エロゲの世界のテロリストさん   作:メンタル豆腐だから匿名

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第六話 エピローグ

「〇〇駅~〇〇駅~。お荷物のお忘れにご注意ください」

 

 ――マズイ

 

「扉ぁ閉まりまぁす」

 

 電車が走り去っていく。

 地下鉄だからか、冷えた空気に風が流れてとても心地いい。

 かといってYシャツの中までその空気が入ってくるわけでもなく、急いで降りた俺の体はしっかり蒸し暑い。

 手もしっとりしていて、握りこんでいるカバンが蒸れていくのがよく分かる。

 

 嫌な感触から逃げるように、俺は駅のホームから改札口へ移動した。

 遅れて出たからか、帰宅ラッシュの人混みは少し先にいるようで少し安心する。

 

 しかし今度は汗が冷えて少し寒くなってくる。

 もう夏になろう頃合いだが、それでも夜はまだ少し寒さが残るのだ。

 風邪は流石に引かないだろうけど、気分的に暖かくしておきたい。

 どこかコンビニでも寄ろうか。

 

 そうして駅に隣接してあるコンビニに向かう。

 俺が飲みたいものは自動販売機の『あたたかい』には置いてない。ここら辺の自動販売機のチョイスは少しばかり悪いからな。慣れっこだろうよ。

 

「合計780円になりまーす。会計はこちらでお願いしまーす。いらっしゃいやせー」

 

 夕飯時だからな、客数はまぁ多い。

 レジは全稼働で、それでも並ぶ客の列がある。

 

 入ってすぐにその光景を目にした俺は面倒くさいなぁ、なんて思いながら横へ進んで奥の飲み物の商品棚の前へ来た。

 そこで少し悩みながらも、変わらず目的の物を手に取り、俺の意思と同じように変わらない会計周りの光景を再び目にした。

 

 この手にある飲み物一本であそこに並ぶのは損している気がする。

 だってこれ買うだけにあの面倒な列に並ばなきゃならない、ってなんか違くね?

 

 ということでパンなどが陳列する商品棚の前まで来た。

 手取りは高くなく、余裕もそこまでないが別にこの程度の贅沢は問題にならない。

 そう思い財布の中身をチラ見した。

 ……問題は、ない。ないのだ。

 

 さて、コンビニのパンは悩みどころの名所だ。

 なんなら背後のおにぎり類の商品棚も負けないくらいの名所だろう。

 おそらくコンビニ側は商品の種類を計算し、統計を取った上で客が悩みそして手に取る時間の最適解を出しているのだ。

 証拠にコンビニの主食が並ぶこのコーナーは悩む人こそいすれ、そこで集団ができることはほとんどない。

 

 一分ほど悩んだ俺は、悟ったように目に付いたパンに手を伸ばした。

 

 決めてしまえばそこで終わり。

 そのまま少しばかりの人だかりを避け、列に並んだ。

 

 並んでしまえばさほど面倒に思わないのが列というものだ。

 

 スーッと列が進んでいき、前の人が商品カゴをレジに置いた頃。

 目につくはレジの横にある惣菜。ここで生まれる葛藤も計算の内か。

 暖かな点灯に照らされる揚げ物や肉まんは俺の舌を一層刺激してくる。

 それこそ俺がただ飲み物を買いに来ただけということを忘れさせるほどに。

 

「ありゃーしたー。お次の方どうぞ」

「あっ、チキから一つ貰えます?」

 

 

 


 

 

 

 大通りから建物一つ挟んである細道。

 人通りは少ないが、生活音や照明、街灯なんかで寂しい思いはしない通り。

 

 軽くなった財布に若干後悔しつつも、香ばしい匂いのした袋に心を躍らせる俺は帰宅時の日課である道草をする。

 道草といってもちょっとした中古ショップに寄るだけだ。

 

 休日ならそこで漫画を読むのもアリだ。

 しかし漫画というものは一度読むと止まらないもので、本当に暇な時でなければ立ち読みなどするべきではないと思う。

 

 まぁ今日も明日も平日なので、考慮するところではまずないな。

 それよりも中毒性マシマシな娯楽天国の一角、ゲームやパソコンコーナーを抜けた先にある魔境に俺は用があるのだ。

 俺にとってのデイリークエストといってもいい。

 クリアすると明日の気力が30%アップ。

 

