「ふむ…儂の負けか、思ったよりやるのう。」
「…それは皮肉か、爺さん?」
俺は今、朝から押し掛けてきた爺さんの相手を務めていた…
「そんな事は無いぞ?儂は純粋にお前の実力を認めておるんじゃがな?」
「…置き石が五つで勝った気になるかよ。」
囲碁には実力を均等にする為、事前に弱い方が先にいくつかの石を置いて良いというルールが…んなもんどうでも良いな。
「ところでだ、まさかあんた、朝から囲碁をする為にこんな所まで来たのか?」
「……中々相手を務められる者がおらんくてのう。」
「俺より強い奴なら「儂の周りは現状は若い者ばかり、碁のルールすら分からん者ばかりでな」…あんたが暇なのは分かるが、俺はこれでも忙しいんだがな…」
「何、ついでに仕事を持って来ておる。」
「……仕事がついでかよ。まあ良い、そういう話なら…チッ、茶が切れたな「はい。」…叢雲。」
「お茶くらい言ってくれれば入れるわよ?」
「…さっきまでは仕事じゃなかったんだから頼める訳ねぇだろうが。」
「別に気にしなくても良いんだけど…と言うか、上官の相手なら仕事みたいな物じゃない?」
「ふぅ…まあ良いわ、礼は言っておくぜ。」
「…だから気にしなくて良いわよ…それじゃ、何かあったら呼んで。」
そう言って叢雲が執務室を出て行く。
「…良く出来た秘書艦じゃの。」
「…スカウトは成り行きだったがな…それで仕事ってのは?」
「ふむ…ま、仕事と言うよりは相談みたいな物じゃが「勿体ぶらなくて良い…下っ端以下の俺にはそれでも仕事だ」そう急かすな…ほれ、先ずはこれを見てくれ…」
「…こいつは地図か……なぁ爺さん、この海が色分けされてんのは…」
「それは今の、我々の勢力図じゃよ。」
「…て、事は青く色分けされてんのが、俺たち人類が取り戻した海域で、赤が…」
「奴ら…深海棲艦の支配区域…と思われる海域を示しておる。」
「…把握し切れてねぇんだな…これだけの広さなら当たり前か…」
俺はほとんど全てが赤く塗り潰された地図を見る…やべぇな…
「…聞くがよ、海外の連中とは連絡取れてんのか?」
「…通信が出来無くなってから随分経つのう…」
「じゃあ、日本以外はそもそもどうなってるか分かんねぇ訳か。」
「うむ。」
俺は地図を机の上に放った。
「…で、相談ってのは?」
「現在、我々が取り戻せている海域はこの僅かの範囲のみじゃ。」
爺さんが地図の日本の部分を円を描く様に地図の上を指でなぞり囲む…つーか、本当に周りだけだな…
「…んで?」
俺は煙草に火をつけながら続きを促した。
「…最近、資源の量が芳しくない。」
「…つまり現在取り戻せてる海域から回収出来る資源が少なくなって来てると、そう言いたい訳か…成程、一大事だな。」
俺は艦娘を海に出せていないが、ウチの鎮守府は現在物資の支援を受けている状態なので、決して他人事では無い。
「…だから、新たにこのルートに沿って、ある鎮守府から艦娘を派遣する案が出ておるんじゃ。」
そう言ってまた指を走らせる。
「…要はアメリカさんと連絡取りたいのか?」
「そういう事じゃ…。」
「…大国に助けて貰う気満々だな、誰の案だ?」
ま、名前言われたって分からねぇだろうが。
「とある幹部のな「何でこんな案が通った?」…そやつの親がな…」
「…成程な。」
七光りか。何処も一緒だな。
「…で、どう思う?」
「そいつが俺への相談か?…どうもこうもねぇよ…やりゃ良いじゃねぇか、それで失敗したらそいつの責任だろ?」
「…いや、責任はこの作戦を任された司令官に全て降りかかるじゃろう…」
「…あんたはそれを回避したいのか?」
「さすがに不憫でのう…」
「そこの艦娘の練度は?」
「…まだ駆け出しじゃ。」
「俺が言う事じゃねぇが、何だこのふざけた作戦…実際にやる奴にとっては完全にいじめじゃねぇか…つーかこれ、無理に回避してもそいつの立場は良くならないぜ?」
「じゃろうな…」
……良し。
「一個思い付いた。」
「ほう?」
「先ずだ、見てみろこの範囲…こんなの往復して来るの自体一苦労だぞ?補給は必須だな?」
「そうじゃな…」
「そいつの所だけで賄う事は出来るのか?」
「…だいぶ物資を削られていてのう。」
相当疎まれてんな、そいつ…
「じゃあ、決まりだ。ウチで補給物資を運んでやる。」
「…出来るのか?」
「出来ねぇ事は口にしねぇよ。」
「…ならば任せよう。儂の権限でここの艦娘を海に出られる様にする。」
「頼むぜ?」
……これがこの鎮守府の初のまともな仕事になった。