2000年の12月31日。
春日一番にとって全てが変わった日。
…もし、人生をやり直せるならという暇潰しでしか考えぬもしもがあったとして、春日一番は間違いなくこの日からと答える。
自分と若…荒川組と東城会、その全ての運命の歯車がずれたあの日をもしやり直せるなら…そう思った事が無いとは決して言えない。
もし、もし今やり直せるならばもっと上手くやれる…なんて嘘でも言えはしない。
東城会は愚か関西近江連合、果ては日本の政界まで巻き込んだこの絵図を全て理解しているなどと嘯ける程に一番はのぼせていない。
そう、絵図の完成形と道具を知っているだけで一番はその絵図がどうなれば良いのかという理想もどうすればその絵図を変えられるのかという手段も知らない。
なんなら、やり直して必ずしも事態が好転するとも限らない。
下手に動けば事態がもっと混迷する可能性だってあるだろう。
今回の一件で一番は一体何度命を失いかけたかわからない。
なら、やり直したとして…再び自分が死なないと言えるのか?
「いよっっっしゃぁぁあああ!!!日頃の行いって奴か!!?
いや、フツーに夢見てるだけとか…?いや!なんでも構わねぇ!!もっぺん若と親っさんに会えんなら夢でも奇跡でもオカルトでも関係ねぇ!!今度こそ!若と親っさんは俺が守る!!!」
と、常人ならば悩んだり自身の一挙手一投足を躊躇うであろうこの状況で…春日一番は叫ぶように歓喜した。
今の状況がなんだとかそれら一切を理解不能であるが不都合では無いと一蹴して家族の為にと燃え上がる…春日一番とはそういう人間であった。
「ミツ!!俺ぁ今から若んトコ行ってくる!こうしちゃいらんねぇ、待ってて下さいよ若ぁ!春日一番、ただいま参ります!!」
「へ!?ちょ、ちょっと待って下さいよ兄貴!!さっき言ったじゃないっすか!このキリトリまで失敗しましたじゃ沢城のカシラに殺されちまいますよ!?」
「止めんじゃねぇ!!俺ぁ今度こそ若と親っさんを!!」
今にも走り去らんとする一番を引き留めようと安村が縋り付くも縋り付いた安村ごと引き摺って駆け出す一番。
しかし、その一番の前に筋骨隆々の男…平塚が立ちはだかる。
「お前ら借金取りだな?悪いが返せる金はねぇんだ。
引き取って…」
「邪魔だぁぁぁああ!!」
一番と安村の会話を断片的に聞いた平塚は二人を借金取りと断定し帰って貰おうと声をかけた。
自身の体躯で少し威圧してやれば帰るだろうと踏んだ平塚だった…が、平塚に誤算があるとすれば彼の前に居るは普通の借金取りのような下っ端のチンピラ非ず。
かの伝説の龍が認め、暗殺者一族の一人が龍を継ぐに相応しいとまで評価した男であった事だろう。
一番は安村を引き摺ったままに右腕を廻し勢いをつけるとそのまま平塚を殴り飛ばした。
一番のパンチを頬に受けた平塚は風に吹かれた羽のように吹き飛び地面で数回バウンドまでして漸くその威力を消費しきり停止する。
「……っ!??あ、兄貴って…ここまで喧嘩強かったんでしたっけ…?」
眼の前で軽く数メートルは吹き飛んだ平塚を見ながら殴り飛ばした張本人である一番をドン引きしながら見遣るも現状を受け入れられず安村が手を離してしまった際に既に走り去ってしまいもうどこに行ったかも解らなかった。
「……一応、シノギはこれでオッケーだよな…」
白目を剥いて倒れる平塚から財布を抜き取ると安村は呆然と呟いた。
「今行きますっ!!若ぁぁぁああ!!!」
そう叫びながら神室町の通り爆走する一番。異人町のドラゴンカートにて磨かれたドリフトと回避のセンスを遺憾なく発揮したその走りは下手な原付きよりも速かった。
〜♪〜♪
駆け回る一番のポケットが音と共に震える。
「ん!?電話…若からか!!
…沢城のカシラ…?なんだ一体??
はい、もしもし一番です!」
『ほぉ…お前にしては珍しく2回以内に出たな。
お前、ひょっとしてまだ地回りしてんのか?』
「いえ!シノギも終わったんで若の元へ走ってます!!
