エロゲの世界のテロリストさん 作:メンタル豆腐だから匿名
ジョニー・ロッドは死んだ。
臓器ごと腹をえぐられても、その根性でもって身体を動かし死ぬ間際まで己の使命を果たさんとしていた。
今でも手の甲には力が入ったままだ。
また腕から指先にかけてもコントロールが効いている。
本来脳が体をセーブしようと強制的に失神状態に陥らせるところを、身体はまだ生きているのだ。
偏に、彼の意思が生存本能などに打ち勝った結果と言えよう。
徐々にジョニーとしての人格が消え、記憶なども薄れていく。
同時に俺としての意識が思考を占領し始める。
故に考えたことだが、俺はかなり曖昧な存在のように思える。
俺自身の習慣や常識は認識できているのだが、どうにもここに至る――つまりジョニーに憑依する以前の記憶が読み取れないのだ。
記憶にモヤがかかるようでもどかしい。
俺が俺の素性を理解できていない。
それは果たして、俺と認識していいのだろうか、と。
俺を構成する過去が不明瞭なのに、俺を普通の人間だと捉えるところに違和感を感じる。
そうして頭を回すからこそ、この身体ももう持たないのだと感知できた。
すでに頭に血が回らず、視界がボヤけて朦朧としていることも自覚できる。
たしか外部の情報を処理する上で、一番リソースを割いているのは視覚だったか。
俺は目を閉じた。
そして耳栓の先の音を拾おうと耳を澄ました。
わざわざ集中しようと意識せずとも、頭に昇る血が足りないため自然と何も考えられなくなっていく。意識を欠く要素がまずない。
遠くの銃声や叫び声、誰かが行き交う足音に時々感じる轟音。
その中に微かにある木や草を風が抜けていく音。
頭の中に留めておいたあるワードを探すために、その寸分も逃さない。
まるで周囲の空気に溶け込むように。
俺はその場に座り込むばかりであった。
「もし。そこの生徒、止まりなさいな」
一人の生徒を見つけました。
現在、この学園は不明な組織から襲撃を受けており、その古い軍隊じみた集団戦闘から考えるに生徒たちは拘束を受けているものと考えていました。
しかしここら一帯は生徒の気配が感じられず、代わりに裏門あたりからは沢山の気配と血の匂いを感じます。
そしてこの生徒はその方向へ向かおうとしていました。
彼が探知系の【異能】を持っているとは考えられませんし、人間でないわけでもありません。
おそらく大なり小なり、私よりは事情を知っていることでしょう。
「ああ"!? ……ってアンタ特待生の――」
「――セリカ・D・ロードと申します。いえ、自己紹介よりも今は何が起きているのか教えていただけないでしょうか」
私の呼びかけに荒々しく反応したトゲトゲな髪の彼は、私を見るや否や冷静になりました。
私は彼を知りませんが、彼は別なようです。有名な自覚はありますが、ことこの場にあっては自分が情報弱者なようで悲しくなります。
「アンタも学校にテロリストが入ったのは知ってるだろ? 俺の友人がテロリストを返り討ちにしてよ、今は裏門まで押し返そうと力を合わせて戦ってんだ」
「なるほど、貴方は今駆け付けていたところで?」
「ああ、他の奴らと周りの校舎のテロリストを探して、監禁された生徒とかがいないか見て回っていたんだ。俺が余計に回ってたから遅くなっただけだが」
「そうですか。貴方もあちらに参戦なさるのですよね? 一緒に参りませんか」
「構わないぜ。むしろアンタといた方が安全だろうしな」
協力的な方で助かりました。
と、いきなり走り出してしまいました。かなり急いでいる様子ですね。
できるだけ離れないよう、私も走りましょう。
彼と併走しややあって、校舎を挟んで戦闘音が聞こえるところまで来ました。
その間ただ走るだけというのも退屈だったので彼と話をしてもみましま。
「貴方のご友人は随分と面白そうな人なのね」
「は、はい……いいっ、奴ですよぉ……」
息を切らしながらも受け答えをする精神はとても輝かしいものがある。
きっと彼のご友人も曇りない眼を持っているのでしょうね。
ここらは戦闘痕が酷く、所々に屍も落ちていたりします。
その中に生徒と思わしきものがないのは救いでしょうか。
しかし私と戦闘になったテロリスト集団といい、この屍といい【異能】どころか【魔法】を使用した痕跡もありませんね。
一方的に生徒たちに倒されていったように見えますが。
私の慧眼で見抜けないほどの隠蔽、あるいは現象が起きたのかもしれません。
そうなると背後にいる組織は一筋縄ではないでしょう。
……まさか彼らは【魔法】すらも使えないとか。
いえ、あり得ませんね。既に人間は進化を終えており、もはや【魔法】を使えない者はほとんどおりません。国によっては存在すら消しているところもありますね。
このように高度に組織化しているのに、あろうことかこの学園を襲撃など笑止千万。
テロリストが【魔法】を使えない集団と仮定しても、それこそ圧倒的上位の存在を前にして自分たちの首を絞めているも同然です。
やはり何らかの強大な勢力が――
「――ガアッ!!」
「――キャッ!!」
銃撃!?
