妖精王のSAO   作:三和

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そしてアスナ君が出て行ってどれくらい経ったのか…いつの間にかベッドに腰掛けたまま、うとうとしていたらしい僕は部屋のドアがノックされる音で目を覚ます…時間を確認すれば既に午後の五時…言ってしまえば夕方も過ぎて、そろそろ夜の帳も降りて来る時間か…

 

…そんな事を考えてる間もノックの音は止まない。僕は溜め息を吐きながらドアの方まで向かう。

 

「……誰かな?」

 

……SAOのシステム上、宿のドアはノックや声掛けを実際にして初めて外の物音や声がドアの向こうの空間に届く様になっており、更に中の人間が応対の声を上げない限り中の音は外には聞こえない事になっている。

 

まぁキリト君曰く…それでも例外は有るらしいが、その時はあくまで雑談をしていて…話の流れでたまたまキリト君が口にしただけの上、その後は敵がPOPした為続きは聞けなかったからその例外についての話は分からないままだ…まぁ別に僕に盗聴の趣味は無いから、改めて聞く気は無いけどね。…何処かまだ寝ぼけ気味の頭で、そんな事を考えながら僕はドアに向かって声を掛けた。

 

『僕だよ、コペルだ…』

 

「……コペル君?」

 

これはまた珍しいお客さん…そう言って良いのかな?

 

「何か用かい?」

 

『その…ちょっと相談したい事が…』

 

相談ねぇ…

 

「分かった、今鍵を開けるよ。」

 

 

 

ちょうどさっきアスナ君と話した時の様に…僕がベッドに座り、コペル君が椅子に座って二人向かい合う形になる。

 

「…で、相談とは何かな?」

 

「…例の月夜の黒猫団の皆の育成、僕にも手伝わせて欲しいと思って…」

 

へぇ…彼が何を考えてそう言ってきたかは分からないけど、僕たち二人だけだとそれなりに苦労しそうな予感は有ったから、正直彼が加わってくれるなら中々に心強い…何より彼は僕やキリト君と違い、盾を使う正統派の片手剣使いだ。

 

もうとにかく見てて危なっかしい上、既に有る程度自分の武器の扱いを身体に染み込ませてしまっている彼らを片手剣使いに転向させる以上…彼の様なベータテスト時代から片手剣を使って来ただろう人間が加わってくれるのは本当に素直にありがたいと感じる…ただ…

 

「ふむ、僕としては君が加わるのは大賛成だよ。実を言うとね、もし彼らが僕らにこれからの事を委ねてくれるなら…寧ろこっちから君にお願いしようとも思っていたんだよ。…でもちょっと良いかな? 」

 

「何、でしょうか…?」

 

「……先ず僕は別に君に怒ってる訳じゃないし、こんな所で一々年齢差を持ち出す気は無い、僕に敬語は要らないよ。」

 

最初にコペル君に会った時…彼はキリト君だけでなく、明らかに歳上な僕にもかなりラフに声を掛けて来ている…彼なりに思う所が有るのは分かるけど…正直、今更敬語を使われても違和感しか感じないんだよね…

 

「そっ、か…じゃあ分かった…普通に話すよ。で、何かな?」

 

「…何故それを僕に相談しに?そこだけが分からない。」

 

仮に僕とキリト君の間に上下関係が有るとすれば、少なくとも彼からはリーダーはキリト君に見えるんじゃないだろうか。ここ最近こそ、割と面倒臭がりな彼の代わりに僕が発言したりなんて事も多かった気はするけど、少なくともコペル君に初めて会った時は…まだ決定権はキリト君に有った様に見える気がするんだけどな…

 

「…いや、実を言うとキリトの所にはもう行ったんだ…そしたら…『アルベリヒの許可が有れば別に良い』…って、そう言われたから…」

 

キリト君…君と言う奴は本当に…

 

「あー…じゃあ分かった。彼からの許可も有るなら僕からも別に文句は無い…と言うよりさっきも言った通り、僕個人としては素直に歓迎するよ。」

 

「…うん、ありがとう…と言うか実はコレが本題って訳でも無くて…」

 

「ん?他にも何か有るのかい?」

 

「…一応今のも相談の一つなんだけど、キリトからは『ま、アイツなら間違い無く許可は出るから問題無いだろ。けど、もう一つの方は正直俺に言われてもなぁ…それこそアルベリヒに相談しろよ…ほら、明らかアイツの方が人生経験豊富そうだろ?』…って言われて…」

 

本当に!本当に君って奴は…!何かもう…面倒な事は全部僕に押し付けたら良いとか思ってないか…!?……ハァ…仕方無いな…

 

「…うん、まぁわざわざ来たんだし…聞くだけは聞くよ…で、何かな?」

 

「……彼らの育成が終わったら、僕ははじまりの街まで戻って、今も街に留まってる…テスターじゃないプレイヤーの育成に回ろうかと思ってるんだ…それで、意見を聞きたいんだけど…」

 

……正直、もうそこまで決めてて僕からは何て言えば良いのかと思う…まぁまだ踏ん切りは着いて無い様だけど。

 

「何かな?」

 

「…どうだろう?僕が行っても良いのかな…?」

 

抽象的だが、言いたい事は何となく分かる…僕からは厳しい言葉を掛ける事にはなるが…自分でここまで口にしたんだ、覚悟は有るんだろう…

 

「嘗て、同じテスターで有る僕たちすら君は騙して殺そうとした…」

 

彼の身体が一瞬だけビクッと震えたのは見逃さない…だけど彼は俯いたりもせず真っ直ぐ僕の方を見詰めている…僕は今、それなりに冷たい目線を向けているつもりは有る…目は逸らさない…先ずは合格かな?

