「…と言うか、何であんた入り口に有ったスリッパ履かないのよ…」
「バーカ。夜中に来客有るなんて先ずねぇし…そもそも頭数居る寮だと頻繁に掃除する羽目になるから、邪魔になる来客用のスリッパを普段から床に置きっ放しにはしねぇだろ。」
俺はそう言って一旦足を止め、今叢雲の履いているスリッパに光を当てる…
「え…?あ、ホントだ…名前書いてある…」
叢雲が今履いているそのスリッパには…残念ながらしっかりと「如月」と書かれている…きさらぎ…睦月型の二番艦だったか…つか、俺はやっぱり自分の所の艦娘をろくに把握してねぇな…最も顔合わせれば何となくウチの艦娘か、余所者なのかは分かる自信は有るがな…
「つっても、普通は部屋の中か、あるいは部屋のドアの前に有る筈なんだけどな…外に出るなら靴に履き替える時にさっきの靴箱にしまうんだろうけどよ。…つかお前…その場で何も気にせず履いてたが…ここに来た事有るんなら、来客用のスリッパが何処に有るか位は分かるんじゃねぇのか?」
等間隔に並び、積み上がる蓋付きの箱…それに名前の書いた紙がくっ付いてるのを通り過ぎる時横目で確認したのを思い出しながら叢雲に聞いた(てか、相変わらずウチに確実にいた奴かどうか…名前見ただけじゃ分かんねぇのが自分でも情けなくなるな…)
「…来た事は有るわよ、加賀さんもここに居るから……でも、そう言えば…いつもは廊下にいた艦娘の誰かに加賀さん呼んでもらって…部屋から出て来た加賀さんにスリッパも出して貰うから…」
…案内を期待してたのに、正直余りにも頼りない答えが返って来た。…まぁ寮ってなると大抵一人部屋か、二人部屋なんかの違いは有っても結局は個人の部屋だからどうせ今回は入れんし、これから見回りするってなると…せいぜいトイレとか風呂場…それ以外だと例えば、洗濯物を干す為の中庭への扉とか部屋以外の場所が確認出来れば良いけどな。
「…まぁ良い、トイレと風呂場の場所位は分かんだろ?」
「それは…まぁ…」
「ならとっとと案内してくれ。」
「それは良いんだけど…このスリッパ、結局私がこのまま履いてて良いのかしら…?」
「もう履いちまったんだから仕方ねぇだろ…わざわざ置きに戻…」
そこで俺は言葉を止めた…何だ…?何か違和感が有る…
「何よ、どうしたの?」
「いや…」
俺は振り向き、先程通り過ぎた靴箱を照らす…木製で蓋の着いたソレを見詰める…この距離だと分からねぇな…
「…なっ、何か居るの…?」
「……」
怯えた叢雲の手を引く様にして俺は靴箱まで向かう。
「ちょ、ちょっと!?何処行くのよ!?」
「デカい声出すな、すぐそこだ…」
廊下はシンと静まり返り、人の声は愚か…俺たち以外の足音は聞こえない…今日も相変わらず仕事は無かったのに、やけに艦娘たちの眠りが深いな…そんな事を考えながら俺は靴箱の前に立つ…
「……」
「…私には靴箱が並んでる様にしか見えないんだけど…あんたは…もしかして何か見えてるの…?」
「…安心しな、俺の目にも蓋付きの木製の箱が積み上がって並んでる様にしか見えねぇよ。」
別に俺に霊感は無い…筈だ…実際、今だって別に幽霊が見えてるとかじゃねぇ。
「……」
俺は懐中電灯を上下左右に動かし、光の当たる方向に顔を向ける…
「何してるの…?」
叢雲の言葉には答えず、俺は目的の物を探す……有った。
「…叢雲。」
「なっ、何…?」
「…自分の目で…ちゃんと見てみろ…」
俺の手を握り、俺の上着を掴んで後ろに隠れていた叢雲の手を引き、懐中電灯を持った手で"ソレ"を指差す…恐る恐る俺の背中から顔を出した叢雲が"ソレ"を…見た…
「…嘘…!何で…!?」
「…つまり、やっぱりウチの艦娘の中に…現状コイツはいないんだな?」
「…居るわけない…!もし居たら…私が黙ってる訳無いでしょう…!?」
「だよな…」
懐中電灯の光が当たる"ソレ"…俺たちから見て右斜め下に有る箱…その蓋にくっ付いてる紙に、"初雪"と…名前が書かれていた…