妖精王のSAO   作:三和

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戻ろうと思い、歩き出したが…キリト君が動かない…まぁ、まだ起きてたいとかなら好きにすれば良いとも思ったけど、明らかに彼の視線が僕の背に固定されてるのが何となく分かる…溜め息を吐きつつ、僕は振り向いた。

 

「まだ何か有るのかい?」

 

「そうだな…じゃ、最後に一つ聞いても良いか?」

 

「何だい?」

 

「さっきアスナが口にした"約束"…」

 

これまた溜め息を吐かざるを得ない…彼は途中で言葉を止めているが、何を言いたいのかはさすがに分かるからね…

 

「ハァ…そうだね、僕に彼女の思い込みから来る疑いを認める必要が無い様に…彼女も自分で口にしたその約束を守る必要が無い…何故ならあれは、結局単なる彼女の一方的な宣言でしか無いからだ……そう、僕に言わせたいんだろう?」

 

彼が拍手をする……具体的な契約書すら交わさない、所謂口約束は実は元々積極的に守る必要が無い。ましてや双方に物理的なメリットが無い以上…それは契約として成り立たせる意味が無い。まぁ、外の法では口約束でも契約として扱われる可能性は有るけど…そもそもそれはここでは適用されない…そして、法が適用されない以上お互いを信用出来無いんだから…約束事には、契約書の存在が絶対となる…

 

「つまり再び、アスナがあんたの前に現れたとしても…あんたは相手せざるを得ない訳だな?」

 

「そうだね…だけど、彼女自身はしばらくそこには気付かないだろう…僕の前に現れる事は当分無い。」

 

ま、気付く前に死ぬかもしれないけど、そうなったら…結局それが彼女の運命って事だろう。

 

「ふぅ…俺は、あんたの方にアスナを見捨てる気が無いと思ってるけどな?」

 

「何故かな?」

 

「さっきのアレ…あんたはただ、アスナに自分のした宣言を確認させただけだ…命令した訳じゃない。」

 

「……さてね、少なくとももう…僕は自分から彼女を助ける気は無い。」

 

話は終わり…そう言う意味を込めて、僕は背を向けて歩き出す…まぁ、どうするのかなんて結局彼女次第だ…僕は、もう面倒を見る気は無い…後は勝手にどうにかすれば良い。……結局キリト君は、僕が離れて行ってもその場から動く様子は無かった。

 

 

 

 

「あ…どうも。」

 

「ケイタ君?……ああ、今は君の時間か。」

 

そう、最初は僕らだけで見張りをしようと思ってたけど…それでは僕らの負担が大き過ぎる…だから彼らにも見張りを担当させたんだったね…何より、何れは迷宮区や…攻略には関係無いダンジョンに彼らだけで踏み込む事も有るかもしれない…そして、そこで夜を明かすことになった時、必ず見張りを立てておく…そう言う癖を付けているのがこれから先重要になる…そう思って、割り振ったのをすっかり忘れていたよ。

 

「あの…さっきまでサチがそっちに行ってたみたいですけど…」

 

僕は彼から少し離れた所に座りながら答えた。

 

「確かに来ていたね……それで?」

 

「!…あの…」

 

敢えて拒絶の意志を込めてケイタ君に言葉を返す…うん、僕は確かに性格が悪いとは思う。まぁ、客観的に見て…クズだと言って差し支え無いだろう。ただ、それでも僕は彼を見ていると…どうにも義憤にも似た怒りに駆られる事が有る…僕のこれまで生きてきた軌跡…そこを鑑みるに、彼を今この場で糾弾してもそれは偽善にすらない…けど、やっぱり…彼に関してはどうにも腹が立つ。

 

「サチさんがどうしようと、君には何の関係も無い筈だ。」

 

「!…その…僕は「彼女の事が好き?彼女の事をずっと見て来た?ハッ…笑わせないでくれるかな?」え…?」

 