 中古ショップはコンビニ同様、日が落ちてもよく明るい。

 そこに眩しさなど感じることもなく、店内に入ると馴染みの音楽と独特の空気が俺を出迎えてくれる。

 しかしコンビニと違い店内は広いため、たまに店員の「いらっしゃいませ」が飛んでこないことがある。

 ちなみに俺の場合はほとんどない。

 

 棚と棚の間、細い通路を通り抜けて行く。

 漫画を立ち読みしている男も、俺に気づいて少し道を開けてくれる。

 お互いに無言。会釈どころか目も合わせない。

 

 文字に起こせば刺々しく思えるが、それでいい。

 彼らが半ば自分の世界にのめり込んでいるのと同じように、俺もまた自分の世界にのめり込みたい。

 互いが互いを思い合っての沈黙。

 彼と俺は同志なのだ。

 

 そうして着くはカーテンのかかったこの場所。

 店員の配慮か、店の隅に、周りにはあまり売れなさそうなものを陳列してある。

 そんなこの場所はカーテンからの入場を除いて壁で囲まれている。

 そのカーテンを潜っていざ入場。

 

 一面に広がるは、やたら肌色の多いこの空間。

 その名を、エロゲーコーナー。

 

 俺の人生が詰まったここに訪れるのは生き甲斐と言っても差し支えない。

 この時間帯はここに訪れる者もほとんどおらず、また俺も一人であるため実質個室のような状況になる。そこで独り言をブツブツと呟くのがここでの日課だった。

 

 え、気持ち悪いって?

 皆だってモニターの前で呟いたり感情を出したりするだろ。

 それと同じだろうよ。

 

 品揃えはほとんど変わらず同じであるが、ジャンルは豊富。

 また壁沿いには予約の類に関するものが設置されており、その高額かつ購買意欲をそそる内容に苦悩するのも必然。

 既に手にしてある作品も懐かしさを感じられるものだ。なお積みゲーは度外視である。やはり隅にあるが運命なのだ。

 

 毎日来ようが飽きない。

 中年になろうが、いつだって味わえる味わったことのない青春。

 そんな架空に飾られた楽園がここだろう。

 

 だからこそ目立った。

 

 俺の楽園にぽっかりと空いた穴が。

 

「なんだこの作品」

 

 デジャヴとでも言おうか。

 

 紛うことなき二次元的概念でしかないエロゲが己の人間性に侵略してきている感覚に襲われる。

 すっかり一大ジャンルになった異世界モノなんかではない。

 影響するはずがない、理性面での俺に対する何らかの侵食。

 

 エロゲの物語に感情移入をしても、理性的なところでその影響を受ける者はまずいないだろう。

 ここでいう理性的とはつまり、自身の財産や地位、外的な信用などである。感じやすく例えるなら、昨夜プレイしたエロゲ主人公に感化されても職場での業務に影響をきたすことはないという感じか。

 例えそんな異常をきたす人間がいたとしても、生き物の有する様々な欲や人生経験、習慣など様々な要因でもって本来の形から歪められるのは必然的。

 

 しかし今、俺はそんな理性的なところに異常をきたした。

 手に取る前からあった違和感は、手に取ってからは徐々に深く刺さって行くナイフに変わり、俺の根幹に向かって行っている。

 正体は分からないが、ハッキリと歪むこともなく俺の中に侵食してきているのだ。

 

 なんなのだこれは。

 以前手にした記憶も、その後に売った記憶もある。

 だが、肝心の内容はどうにも思い出せない。

 

 その強烈な特異性と、何故か記憶が欠落していることに知的好奇心が湧き、そのままレジへ足を運んだ。

 この時の俺は数刻前のような汗をかいていた。

 

 

 


 

 

 

 住宅街の少し奥地にあるマンションの一室。

 一般的な家賃に一般的な広さと設備の整ったここに帰宅するや否や、俺は汗による不快感も忘れてパソコンの電源を点けた。

 起動時には上着やネクタイ、ベルトに靴下を脱ぎ捨てて、冷蔵庫の中から軽い食べ物と飲み物を出す。

 起動後は購入したエロゲのパッケージからディスクを取り出し、それを外付けドライブに読み込ませる。

 

 俺の心臓は今か今か、と鼓動を鳴らしていた。

 