もう一分もありゃ着くんで電話切っていいですか!?」
『あ?…なんだイチ、お前年末だからってえらく気が利くじゃねぇか。
ま、俺に対する口の利き方はそれに免じてやる…さっさと行け、若がお待ちだ!』
「へい!ありがとうございます!!」
『あとわかってると思うが、変な場所に出入りすんじゃねぇぞ。若にもしもの事がありゃあ…』
「カシラ、若の事なら心配ありません。
若は俺が命にかえても御守りします。」
『……当たり前の事言ってんじゃねぇ、バカ野郎が。』
電話が切られたと同時に一番は荒川真斗のマンションの前に到着していた。
自動ドアが開く間も惜しいと足踏みする一番はフロントまで駆けていくとホテルの従業員に詰め寄る。
「若!!…いや荒川真斗さんは…!?」
「本日はまだお見えになっておりませんが。」
「そうっすか…」
その返答に一番が肩を落としていると近くのエレベーターのドアが開き中から一人の男が出てくる。
黒髪をオールバックに撫で付け、質のいいスーツとネックレスをした車椅子の男。
見紛える筈も無い。
この人物こそ、一番にとって大切な家族であり憎むべき仇であり共に歩むべき兄弟…荒川真斗であった。
「若……若だ、へへへ…ホントに若が…若、若…
若ぁぁぁあああ!!!」
しかし、一番に恨みなど無い。有るのは再び会えた歓喜のみ。
一番は大粒の涙を流しながら真斗に縋り付いた。
「!!?ばっ…お前、何してんだイチ!こんな所で何考えてんだお前!?」
「若ぁぁぁ!!すんません!俺が不甲斐ないばっかりに…若ぁぁぁ!!!」
「おい!お前…いい加減にしねぇと…っ!」
瞬間、真斗は気付く…自身に向けられている目線に。
フロントに居た家族連れからの好奇の目。子供が父親に何をしているかでも尋ねているのだろう…そしてそれに困り顔を浮かべる父親と何故かこちらを見ながらガッツポーズをして興奮気味の母親。
人一倍周囲の目に敏感な真斗だからこそその視線に気付いてしまう…そして、それに耐えられない。
「イチ!!とにかく離れろ!テメェ!俺は男に抱き着かれて喜ぶ趣味なんか無ぇぞ!!」
「嫌です!!いくら若の頼みと言えどこればっかりは聞けません!!この手ぇ離したら…また若がどっか行っちまうんじゃねぇかって…俺、俺!!」
「行かねぇよ!!どこにも行かねぇから離れろ!!」
無理矢理に一番を引き剥がそうと試みるも一番の万力が如き腕力にまるで歯が立たずせめてスーツが汚れないようにと一番の顔を両手で押しのけながら真斗は叫ぶ。
もう既に先程の家族は父親が子供の目を両手で覆っているし母親は携帯でバンバン写真を撮っている。
「イチ!!頼むから離してくれって!!」
「若ぁぁぁ!!俺ぁ今度こそ若と親っさんを必ず御守りしてみせます!!」
「わかった!!わかったから!!!」
遡行した龍魚は未だ自身の望む未来を描けない
されど、その顔は離れ離れとなった家族に会えた…迷子の幼子のようで、幸せそうなものであった。
ざっくり人物紹介
春日一番
龍が如く7の主人公にして如くシリーズ屈指の聖人。
兄さんがダンプでぶっ込みをかました事で有名なソープランド桃源郷にて産まれ、店長である春日次郎に育てられる。
その後父である次郎の死により荒れるが紆余曲折あり東城会の3次組織荒川組の組長荒川真澄に救われ自身も荒川組に入る。
龍が如く7のストーリーは荒川組の沢城丈を庇って一番が服役する事から始まる…が今回はそうならない。
底抜けに明るい性格で高校中退とは思えないレスバの強さを持つ。
また、7本編では如くシリーズの象徴であった桐生ちゃんとは似ているようで対照的な性格で何事にも巻き込まれる事が多かった桐生ちゃんと違い率先して関わりに行く姿勢をみせた。
自身を助けてくれた荒川真澄に途轍もない恩義を感じており彼に拳銃で撃たれた後でもこの世で最も尊敬する人物であると言い切る程であった。
ちなみに、サブストーリーで会社経営を行い横浜一の大企業の社長となっていたりする。ついでに会社の金で衛星兵器まで造ってる
今回はあらゆる技能を極め自身を鍛え抜いた状態で逆行した。
ゲーム的に言えばレベルカンスト全ジョブレベルマックスのアルティメット春日一番。
荒川真斗
龍が如く7のラスボス。
不器用な男が多い如くシリーズのラスボスの例に漏れず不器用な男。
産まれた頃からあらゆるモノに手が届き望むがままに育てられたが自身の持つものではなく、また下半身に障害を抱えていた為に自信を持つことも出来ず周囲への劣等感やらをハチャメチャに拗らせていた。
7本編では残念な事に直前に即死攻撃をぶっ放す天童と戦う為滅茶苦茶弱く感じる。
頭脳タイプで戦闘は専門外だったのだろう。
本編ではサテライトレーザー喰らってもピンピンしてた癖にモブに刺されて死んでしまう。
一番の事はなんだかんだ憎からず思っていた模様。
二話まで書いたので後は誰か書いて下さい。