「アルベリヒ!」
「やぁキリト君、思ったより早かったね。」
あれから二時間程経ち、宿の部屋で寛いでいた僕の元にキリト君がやって来た。
「人任せにして逃げやがって…!」
「…いや、元々サチさんから相談を受けたのは君じゃないか…君にアドバイスはしたし、あれ以上僕の役目なんて無いと思うけど?」
「う…確かに、そうだけどさ…」
もちろん、仮にもしサチさんが僕の所に来る様なら…僕は普通にサチさんに助言していた。ま、最もいくら命の恩人と言えど…サチさんの様なタイプが僕の様な得体の知れない男の元に大事な相談に来るなんて相当に確率の低い話にはなるだろうけど。
結局相手が異性になるのは変わらないとは言え…相談の内容が内容だけに、サチさんがキリト君を選ぶのは予想出来た事と言える……だからと言って、僕がキリト君に手を貸さないとならない理由は別に無い筈だ。
「キリト君、覚えておくと良い…人に協力させたいなら先ずは何らかの魅力的なメリットを提示するか…あるいは協力しない事でデメリットが発生する可能性を挙げる事が効果的だよ。」
「……あんた、ここに来るまで何して生きて来たんだ?」
「ん?別にそこまで大それた事は僕はしちゃいないさ。」
寧ろそこまで来るとあの男の方が得意分野で有ったと言える……ま、あいつは自分が捕まる様なヘマはしない。こう言う時あの見せ掛けの姿に宿るカリスマって言うのが非常に役に立つ…ま、僕が来てからはあいつは何もしようとしないから何度か名前を使わせて貰った…最近のゲームの知識の無い僕のプレゼン力が低くても、あいつの名前を出すだけで大抵の奴は従うんだよね……脱線した。
「ま、それはともかく…やけに戻って来るのが早かったけど…結局彼女と話は出来たのかい?」
「…ま、何とかな…全く、異性とあんなに長く話したのは久しぶりだったよ…」
……?
「リアルの事を聞くのはご法度だとは思うけど…母親は?」
「分かってるなら聞くな……色々有ったんだよ…」
……好奇心の赴くまま疑問を口に出したけど、正直彼のリアルにそこまで興味は無い…まぁ言いたくないなら別に良いか。それにしても…
「歳もそれ程離れてない相手と少し会話するだけでそんなに疲れてたら…これから色々大変だよ?」
「煩いな、余計なお世話だ。大体…あんたはどうなんだよ?」
「…別に?ビジネスの話に男も女も無いからね、そんな事気にしてたら社会人やってられないよ。」
ま、もちろんプライベートな会話に関しては性別問わず得意だとは言わないけど。 何せ"友人"は…茅場晶彦の死後、部屋に引きこもった僕に誰一人会いに来なかったんだから…最も僕から一々連絡する気も無かったけど。要するに学生時代と違って、大人になったら自分は結局利用されてるだけだと言うのは皆ちゃんと分かるわけだ。……その辺を僕が理解出来る様になったのは僕以上にワガママで協調性の無いあいつに出会ったからと言うのも…何とも皮肉な話だけど。
「ま、これ以上は僕から言う事じゃないね…」
「……正直、あんたは茅場晶彦に関わってなきゃもう少しマシな人生だったんじゃないか?」
「それ以上考えるのは無駄だね、もしもの話に意味は無いから。」
もちろん実際そう考えた事が無かったと言えば嘘にはなる…あいつの下に居るのは何だかんだ退屈はしないけどストレスは溜まるんだ…いっそ今すぐにあいつを殺してやろうかと何度も何度も考えてしまうくらいには……どちらにせよ、奴への負けん気と断った事で発生する僕への不利益…それを考えた時、僕に奴の誘いを断る選択肢は浮かんで来なかった……今はあの時無理矢理にでも断っておけば良かったと…後悔は少ししている…
「ハァ…まぁ良いや…取り敢えず俺は部屋に居るから、何か有ったらメッセージ飛ばしてくれ。」
「了解…じゃ、明日また…」
「ああ。」