「あんたも中々、意地が悪いな。」
暗がりからいきなり声を掛けられてドキッとする…いや、落ち着いて考えれば聞き覚えの有る声だけど。
闇の中に目を凝らす…やがて木に背を預け、胸の前で腕を組んで立っている"彼"の姿が見えて来た。
「盗み聞きは感心しないね…キリト君。」
「クク…いや、悪い…たまたま目を覚ましたタイミングであんたがアスナに声を掛けられて離れて行くのを見たんだけどな…つい、気になっちまってさ。」
悪びれもせず、笑いながら謝る彼に溜め息を吐く…
「それで?意地が悪いと言うのはどう言う事かな?」
僕がそう言うと彼は指を二本立て、クイクイと動かす…こっちに来いって意味か…やれやれ…仕方無いな…
彼の方まで歩を進める…彼の前に着いたところで僕は口を開いた。
「…で、何かな?」
「…一応見抜いたのは確かなんだから、認めりゃ良かったじゃないか…なぁ、須郷伸之さん?」
「ふぅ…君が僕の立場だったら認めるのかい?」
「まさか。あんたも言った通り、証拠も無い疑いを認める必要なんて無い…ましてや、バレたら面倒な事になるしな…俺だって隠すさ。」
「じゃ、僕は君に責められる言われは無いな。」
「分かってるさ、言ってみただけだ。」
「……なら、この話はこれで終わりじゃないのかい?」
「そうだな…普通なら、な。」
「何か問題が有ったと?」
「……さっきの話、サチも聞いていた。」
「……本当かい?」
「ああ…あ、何で止めなかったのかとか…言われても困るぞ?俺も気付いたのは途中からだし、もう強引に止めても無駄なタイミングだったしな…まぁ、周りをちゃんと見てなかった俺が悪いと言われればそれまでだけどな。」
そう言う彼の顔はもちろん、悪いとは一ミリも思っていない顔だ…ハァ…
「……君も十分意地が悪いじゃないか。最初に僕に話し掛けて来たアスナ君の発言内容から面倒な話なのは分かっていた筈…結局の所、アスナ君との話をさっさと終わらせたいが為に周囲の確認を怠った僕に責任が有る…要はそう言いたいんだろう?」
「ああ。」
……そうしっかり頷かれると僕も何も言えないな…まぁ、確かに…正体がバレて困るのは結局僕の方だ…
「…で、どうするんだ?」
「彼女が動いた様子は?」
「……いや…街から出てった様子は無いし、仲間やコペルを起こしてさっきの話をしていれば騒ぎになってるだろうけど…今の所その様子は無い。」
「……ならどうするも何も無い、彼女が動くまで僕からは動く気は無い…第一、僕はそもそも正体がバレたからと言って…口封じをしようとかは特に考えてないからね…」
このゲームを買ったプレイヤーからの糾弾なら、それは正当な怒りだ…僕からは何も言えない…当初は死にたくないとも思ったが、正直な所…サチさんに言った通り、僕には現実世界に帰る理由が無いからな…
「ああ、そう言やあんた死にたいんだもんな?」
……僕は彼にそうはっきり口にしただろうか…いや、そもそもこの流れでその発言は少し可笑しい気もする…もしかして…
「君、サチさんとの話も聞いてたろ?」
「おっと、バレたか…」
……もうこうも悪びれる様子が無いと怒る気にもなれないね…まぁ、元々そんなに怒ってないけど。
「とにかく、今は休もう…サチさんには…彼女の方から聞いて来ない限りは僕も何も言わない。」
「……ま、あんたがそれで良いなら良いさ…好きにしろよ。」