「…ん…っ…知ってる天井、だね…」
僕は目を開けた…途端に目に入って来る光に目を細めれば、光はすぐに輪郭を帯びて行き…やがて見慣れた光景が目に入って来た…
「そこは普通…知らない天井、じゃないのか?」
横から声が聞こえ、そちらに視線をやると…床に足を投げ出して、欠伸をしている小柄な姿が有った。
「よう…良く眠れたか?」
「お陰様でね。」
特別悪夢なんかも無く…久しぶりにそれなりに長く寝た、と言う実感が有った。
「そりゃ良かったな、あんた結局数時間寝てたからな…」
「そんなにかい?」
「ああ…んで、様子を見る役として俺がこの部屋に一緒に泊まった訳…まぁ途中で俺も寝ちまったけどな。」
「サチさんは…?」
「…その様子だと…ちゃんと直前までの記憶は有るって事で良いんだな?」
「……ああ、覚えているよ。」
サチさんを見付けて、フレンジーボアに襲われそうになったのを救出…その直後にフレンジーボアが大量POPしてその場から動けなくなった事……途中、自分でも頭の痛くなる様な言動や動きをしてたけど、一応最後の一体になるまではサチさんを守り切り、直後に何故かその場に倒れて身体がまともに動かなくなり焦ってた所にキリト君が駆け付けてくれた事…ソレに安心してそのまま意識を保てなくなり、眠ってしまった事…うん、ちゃんと全部覚えてるね…
戦ってる最中の僕のはっちゃけた姿を思うと、仮想世界には無いはずの頭痛を感じて仕方無いけど…残念ながら、真実の記憶の様だ…
「…で、まぁ分かってるとは思うが…俺が辿り着けた時にはあんたはもう倒れる直前でさ…具体的に何があったのかは分からないから、一応説明して貰えるか?」
「……それ、彼らにも話すのかい?」
僕の脳裏にケイタ君たちの顔が浮かぶ…
「そりゃあ、な…仲間が死にかけたんだ、状況を何も話さないって訳にも行かないだろ?……フィールドに出たのは俺の言い方が悪かったのも原因だろうしな…」
「ふぅ…しょうがない、か。分かった、話すよ…」
こうして冷静になって、改めて考えたらアレは…キャラ崩壊とかそんな物で到底済ませられる気はしない…あまり話したくは…無いんだけどね…
「成程な…で、アンタは自分のその…変貌を気にしてる訳か…」
「うん…僕もあそこまでの狂気を抱えてるとは…正直思って無かったからね…」
戦ってる最中…僕が自分で発した、あまりにも狂った笑いが…今も耳から離れない…
「別に良いんじゃないか?」
「え?」
唐突に彼からそんな事を言われて面食らう…と、同時に彼が吹き出した…
「ククク…いや、悪い…そうだな…だからさ、そんな深刻に考えなくて良いんじゃないか?人は大なり小なり心に色々抱えてるもんらしいし…別にそれだけがあんたの本質じゃないだろ?」
「本質?」
「例えば…茅場晶彦の代わりにメディアに出た、ユーモアの有る知的なゲームクリエイターとしての…世間が良く知る姿のあんた…茅場晶彦にこき使われ、最愛の人を奪われて…奴が死んだ今でも憎み続けてるあんた…俺の良く知る、今もこうして間抜け面を晒してるあんた…そして今回そうなった様に狂気に身を委ね、哄笑を上げながら敵を斬り刻むあんた…結局それは全部、あんたそのものなんじゃないか?」
「君は…アレも…僕だと言うのかい…?」
「冷静になったらその場の雰囲気に飲まれた自分って否定したくなったりするよな…でも、結局それだって自分だ…何せ良く聞く多重人格とかと違って、そうなった記憶はハッキリ有るんだ……違うか?」
本当に…僕から見れば彼は子供なのに…こうして教わる事の方が多い気がするよ…もちろん僕が教えないといけない場面は確かに有るけどね…
「そうだね、アレも…僕なんだろうね…」
「まぁ…このゲームでは嫌われる性質だろうけどな…それが自分に向いたら…とか考えるプレイヤー多いだろうし…」
それは…確かにそうだね…
「じゃあその部分だけは…彼らには省くかい?」
「その方が良いだろうが、問題が有るな…」
「問題?」
「サチだ。俺が来た時は気絶してたけど…実際あんたの戦いを何処まで見ていたか…分からない…」
「ああ、確かに…」
怖がりな彼女の事だ、もし…あの時の僕の姿を見ていたなら…きっとトラウマになってるだろうね…
「…そろそろ夜明けだ…色々考える時間は必要だろうし昼には取り敢えず全員集まる様に話を纏めてある…あんたは一応もう少し休め…俺は先に下に降りる…他のプレイヤーが集まる頃にはメッセージ飛ばすから、アラームセットしとけよ?」
そう言って彼は床から立ち上がり、部屋を出て行った。