猿でも避けれるよ?」
「グァァ!?」
うん、今のは不思議と困惑してる様に聞こえた…何も僕は特別な事はしちゃいない…奴の突進を当たる直前で身体を横に少しズラして避けて、奴が通り過ぎる直前に身体を戻し、ソードスキルを発動して横っ腹を斬りつけてやっただけ。いつもは躱して、そのまま斬りつけてやったりするくらいだし、何ならこんなにギリギリの距離で避けたりしないけどね…
「弱いな…」
ソードスキルを発動したお陰か、その場で猪は消えて行く…何だ…大した事無い…コレなら何の問題も無いね。
「いっそ纏めてかかって来なよ…それで勝てるなら、だけどね…今…何故か僕は凄く身体の調子が良いんだ…せっかくだし遊んであげるよ。」
人の言葉が分かる設定にはしてないんだろうけど、右手の剣を手で弄びつつ…左手の人差し指と中指を突き出して、軽くクイクイと曲げてやれば挑発されてるのは分かった様で奴らは一斉に向かって来た…困ったなぁ…こんな…キャラ崩壊なんてして…後で黒歴史になりそうな気がするのに…今僕の口角は上がってるみたいだ…
「あー…最高だ…!」
今、僕は…本当に楽しくて楽しくて…どうしようも無いんだ…!