「今まで君は彼女の何を見ていたと言うんだ?彼女が…一体どれほどこの世界を恐れていたのかも知らないで?挙句に君は、HPがゼロになったら死ぬ…そう言う現実からも目を逸らして、今までこの世界の勇者の様な役割を望んで来た…そして、そんな君の事を怖々と覗き込む瞳には気付こうともしない。」

 

「僕は…」

 

「確かに僕は彼女と話をした……どんな話をしたのか、君は予想出来ると言うんだろう…ハァ…違うね、君が今それを考える事が出来るのは…君にサチさんが本音を打ち明けてくれたからだ…そうでなければ、今も君は彼女の事を誤解したままだった……違うかい?」

 

「あ…う…」

 

「初対面の僕やキリト君でも最低限察する事の出来るサインを彼女はずっと送っていた…何故、見ようともしなかったんだ?」

 

「……」

 

「簡単だ、君はこの世界での死が現実で有ると認めようとせず…ただ活躍したいとだけ願ったんだから…彼女を犠牲にする事でね。」

 

「っ!それは…!」

 

立ち上がった彼に僕は視線を向けない…このクソガキにそんな価値は無いからね…全く、これならまだサチさんの方がマシだよ…彼女は僕の苦手なタイプだし、臆病だけど…それでもちゃんと目の前の現実を見て、受け入れようと頑張っていた…恐怖と、戦おうとしていた。死生観の狂ってしまっている僕には出来無い事だ…僕は彼女に尊敬の念すら覚えるよ……まぁ、青臭いなとも…ちょっと思ってるけどね。

 

「違うのかい?なら、何故君は彼女を前線に立たせようとしたんだい?しかも盾を持たせてだ…それは、彼女に捨て石になれって意味なんだろう?」

 

「違う…違う!僕は、そんなつもりじゃ…っ!」

 

僕はそこで彼に視線を向けた。

 

「ただ活躍したい…皆からチヤホヤされたい…その為には、誰を死なせても構わない…でも、自分は死にたくない…ハッキリ言うよケイタ君…今、月夜の黒猫団と言うチームに君が一番必要無い。君がその精神を改めない限り、これから先…君は仲間を全員死なせる事になる…全く、何でこのチームは君みたいなクソ野郎をリーダーと仰ぐのか…僕には、まるで理解が出来無いよ。」

 

「あ…」

 

彼がその場に力無く座り込んだ……言葉と言う物には言霊が宿るとか言われている…要は、言葉そのものに不思議な力が有ると言う考え方の事だ…それを自由に操る事が出来れば世界全てが自分に平伏す、なんて大層な言われ方をする事も有る…最も、僕はその手の話には否定の意を表する人間だ…そもそも操れれば平伏すとは、どう言う事なのか?人間の言葉は所詮人間にしか通じず、しかもそれすら国ごとに異なる…一度日本を出れば、他国の人間に日本語は通じないのだ…そいつが俗に言うカリスマ…人を好きに動かす事の出来る魅力をふんだんに内包していた所で、言葉が通じなければ…目の前の他人を動かす事は出来無い。

 

……ただ、僕はこの考え全てを否定している訳では無い…矛盾してはいるが、言葉には確かに何らかの力は有るのかも知れない…それに、世界そのものをどうこうする事は出来無くても…強く、優しい言葉を掛ければ人を勇気付けたり出来る様に…そう、ちょうど今僕がやった様に…人一人をこうして、叩き潰す事だって出来る…

 

仮に千の暴力に耐えられても、たった一つの罵声を浴びせられるだけで…人は簡単に折れるのだ。そして、僕はこうも思っている。そんな…控え目に行ってもドン底から改めて立ち上がる事の出来る奴は…きっと、とてつもなく強いのだろうと。

 

「いつまでそこで蹲っている気かな?僕みたいなぽっと出に好き勝手言わせて良いのかい?」

 

「……」

 

「立てないなら、僕がここで首をはねても良い…でも、そうだな…そしたら…サチさんは僕の物だ。」

 

「っ!何を!?」

 

「だって君は…もう要らないんだろう?そもそも君は彼女の後ろに居て守って貰うつもりだった…そんな男に、女性を手に入れる権利なんて有るとでも?」

 

