「あの時、後を付けられてるのは割と直ぐに分かったよ…とは言え、あの状況のはじまりの街の近くじゃ…俺もまともに話が出来るとは思わなかったしな…リスクは高かったけど、森に入った辺りで俺から声を掛けたんだ…」
「それはまた大胆だナァ…」
「まぁ、あの時は街を出る直前に俺の方もちょっと色々有ってな…正直少しイライラもして来てたし…目的は何であれ、さっさと果たして離れてもらおうとか思ってさ……と言っても、今考えたらあの辺りって広さこそ有るけどテスター時まんまのマップ構造ならホルンカまで一本道だしな…ま、どっちみちそれならそれで、そのまま一緒に行動して貰った方が俺も精神的に楽だっただろうけど。」
「…で、事情を聞いたら普通に厄ネタが出て来た、カ…」
「…まぁ、な…」
改めてあの時の状況を思い起こす……今でこそ、俺もあいつと共に行動するのを納得はしている…してはいるが、正直…あそこで気付かないフリをしていたらあるいは…今とは違う未来が待っていたのではないかと思う…少なくとも頭の回転は早い癖に、色々と脇の甘いあいつに振り回されて胃の痛くなる様な思いはしなくて済むし…いや、駄目か…それやると最悪コペルが死ぬ可能性が高い…実際あいつに会わずにコペルに先に会った場合俺がどう思うか分からないけど…少なくとも今の俺としては、コペルが死ぬのは気分的に宜しくない……と、今はこの話は関係無かったな…
「…と言っても、別にいきなりアイツの素性が聞けた訳でも無い…ただ俺に声を掛けられた瞬間に…本人はまだ若いとは言え、それでもどう考えても歳下のガキに即座に頭下げるのにこっちは面食らったし…何なら付けていた理由に関しては"ホルンカに案内して欲しかったから"だからな…違和感を抱くには十分だったよ。」
「…このゲームは昔のゲームみたいに最初の道程を説明書とかで説明してる訳じゃ無いもんナ…普通村の名前知ってる時点で完全な初心者とは考えにくいのか…その割に、ホルンカまでの道は知らないって言い張ると…ンー…確かにそれは変ダナ…」
「ああ。いくら何でもあからさまに怪しかったからな…で、突っ込んで聞いて…後悔する羽目になったと…」
「…ン?……いや、まさか…そこから言い逃れとか無しに…アルベリヒは自分の正体を言ったのカ?」
「ああ……文字通り凄いスピードで俺の頭が回転したよ…コイツは一体今、何を言っている?仮に今言ったのが嘘だとしても、何のメリットが有る?……まぁ、深く考えるまでも無く本当に打算とか無いと言うか…まるっきり余裕が無くて後でバレて疑われるくらいなら、って感じで…コイツは、素直に本当の事を言ったんじゃないかと思った…その後自分のメニュー画面を可視化してログアウトボタンが無い所まで見せられてさ…まぁ、そこまでやられたらこっちも信じるしか無い…」
「…マァ、それだと確かにオレっちも一応信じるかナァ…」
「…もちろん、アイツに打算が無くても俺には有ったけどな…本当にアイツが制作メンバーの一人なら、何よりあの須郷伸之だって言うなら…間違い無く役に立つって…ま、すぐにアイツがこのゲームの事どころか…最近のオンラインゲームのセオリーすらろくに知らない事が分かって頭抱える羽目になるんだけどな…全く、アイツがたまたま仮想世界への適応力が高かった事、それから…ちょっとこっちが引くくらい鬱屈したモノを抱えてるって事…この二点が無きゃ、アニールブレードをゲットした時点でパーティーを解消してたよ…」
「…で、アルベリヒが抱えてるモノって言うのは何ダ?」
「…神代凛子って名前に聞き覚えは?」
「ン?アア、そりゃ知ってるヨ。新聞に出てたし、テレビのニュースにもなったからネ…茅場晶彦と一緒に死んだ女の事ダロ?」
「…アルベリヒ…いや、須郷伸之はその神代凛子って人の事がずっと好きだったらしくてな…まぁ、アイツが好きになった時からその人は茅場晶彦にゾッコンだったらしいし…結局の所完全な横恋慕の上、ろくに相手にされてなかったらしいから一人相撲も良い所だったらしいけどな…」
「…ン?そう言えば、あの事件の目撃者って確か…」
