寮に行く前に鎮守府内のトイレに向かっておく。…艦娘には未だ俺に反感のある連中も少なくないので、寮のトイレは使えん…まぁそもそも男子トイレなんて用意もしてないだろうが。
で、問題は…
「あのなぁ…お前ずっとその状態で見回りするつもりか…?」
「っ…」
今回の一件でトラウマを刺激する可能性が有る事と、恐らく純粋に"幽霊"が怖いんだろう叢雲が今もこうして俺の手を掴んだままである事だ…今のコイツを連れて見回りする事自体不安しか無いが…今はそれ以前の問題が有る…
「一旦手を離してくれ、俺はトイレに行きたいだけだ…まさかついて来るつもりじゃねぇだろ?」
「……」
普段の職務中に席を外してもここまで取り乱さない上、夜中寝てる時に一緒にいた俺が布団から出ても起きてしまうくらいでこんな泣きそうな顔する事はねぇんだけどな…(まぁ…いない間どうしてるのかは知らんが)
結局叢雲はトイレのドアの前まではきっちりついて来た…やれやれだ、本当に…
「ハァ…」
中に入ると遂に溜め息が出てしまった…叢雲の事も有るが…このトイレについても問題が有る…
「何で襲撃時の状況そのままなんだよ…」
口から愚痴が零れ出る…最初に来た時からこの状態だし、今更文句も無いつもりだったが…これからする事と今の時間を思えば、な。
何をどうしたらこの状態になるのか…トイレの個室は四つ用意された内、二つはドアが外れて床に落ちたままであり…小便器に至っては同じく四つ有る内奥に有る一つ以外の三つが壁から外れた上に床に落ちている…
「半端に修繕しないできちんと直して欲しいもんだぜ…全く。」
個室はドアが外れたのも含めてちゃんと水は流れる…奥の小便器もしっかり水は出る…使えるっちゃ使えるけどな…
「さっさと済ますとするか…」
廃墟の様相を呈す、このトイレで用を足す事について愚痴が出る以上の嫌悪感は今更特に無い…何せ俺はここで過ごすしか無いんだからな…
用を済まして手を洗い、トイレから出るとお世辞にも明るいとは言えない廊下で人影が俺に駆け寄って来る…
「…待ったか?」
「…別に…待ってなんて…ないわ…」
もちろん叢雲だ…口では待ってないなんて事を言ってるが、いつもの弁の立つ叢雲にしては言葉にまるでキレが無い…
「…行くぞ。」
そう言うと特に何も言わずにまた俺の手を掴む…正直こんなのがくっ付いてると幽霊に対する恐怖など引っ込む…何せ別の意味で不安だからな…
歩きながら腕時計に目を落とせばそろそろ11時になる所…しばらくは寮で粘る気ではいるが3時にはここに戻って来るつもりだ…解決出来るかは別として会えるなら今日会ってはおきたい…最も、本当に幽霊かも分からない訳だがな。