 すぐに読み込みが終わるとインストールを開始した。

 ここでも俺の心臓はどんどん高鳴っていく。

 少しばかり苦しいくらいだった。

 

 そしてついにインストールも終わった。

 すかさず、俺はexeファイルをダブルクリックする。

 

 最初に会社名が映るのは定番だ。

 そこでヒロインが会社名を読み上げてくれるのも。

 

 だからかーー

 

「オエェッ」

 

 ーー俺はモニターの前で胃の中の物を床にぶち撒けた。

 

 同時に頭痛と動悸が俺を襲い、膝から力が抜け落ちて四つん這いの体勢になった。

 頭がなにが起きているのか理解できず、ますます吐き気が増すばかりだ。

 

 それは怒りか殺意か、あるいは恐怖とも取れる。いや罪悪感か。

 とにかく頭の中は俺の今の顔くらいにグチャグチャで、何がどうしてこうなっているかも未だ理解できぬ状態にある。

 

 ただ、一つ言えることがあった。

 モニターに映っているであろうヒロインは見たくなかった。

 いや、心ではむしろ見なければならないと思っているようだが、身体が顔を、頭を上げることを拒否しているのだ。

 

 見なければ分からない、もどかしさを解決できない。

 しかし見ればこれ以上の症状が出ると確信がある。

 その妙な確信に対する疑問すらも、やはり見なければ分からないのだろう。

 

 ややあって、俺は意を決して顔を上げた。

 部屋の明かりがチカチカして煩いが、それでも耐えた。

 

「ーーッアア゛!!」

 

 瞬間、今までに経験したことのないような痛みが頭を走った。

 千本の針が脳みそを掻き回しているみたいな。

 

 ーーいや、俺はこの痛みを知っている。

 

 気付けば、頭の痛みや身体の不調などすっかり抜けていた。

 身体が感覚器官の不安定さに驚いているようだが、俺の思考は驚くくらいに冷静だった。

 それこそ床の吐瀉物を汚らしく感じられるほどに。

 

 いや、そうじゃないだろ。

 顔を下げてはダメだ。

 

 俺は再び顔を上げ、モニターを見据える。

 そこに映るのは普通のエロゲのタイトル画面。ヒロインたちが集まっていて、そして『スタート』や『コンテニュー』などの基本的な要素が揃っているのだ。

 いつもの画面。いつもの光景。

 何度も繰り返したゲーム。

 

 そんなただのタイトル画面に、俺は嫌悪した。

 

 それは酷く冒涜的であった。

 

 可愛らしくデザインされ、上手く配置されたタイトル画面のイラスト。

 そこに映る売女どもは全員が人殺しだ。

 

 相手がテロリストだろうが理性のある異形だろうが、お構いなしに”倒す”化け物ども。

 そして周りが血みどろだろうと主人公に擦り寄る淫乱なブタだ。

 

 このポップな背景の裏にはどれだけの血肉が積み上げられていることか。

 

 俺は再び吐き気を催した。

 今度はタイトル画面が要因ではない。

 

 思い返したからだ。

 

 俺はまだ成人もしていない、兵士ですらないこの可愛らしいヒロインたちに、躊躇いもなく銃口を向けていた。何の疑問も持たずに殺そうとしていた。

 その自身の狂気に向き合えず、また胃から逆流してくる。

 そして今もその狂気が垣間見えているのだ。

 

 自然と己の左手が、俺の脇腹を掴んだ。

 記憶に強く刻み込まれていた腹の空洞は、今は埋まっている。

 なによりもそのことに安心を覚えた。

 

 だって俺は俺だったのだ。

 腹を抉られて死んだのはジョニーであって俺ではない。

 

 電車の中で寝て、起きる間の夢を、あたかも本当に経験した事実のように捉えている今であるからこそ、そこに縋り付くしかない。

 あれが本当の出来事なら、俺はそこで死んでいる。

 でも俺は生きている。

 

 そこが境界線だ。

 

 今俺が抱いている感性はジョニーという存在から由来するものであって俺のものではない。そこを同一視してはならないのだ。

 どうにか上手く区別を付けなければ。

 どうにかこの感性を修正しなければ。

 

 胃酸を飲み込み、吐き気を堪えて椅子に座り込む。

 一度深呼吸をして頭と身体とを落ち着かせた。

 