「ああ。俺もアイツに言われるまで忘れてたけど…事件の第一発見者は須郷伸之。その日は出勤して来ない茅場晶彦を迎えにアパートに行って…部屋で眠る様に息を引き取った二人を見ちまったらしい……そもそもアイツも最初から勝ち目が無いのは、分かっては居たらしい…二人は何もその日だけ一緒に居た訳じゃなくて…生活力の無い茅場晶彦を見兼ねて彼女が部屋に押し掛けて以来…半ば同棲状態の二人を…普段から職場は元より、部屋まで行って奴の世話をさせられていたせいで何度も見せ付けられていたらしいからな……まぁ、そもそも見たくないならわざわざバカ正直に…上司って以上に、特に思う所の無い筈の相手の部屋に通ってまで色々世話するなって話なんだけど…放っといたら自堕落な生活を肯定されてる茅場晶彦が部屋から出て来ないのが目に見えてたからな…行かない訳にもいかなかったらしい…」
「……」
「それでも彼女への想いは捨てられず…何より、こっちは恋敵と思ってるのに向こうは何処か煮え切らず…しかも明確に答えを返した形跡も無いのに自分に想いを寄せている相手に迷惑だけは掛ける…そんなライバルの情けない姿を何度も見せられて、それなのに何故か…それでも奴の事を見捨てられなくなって…結局最後の日までアイツは茅場晶彦の部屋に通い続けたんだ…棘が有るどころか、普通に憎くて憎くてたまらない相手とハッキリ口にしてるのに…それが話を聞いてるだけのこっちにも理解出来ちまったからな…コイツどんだけお人好しなのかと思ったよ。」
「…ナァ、キー坊?」
「ん?」
「…明確な答えを返した形跡は無いって言ったけど…二人は、本当に何も無かったのか?」
「…アイツ自身、それが罪悪感が強くなる理由になってたな…事件性の有無を確かめる為に二人の遺体は解剖に回されたらしいんだけど…残念ながら、普通に身体の関係が有ったのが確認出来たらしい…加えて、その…」
「…その、神代凛子って女は妊娠していた…そう言う事ダロ?」
「ああ。それはさすがにニュースでは言ってなかったけどな…ちなみに、当然赤ん坊の方も既に手遅れだったらしい…産婦人科の通院記録とかは見つからなかったらしいから、実は本人も気付いて無かったのかもな…あるいは、茅場晶彦に捨てられたくなくてギリギリまで見なかった事にした…って事かも知れないけどな…」
「それを、気にしてるのカ…」
「…目先の恨みに囚われず、二人の事をちゃんと見てれば止められたんじゃないか…アイツは、そう言っていたよ…尤も、悲観的な言葉が出て来たのは無意識みたいですぐに茅場晶彦への罵詈雑言に変わったけどな…」
「…キー坊、何でそんな状態で…アルベリヒはこんな所に来たんだ?」
そこで考える…アイツが言ってた事をそのまま伝えるのは簡単だ…でも、そうじゃないと思える…ただ何となく、茅場晶彦の夢の形を実際に見たくなった…多分本当はそんなに単純な話じゃない…きっと、アイツが俺にも言えてない本音がまだ有る筈…
「…きっと、現実がどうでも良くなったから…そして、茅場晶彦と須郷伸之。奴が最後の最後で夢の完成を放り投げたから…多分、実質自分が初めて認めた男との最初で最後の共同制作…その集大成を最後に見たくなったから…」
そうだろ?アルベリヒ?お前…本当は最初から茅場晶彦と言う男を誰よりも認めて、絶対に勝てない存在だと認識…いや、最早崇拝に近い想いを抱いていたんだよな?だから、今にも壊れて行きそうな自分を必死で繋ぎ止めて…この世界に、やって来たんだよな…?
「だから、アイツは今怒っている…元々茅場晶彦がそのつもりで用意していたとしても…それでも、奴が実行する事無く死んだ以上…もう計画を遂行する気持ちはほとんど無かった筈だ…だから、せめて奴が大部分を作り上げ…自分に完成を託したその世界が万人に受け入れられる姿を見ながら、一人静かに奴の死を悼んで…そして現実に戻り、全てにケリを着ける筈だった…その予定を横からしゃしゃり出て来ただけの奴らに台無しにされたから…」
なあ、アルベリヒ…このままそいつらの手の上でただ踊るだけ踊って…そして、惨めに朽ち果てる…馬鹿らしいだろ?どうせなら…生きて、決着を付けようぜ?俺も、付き合ってやるからさ…