私の索敵がある中で……ありえません!
「貴方、しっかりなさい! ……『デスサイズ』*1ッ!!」
校舎の壁、木陰からの銃撃ですね。閃光でしっかり捉えました。
ですが、ありえません。気配が全く感じられないです。
……もしやゾンビ?
……いえ、それよりも彼の治療が先でしょう。
『デスサイズ』で銃弾を跳ね返しながらの作業など造作もありません。
問題はその間に隙を突かれてなにか仕掛けられるところにありますね。
「グッ……すまねぇ、恩に切るぜ」
「喋らないでくださいまし。貴方、喉と胴を被弾していますのよ?」
胴もかなり酷い位置に被弾していますが、それ以上に喉。
首筋の大動脈から血が噴き出るばかりで、高度な治療系の【魔法】が必要なレベルです。
この場でそれは難しく、できても延命処置をするのに人手が足りません。
【異能】を用いた治療なら手早く治せますでしょうか。
「貴方を助けるのに、まずはあそこへ向かわなければなりません。そこに至るためには銃撃を止める必要があります」
「……俺は、いい。おいて行ってくれ」
「なりません。助けられる命は助けます。少しの間ここを離れますが、この布をしっかりと押さえておいて下さい」
立ち上がり、閃光の先を見据えました。
私の目にはしっかりとテロリストの姿を捉えていますが、その気配はありません。
幻覚魔法の線も疑いましたが、魔力も感知できません。
ハッキリ言って異常です。
なにより、あれからは生者の気を感じないではありませんか。
しかし私の――わらわのすべきことは、ただ一つ。
「秒で終わらせてくれる」
数十mの距離。
常人では数歩かかるところを、一瞬で詰める寄ってやる。
弱者にやってやれば、皆顔を強張らせて驚愕するが……こやつ、何て目でわらわを見据えている……。
が、関係のないこと。
『デスサイズ』を一振りして、そこらのお仲間と同じよう正真正銘の屍にするまでよ。
「ォ……ド……ス」
――まずい。
すぐに元居た位置に戻り、彼を投げ飛ばす。
重篤患者にやる仕打ちではありませんが、向こうにいる生徒たちに介抱してもらえるよう願うまでです。
それ以上に目の前で起こった出来事に目を向けねばなりません。
己の耳を瞬時に何度も疑い、しかし目の前で生じ始めている気配はそれを事実とする証拠になる他ありません。
あれはマズイ。
すぐに人のいないところに戦場を移さねば。
「■■■■■ッッ!!!」
声にもならない絶叫。
それと共に現れたのは白いローブを身に包んだ、校舎と同じくらいはあろう背丈を持つ顔の無い細身の巨人。
私はあれを知っている。
だが何故あのテロリストはあれを呼び出す術を知っている?
ましてや、あれを呼び出すのは自爆行為に等しい。
周囲の人間がその場にいれば二次災害を呼ぶ危険性すらあります。
なにはともあれ、私は武装を解きました。
あれが私に敵意を向けてきているのはあのテロリストを殺そうとしているからです。
「バカが」
テロリストの絞り出すような擦れた声が耳を掠めました。
しかし言っている意味が私には分かりません。
「誰に言っているのかは存じませんが、それを呼び出した時点でバカは貴方ですよ」
現にそれはテロリストに――え?
「敵の敵は味方、って言葉は『敵の敵』がどの位置にいるかによって使えたりしなかったりするものだ。さて、このお方の『敵』は俺だったがお前がそこに割り込んだがために『敵』がお前に変わった」
「……ですが私は武装を解いています。なのに何故、それは貴方を殺さないのですか?」
それは彼を前にして唸っている。
しかもこちらに顔を向けているのだ。
「このお方を介してのイベントで分かることだったんだが、まぁいい。
お前が【死神】の能力を使って俺を殺害しようと行動した時点で、俺に本来生じていた"死"は【死神】を通じての"死"に置き換わった。当たり前だろう、それは神の力なんだから運命だって収束するさ。
だからこのお方はお前を殺害対象とした。決定づけられたことは決定づけた者を殺して覆すんだよ。
あとお前、その口調やめたらどうだ?」
何故だ。
何故目の前のテロリストが私――わらわ以上にわらわの力を知っておる?