 

……と言うか、面倒な役目を押し付けられたと感じてる割に…僕はどうしてちゃんと仕事をしてるんだろうね…

 

「君としては…何も知らないビギナーを導く自信は無い…何より、また魔が差すんじゃないか…そう感じている…」

 

僕だって開発メンバーの一人では有ったけどこのゲームに関して把握出来ている事は少ない…何よりゲーム自体は本当にかなり昔にやったきりで…このゲームのベータテストにも参加はしておらず…ハッキリ言ってこの世界に来た当初の僕はビギナーとそう変わりは無い…仮にキリト君より先にコペル君に出会っていたら…僕はコペル君に殺されていたのかも知れないね…

 

とは言え、そこについてもそこまで思う所は無い…生きていれば報復もするかも知れないが…死が確定してしまえば僕に出来る事は無いんだ…何より、元々僕は特に生きる目的も無い状態でここにログインしている…当初口にした"僕を閉じ込めた茅場晶彦との決着"は結局は後付けに過ぎない…何より奴はもう死んでいるんだ、遊びでは無くてもゲームでは有るこの世界で、恐らく実体では無い奴と仮に決着を着けれたとしても…特別僕が満足感を得る事は無いだろう…

 

だから…案外死ぬ事になれば僕自身は手を下した者に感謝の念すら抱いていた可能性すら有って……脱線してしまった。

 

「何より…今更テスターの自分が戻っても"彼ら"が受け入れてくれるかは分からない…正直、怖くて堪らない……そんな所かな?」

 

驚いた顔をするコペル君が目の前に居るが、特別不思議な事じゃない…彼の立場や、ちょうどさっき来ていたアスナ君の僕への態度を加味すれば想像の着く事でも有る……昔なら分からなかったかも知れないけど、ね…何処ぞのクソ野郎の顔が浮かんで来て、舌打ちしそうになったが何とか堪えた。

 

「…うん、大体合ってるかな…それで、正直どう思うかな?」

 

「どう思うと言われてもね…例えば余程の聖人君子でも無い限り、仮にチャンスさえ有れば悪事に走るのは最早人の性とも言えるんだ…何より君は一度はやろうとした…たまたま実行のチャンスが潰れただけで、考えてしまったのは事実だよね?」

 

あの時は無かった事にして流した…ただ、これから彼の歩こうとしてる道を考えれば…そのままにしておく訳には行かないだろう…

 

「うん、そうだね…」

 

「君の心掛け次第で、とはならない…この世界には現実の法は存在しない…誘惑は何処に行っても有るだろう…何よりこうして語っている僕ですら、そうならない自信なんて無いからね…」

 

と言うか、既に僕はこのデスゲームの開発者として現実では大罪人扱いだろうけど…

 

「それに、その気が無くてもそう言う扱いを受ける可能性は有る…何より見ただろう?テスターである僕たちに対するアスナ君の態度を…多分今も街から出れない彼ないし彼女たちは…アレ以上に酷い対応を君にして来るかもしれない…」

 

「うん…」

 

「……君が、これら全てを既に覚悟の上だと言うなら…僕からは特に言う事は無い。決めるのは結局君だ…進むも戻るも、ね…」

 

「うん…やっぱり、そうだよね…」

 

「申し訳無いけど現状、僕やキリト君は戻る気は無い…このまま攻略を続ける…あー…ただ、一つ頼みが有るんだけど…」

 

「何かな?」

 

「アスナ君…出来れば彼女を、はじまりの街へ連れて帰ってくれると…僕としては非常に!助かるかな…」

 

そう言うと彼のそれまでしていた真面目な顔が、苦笑に崩れる…

 

「いやぁ…それはどう考えても僕には無理かなぁ… 」

 

「だよね…」

 

彼女の性格的に今更戻れって言われても聞かないだろう…確実に僕はもちろんの事、キリト君の意見もろくに聞かないだろう事を考えると…同じ危なっかしい動きをすると言う共通点は有っても月夜の黒猫団の面々の方がまだ素直で楽な気もする…

 

「まぁ…別に今すぐ答えを出す事も無いさ、良く考える事だね。」

 

「うん、ありがとう…少し気が楽になったよ。」

 

「礼を言われる程の事をした覚えは無いけどね…」

 

僕はあくまで一般論を口にしただけだ…何より彼の悩みに対して答えは出せていない…ま、僕が答えを出して良い問題では決して無いけど。

 

そして僕は彼が部屋を出るのを見送り、ドアが閉まった所で大きな欠伸をした…うん、もう一眠りしようかな…

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