「どうして、ですか…」
「ん?」
「貴方は何で、死ぬのが怖くないんですか…向こうに帰りたいとは、思わないんですか…?」
「……正直に言うとね、全く怖くない訳じゃない。ただ、普段はまるで怖いとは思わない。それと、僕は別にリアルに帰れるかどうかについてはどっちでも良いと思っている…向こうに帰っても、別にやりたい事は何も無いからね。」
無くは無いけど…正直、実際帰ってこれたらわざわざ僕を嵌めた連中を真面目に探すとは思えない。面倒だし…まぁ、この世界で会えたなら決着は着けても良いけどね…
「やりたい事が、無い…?」
「僕からしたら…ここの方がまだまともに見えるくらい、リアルがとにかくつまらないのさ。」
仮にここで何を学ぼうと、僕はそれを活かす気は特に無い……と言うか、恐らく僕は帰還したらすぐに拘束されるだろうけどね…どうせデスゲームの首謀者だとか思われてるんだろうし。
「つまらないって…そんな…」
「君にとっては、リアルでのちょっとした日常が掛け替えの無い物なんだろう…僕にはそうじゃない、って事さ。」
あの世界に最早意味は感じられない…いっそ死んでやろうかとも思ったけど、その気力すら湧かなかった…そもそもあの世に行けた所で、彼女があいつに寄り添う姿を見せ付けられるとかなったらそれこそ発狂物だ…バカバカしいにも程が有る…まぁと言うか仮に会えても一番問題なのは、彼女はそもそも僕に大して一ミリの興味も無いだろうって事だ…彼女は結局自分の研究か、あいつにしか興味が無い…
難儀なものだよ…人生で一番欲しい物は絶対に手に入らないとは良く言うけれど、そもそも可能性が全く無い出来レースだったと考えたら改めて情けなくはなって来る…実態は勝負の土俵に立たせてすら貰えて無いから、もっと酷いけどね…
「本当に、何も無いんですか…?リアルに戻る理由…」
「無いね……最も、だからと言って他人にもそうしろと言うつもりは全く無い。当初言った通り、君が死にたくないけどそれでも生きて行く覚悟は有るのなら…僕らは出来る限りの協力はする…」
「あ…」
「誤解しない様に言っておくけど、僕は君に死を強制しているつもりは無い…ただ、それが現実だときちんと理解して欲しいってだけなんだ。」
ただ、どうしても死にたいなら勝手にしたら良いとも思う…本人に死を受け入れる覚悟が出来たと言うなら、今度は僕も助けるつもりは無い。
「さて、重い話になったけど…少しは気も紛れたかな?」
「……はい。」
……かなりモヤモヤしてる様に見えるけど、まぁこれ以上は無駄か…と言うか、僕はどうも彼女の様なタイプは苦手だよ…
……それから彼女と少し話し、明日の事も有るから、寝れなくても良いから一応横にはなった方が良いと言えば…彼女は素直に皆の方に戻って行く……さて。
「……アスナ君、それでは隠れられてない。」
店の壁の方から顔を出している人影…暗いし、多少距離も有るけど…それでも今さら彼女の姿を間違い様が無い。
「……何か、用かな?」
僕に指摘されて、こちらに近付いて来る彼女は…どうも今までとは雰囲気が違う様にも感じる…
「……一つ、貴方に確認したい事が有ります…それが間違っているなら、私は…貴方の前から姿を消します…二度と現れません。」
「僕が君の質問に答える気は無い、と言ったらどうするのかな?」
……いや、俯いて黙らないでくれ…相変わらず余裕が無いね…ふぅ…仕方無いか、ちょうど交替時刻でも有るしね…
僕はコペル君を起こし、交替を告げ…アスナ君に言われるまま皆から離れた建物の裏へ…
「……で、何の話かな?」
「ずっと、貴方に関して引っかかってる事が有りました……根拠が有る訳じゃないですけど…」
「もったいぶらなくて良い、正解なら…正解と言ってあげようじゃないか。」
彼女は深く息を吸い込み、吐く…それを何度か繰り返した…やがて…
「ふぅ…単刀直入に聞きます……アルベリヒさん、貴方は…須郷伸之なんじゃないんですか?」
確信に満ちた顔で、僕に言葉を突き付けてきた…