何故一部の者しか知りえないその存在を熟知しておる?
何故わらわが隠していることを知っておる?
「――貴様、何者だ」
テロリストがおもむろに立ち上がった。
その腹は何があったかえぐれており、しかしそこに魔力が注ぎ込まれて無理やり生かされている。
魔力の下はあの巨人――オールドデウス。
だが、男からは生者の気配はしない。
オールドデウスは第二階位*2の上位に位置する、第一階位であるわらわたちにも通ずる力を有する存在だ。
そしてその能力を経ても死は覆せないのは自明の理。
しかし問題はオールドデウス自身がそれを見分けられていないことにある。
【死神】であるわらわが「生きていない」と判別しているのだ。
なのにその強大な魔力でもってテロリストを生かそうとしている。
状況に対する行動が矛盾しているのだ。
仮にそれでテロリストから生者の気配がすれば納得はできる。
デウスの名を関する奴ならば死した者を蘇生できる可能性はあるからだ。
だがその矛盾は解かれず、オールドデウス自身がおかしい立場にあるというのだ。
「俺は俺。ただのテロリストだ」
「ほざけッ!!! 貴様がただのテロリストならばそれを呼べるはずもないし、ましてや生者の気配がせぬものかッ!!!」
「後者はお前の精度の問題だろう。もう数秒で死ぬかもしれない人間の死を正確に感知できないだろ?」
「何故……何故、何故ッ!!! どこでそれらの情報を得たのだッ!!!」
「これ以上あれこれ言う道理はないな。さて、何故このお方が静止しているか分かるか?」
こやつッ……いや、確かになぜオールドデウスは動かない?
「単純に『敵の敵』が攻撃しないから味方になり得るか迷っているんだよ。ここで俺がこのお方に無礼を働けば俺は味方になりえず殺されるし、お前が攻撃すれば問答無用でお前を攻撃し始める」
そもそもこやつ、何故先ほどからオールドデウスを『このお方』などと称しておる?
オールドデウスはその存在を認識した上で、それを強く意識しながら名前を呼ぶだけで召喚される。
そしてその召喚主を即座に殺す。
オールドデウス単体では認識できぬが、召喚主との一連のやり取りを見た時点で簡単にその存在を認識できる。
つまりはさっきの場で彼を放り投げねば、名前を聞いた場合において彼によって無自覚に召喚される危険性があるのだ。
そんな理不尽の権化を、何故『このお方』などと呼ぶ?
デウスであっても、それは邪神の類だ。
「そして俺がお前を攻撃すれば晴れて俺は味方になる、って訳だ。まぁ後で殺されるが」
テロリストの腹はえぐれている。
なのに、まるでそのハンデがないように動いているのだ。
単なるテロリストがそんなことできてたまるものか。
そんなことお構いなしに、戦闘態勢に入った。
もはや簡単に解決などできぬか。仕方ない。
「……じゃあ、行くぞ」
言っただろう、これは通せんぼだ。
このお方ことオールドデウスは古の神だ。
古とは、まだ国という概念もない頃に誰かが強く神頼みをすると神が顕現してくれる時代の事。
しかし人間はバカな生き物だから、それを利用して神を殺そうとした。
だから神は人間不信に陥り、皆殺しにせんとした。
自らの名を呼んだ偽信の者どもにしたように。
そんな神でも終盤のサブキャラの一体でしかない。
強さも【死神】こと銀髪ツインテールロリババアには劣る。
ジョニーが、ジョニーたちが望んだ復讐は叶わない。
いや、叶わなかった。
あえて俺を警戒させ、行動を制限しても叶わなかった。
「死ね」
その一言で、俺は塵芥と化した。
オールドデウスの復讐もまた、叶わずに。
消化不良とのお声をいただきましたが、続き要ります? (個人的にはこれ以上書くと復讐劇みたいになるのでオススメはしませんが、続きに繋げられる部分もあるにはあるので一応書けます) 7:3の割合以上で書こうと思います。
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続けて、どうぞ
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もうやめてくれよ…