 もうこのエロゲを起動する必要はないだろう。

 俺の好奇心は一応は満たされ、疑問も解消された。

 全てを思い出して、全てを受け入れる。

 

 俺は、俺なんだ。

 

 

 


 

 

 

『速報です。ーー県ーー市で警察官を人質に取った立て篭もり事件が発生している模様です』

 

『こちらが現場となるマンションのようです。敷地の周りには沢山の機動隊員が配置されており、警察車両が何台も並んでおります。また、警察官が人質に取られたということもあってか、我々報道関係者も迂闊に建物に近づけないようになっております』

 

『犯人の男の動機などは不明ですが、近隣住人の話によると令状を持った警察官が数名男を訪ねていたようで、玄関を開けると共に何らかの体術で瞬時に中に引き込んだ、とのことです。発砲音なども確認されており、被害を受けた警察官の安否が気になるところです。現場からは以上です』

 

 

 


 

 

 

『ーー県で起きた立て篭もり事件に関する続報です。警察の発表によりますと、犯人はーー ーー ーー歳、無職。事件発生の前々日にーー株式会社に対しサイバー攻撃を行った疑いがあるとして家宅捜索を行おうと四名の警察官が訪ねたところ犯行に合ったようです。犯人は人質を解放する見返りとして車両一台と化学薬品を要求しているとのことで、警察は慎重に対応していきたいと話しております』

 

『こちら現場です。犯人は依然として立て篭もりを続けており、警察の呼びかけにも一切応じておりません。また警察からの食糧提供なども受け付けず、犯人は事前に準備し計画していたものと思われますーーあっ、今警察の特殊部隊と思わしき集団が犯人の住まいに突入しようとしています!』

 

 

 


 

 

 

511:風吹けば名無し@転載禁止

 今調べたけどーー株式会社ってエロゲ作ってる会社だろwww

 害悪オタクキモすぎワロタwww

 

512:風吹けば名無し@転載禁止

 エロゲ会社にサイバー攻撃で人生オワタww\(^o^)/

 

513:風吹けば名無し@転載禁止

 四十近い無職引き篭もり童貞が犯罪は救いようがない

 

514:風吹けば名無し@転載禁止

 存在価値無しじゃん。早く殺せよ

 

515:風吹けば名無し@転載禁止

 特殊部隊キターー(゚∀゚)ーー!

 

516:風吹けば名無し@転載禁止

 犯人のグロ画像はよ

 

 

 

 


 

 

 

『ええ、今警察の特殊部隊と思わしき集団が犯人宅に突入をーー発砲、発砲しましたッ! 特殊部隊が発砲しておりまーーえ?』

 

 

 


 

 

 

546:風吹けば名無し@転載禁止

 特殊部隊押し返されてね?

 

547:風吹けば名無し@転載禁止

 犯人の動きがアクション映画のそれなんだがw

 

548:風吹けば名無し@転載禁止

 いやいや、スパイ映画じゃねえんだからよ

 

 

 


 

 

 

 

『現在、犯人が特殊部隊から強奪した銃を乱射しております! これ以上の中継は危険と判断しましたので現場から避難しようと思います!』

 

 

 


 

 

 

……………………

 

 

 

…………

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 今日も電車に揺られて帰宅中。

 いつも俺のことを注視しているスーツの男は、座っている俺の目の前に立っている。

 コイツが握る握り皮はいつもギシギシいっていて不快だ。

 

 俺は知ってるんだぜ。

 テメェの空いてる片手はいつも強張っていて、いざという時は上着の中に隠してある拳銃を抜こうと画策してるんだよな。

 

 しかしこのガタンガタン、という音と共にくる揺れはよく俺を眠りに誘うのだ。

 

 立っているテメェは座っている俺に対して優位だと錯覚してるみたいだが、手から脚の距離が近いのは俺で故に、先手を打って体勢をすぐに崩せるのも俺だ。

 

 目的の駅まではまだ遠いだろう。

 

 少し眠るのもいいかもしれない。

 

 そう思い俺は一度、瞼を落とした。

消化不良とのお声をいただきましたが、続き要ります? (個人的にはこれ以上書くと復讐劇みたいになるのでオススメはしませんが、続きに繋げられる部分もあるにはあるので一応書けます) 7:3の割合以上で書こうと思います。

  • 続けて、どうぞ
  • もうやめてくれよ…
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