「ふざけるな!サチは…サチは!物じゃない!」

 

「ただ吠えるだけならその辺の犬にだって出来る…君の手は、足は…一体何の為に有るんだ?」

 

「クソっ…お前なんかに…お前なんかに!サチは渡さない!サチは…僕が守るんだ!」

 

「何度も言わせないでくれ…吠えるだけなら、犬にだって出来る…」

 

「くっそぉぉぉぉ!」

 

彼が走ってこっちに向かって来る…飛んで来た拳を…

 

「何だ…やれば出来るじゃないか?」

 

「くっ…!」

 

もちろん受けてやる理由は無い…それでは意味が無いからね…立ち上がり、掌で受け止めた拳に力を込める…

 

「ぐう…!」

 

「どうしたんだい?痛みは無い筈だろう?」

 

まぁ、痛みは無くても素直に気持ち悪い感覚を味わってるだろうけどね…圏内ではHPにダメージは無くても、この手の継続した攻撃に対して…ちゃんと不快感は有るのだ。

 

「ほら。」

 

「うわっ!?」

 

手を離せばその瞬間によろけて、こちらに倒れて来るケイタ君…やれやれ…先が思いやられるな…

 

「駄目だよ、敵に向かって倒れ込むなんて…」

 

その両肩を掴み、腹に膝を入れる…うん、これくらいならリアルに行ってもそのまま出来そうだ…まぁ、どうせ使う事は無いだろうけどね…

 

「はっ…ぐっ…!」

 

耐えようと頑張ってる様だけど短く漏れる苦悶の声…いや、だから止まっちゃ駄目だよ…僕が彼の肩から手を離し、彼から距離を取れば…彼はそのまま地面に倒れ込んだ。

 

「気概だけじゃ駄目だ…誰かを守るって言うのはそんなに甘い事じゃない…リアルでも難しいのに、ここじゃああっさり君が先に死んで…それで、終わる。」

 

「っ!それでも!」

 

……冷静に考えれば、昔の僕が見れば呆れる様な事をしている…いや、今も僕に対して心の中で色々言っているもう一人の自分が居たりするんだけどね……おっと、立つか。

 

「それでも!サチは僕が守る!」

 

「それは何の為にかな?」

 

「僕の為に!僕は…あいつが好きなんだ!」

 

おお…清々しいまでの自分勝手…まぁ、それでも啖呵だけなら及第点か…評価は出来ても僕の好みじゃない…こう言う熱血は元々柄じゃないし……ふぅ…やれやれ…さすがに疲れたよ…

 

「じゃ、その感覚を忘れずに…明日からも頑張って。」

 

「っ…え?」

 

「元々僕は別にサチさんを狙っては居ないから安心してくれ…ま、しばらくは少しでも君が強くなれる様…手伝いはするさ…後は勝手に頑張れば良い。」

 

そう言って僕は彼に背を向ける……歩きながら、途中…暗がりに顔を向ける…ま、君が居るのは分かってたよキリト君……ニヤニヤしないでくれ、結局似合ってないのは分かってるんだ……次に、彼から目を逸らす様に視線を別の位置にズラす……君たちがこれから先どんな答えを出すのか僕は知らないし、特に興味も無い…後は、君の好きな様にすれば良いさ。

 

この世界の仕様故に、この暗闇でもハッキリ分かるレベルで顔を真っ赤に染めてしまった少女から顔を逸らし、歩き出す……ハァ…本当に僕は何をやっているんだか…所詮、今の自分は仮面…そんな気で居たけど、これはあまりにも酷過ぎる…こんなのは僕の役割じゃない。でも、僕は自分の口元に手をやる…

 

「笑っている…」

 

確認する様に口に出す…指でなぞった口元は僅かでは有るけど、確かに弧を描いていた…少なくとも今、こんなのも悪くないと思っている自分も居る…それは間違いの無い事実と言う事だ…そうで有るなら、たまにはこんな役を演じるのも悪くは無いか。

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