俺は叢雲の手を引っ張り、「初雪」の名が付けられた靴箱の有る列まで来るとその場でしゃがんだ…目の前に有る靴箱の蓋には間違いなく「初雪」と書かれた紙がくっ付いてる…至近距離だ、見間違いじゃない…俺は蓋に付けられた金属製の取っ手を掴んだ……冷たいな。
「ちょっと…何する気よ…?まさか…!止めなさいよ…!」
俺は取っ手を引いて蓋を持ち上げた…箱の中の光景が俺の視界に入って来る…
「……へぇ、成程な…叢雲。」
「何よ…!?」
俺は振り向き、開けられた靴箱が見えない様に目を背ける叢雲に声をかけた。
「…見ろ。」
「…いっ、嫌よ…!」
「…ふざけんな。お前は…"初雪"に会う覚悟を決めてココに来た筈だろうが。」
「でっ、でも…!」
「大丈夫だ、見ろ。」
俺は上着の背中部分を掴む叢雲の手を何とか解いて身体を斜めにズラした。
「っ……え…?」
「ま、見ての通りだ…」
俺は再び靴箱に目を向ける…懐中電灯から発せられた光に照らされたその中にはスリッパは愚か、靴も入ってない…学校なんかで良く見る…板で上下に仕切られたその箱には本当に何も無かった…
「何よコレ…どういう事…?」
「現実的に考えるなら…手の込んだ、悪趣味なイタズラと見るべきだろうな…」
霊現象としか思えない状況に遭遇した事は有れど、結局姿を見た事は無い俺からしたら実際は霊の存在は半信半疑だ…そうでなくても、幽霊がわざわざ使いもしないだろう自分の靴箱を一々用意するとは正直考えにくいけどな…
「あったま来た!誰よ!こんな事するの!?」
「落ち着けよ…そもそもイタズラって証拠もねぇ。」
「でもこんなの「仮にイタズラだとして…お前が初雪を誤射で死なせてしまった事を伝えた奴は俺以外に誰か居るのか…?」!…そう言えば…」
「加賀も含めて知っているのは俺以外には誰も居ない…違うか?」
「……そうよ。あんたにしか…私は教えてない…」
俺は…あの時鎮守府内の無線通信を傍受していた…(プラス、恐らく加賀が仕掛けていたのだろう盗聴機に届いていた物もだ…)ノイズ混じりの上、怒号と悲鳴に爆音の飛び交う…正直誰が聞いてもトラウマになりそうな無線の内容から何が起きたのかは朧気には分かっても…実際にあの場にいた訳では無いから状況の全ては把握出来無かった…当然、叢雲が誤射で姉妹艦に当たる初雪を殺してしまったなんてのも…今朝聞いて初めて知った事だ…
「そして、俺がこんな物を用意出来無かった事を…お前自身が証明出来てしまう…」
「…あんたは…私以外の艦娘の信頼が無いから…この寮には入れないし、あんたが今日仕事中席を外したのは数回あったけど…どれも数分くらいで戻って来た…」
鎮守府からこの寮に行くまで…どれだけ急いでも数分では難しい…しかも往復するとなると、当然倍の時間がかかってしまう…
「一応確認する…良く思い出せ…お前は、襲撃のたった一人の生き残りだ…当然、聴取を受けた筈だな?」
「…ええ…何が言いたいかは分かるわ…私、あの時かなり取り乱してたけど…はっきりと言える…私があの子を殺した事に関しては…結局、一言も口にしてない…と言うか、そもそもまともに話せる状態じゃ…無かったから…」
「そうか…」
つまり…コレはイタズラじゃないって事だな…
「じゃあ…やっぱり…」
「居るって証明とは言い難いが…可能性は有るって事だ。」
「……」
「叢雲、もう一度聞く…お前、このまま鎮守府に戻るか…?」
「え…?」
「帰りたいなら帰っても良い…俺一人でも多分、見回り位は出来るからな…」
「……いいえ、私も行くわ…会うって、決めたもの…!」
「そうか…」
本人が帰らないって言うなら…俺からこれ以上言う事は何も無い……今も俺の手を握っている叢雲の手は汗ばんで、おまけに小刻みに震えてるから正直…このまま帰って欲しい所だけどな…(その癖、汗でヌルヌルした手から込められる力は更に強くなってるしな…)
「…じゃ、行くぞ…ああ、そうだ…取り敢えず手を離せとは言わねぇから、これ以上力を込めるのは止めてくれ…俺の手がいい加減潰れそうだ…」
「……ごめんなさい。」