妖精王のSAO   作:三和

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無機質なアラーム音が耳の奥で微かに聞こえ、意識が覚醒して行くにつれてその音は大きくなって行く…

 

「ハァ…」

 

…溜め息を吐きながらも上体を起こし、ぼやけた視界の中目を凝らしながらメニュー画面を操作してアラームを止めた。

 

…溜め息こそ吐いたが特別疲れは感じない。寧ろ寝過ぎたか?とすら感じている…でも、それ以上に些か気が重い。

 

……この後サチさんに会うんだよな…あー…面倒臭い…こちらの事情をある程度知ってるキリト君は良い…彼自身も受け入れてくれたしね…ただ、彼らにも…もちろんサチさんにも僕の素性を詳しく話す事は出来無い…

 

つまり、仮にアレが後天的で…そもそもストレスによる一時的な豹変だったとしても…彼らには生来の物で確信的で有る…そう説明するしか無いのだ…明確な理由無くストレスで一時的な物だと説明しても僕の事を知らない彼らに…『だけど一時的な物で一切の心配は無い』…などと、安易に言う事は出来無い…

 

それなら僕自身、自分が元々そうである事を把握しているが制御は出来ている…と言った方がまだ説得力は有るだろう…幸い、やってる事は狂人そのものだったけどその標的はあくまでモンスターだけで、恐らく追い詰められ無い限りはそう出ない筈だ……と言うかアレ1回こっきりの可能性も十分に有る…

 

キャラじゃないし、認めるのこそ癪だけどストレス解消に繋がったのは確かだ…その証拠にこうしてきっちり睡眠も取れ、気分もそれなりにスッキリしている…僕が気にしてるのはこの後…彼らに会って説明しないといけない事だけだ…

 

「全く、いつからだろうね…こんなに他人に気を遣う様になったのは…」

 

子供の頃は……それなりに我を通したと薄らとだが記憶に有る…それでも周りに友人とは決して言えないが人が集まって来た事も有った…まぁ僕は言葉巧みに彼らを言いくるめて顎で使う事の方が多かった様な気がする…我ながら嫌な子供だったね…

 

とは言え、如何に要領の良い自分を誇ろうが時を経て行くごとに僕なんて易々と超えて来る奴はいた…幸い、元々地頭も良かったから努力して実力で踏み付けた事も有れば…何なら周りを上手く扱って『排除』した事だって有る……でもそんな僕もあの男…茅場晶彦にはどうやっても勝てなかった…初めて好きになった女性すら奪われた…完全なる敗北とこの上無い屈辱を味わった…だがそれ以上に…奴の姿に僕と似た物を感じていた…

 

一見誰にでも分け隔て無く、愛想良く振舞うあいつに…僕とはまた違った確かな悪辣さを感じ取った…まぁあいつの場合、僕の様に損得を計算してるんじゃないし、元々他人には本当は一切興味も無く…おまけに相当ワガママな奴なんだと見ている内に気付いた。

 

……ライバル視どころかほとんど憎悪している男と同じ様に振る舞うのは癪だった…そもそも奴の代わりでしか無いとは言え、メディアに顔を出す以上…僕の性格はどう考えても不味かった…だから多くの人間に気に入られ易い様、奴の様に表面上人当たりの良い演技をした…裏で何かをするのも出来るだけ控えた…

 

そう…全ては演技だった…子供の頃やった様に人を操りやすい様、仮面を着ける時間が今までよりほんのちょっぴり長くなっただけ……その筈、だったんだけどなぁ…何だかここに来てからずっと…僕は元々の自分のキャラに合わない行動ばかりを取っている気がするよ…そりゃ、確かにストレスも溜まって来るか…

 

「ん?」

 

電子音が耳に届き、僕は取り留めの無い考えを打ち切る…メッセージだ…僕はメニューを操作してメッセージを開いた。

 

"起きてるか?"

 

キリト君からだ…僕は返事を送った。

 

"ああ、起きてるよ…これから下に降りる"

 

メニューを閉じ、軽く伸びをしてベッドの横の机に有った眼鏡を掛けてベッドから立ち上がった。

 

「ま、なる様になるか…」

 

ストレスは溜まるだろうけど…それでも仮面が当分外れないのならとことん演じてみるのも悪くない…それはきっと…あいつが死んでから、このゲームに来るまでの生きながら死んでいる様な…あの下らない時間よりはきっと楽しくなるに違いない。

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