傍受マニアの艦これ   作:三和

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「…で、やっぱりここがトイレか?」

 

「ええ、そうよ。」

 

「……」

 

廊下の左右の壁に並ぶ、相変わらず名前の付いた紙の貼られたいくつかのドアを通り過ぎて着いた先…紙の貼られていない木製のドアの前に俺たちは立っていた…

 

「…つか、やっぱりここだけか…」

 

さすがに今度は溜め息を吐く…

 

「……開けないの?」

 

「今更だが…開けて良いのか?」

 

「…開けて…中に入らないと確認出来無いじゃない…」

 

そりゃそうだ。俺としても別に他意は無く、見回りとしてなら必ず見るべきだろうな。

 

「…先に聞く。ドアが並んでるタイプか、それともこの先が便器なのか…どちらだ?」

 

もちろん、プライベートで入った事は無いが…女子トイレの構造は一応知識として入っている…

 

学校や大型百貨店に有る様なタイプがそれだ。この場合、大抵は小便器が無い代わりに個室が整然と並んでいる構造になっているパターンが多いらしい…(想像すると圧倒される光景だな…)

 

んで、寮ってなると大人数が使える様に先の様な構造になってるパターンと、個人用の便器が一室に有るだけの構造になってるパターンが有る…

 

「…本当に残念ながら並んでいるタイプよ。」

 

「……」

 

一気に入りたくなくなった…停電中なら電気は点かないからめちゃくちゃ不気味だろうしな…何より…

 

「…恐らく無いとは思うが、個室に誰か入ってたらフォロー頼むわ。」

 

ここまで寮の中が静まり返っている以上、使用者が居るなら物音で分かる…何も聞こえねぇって事はいないって考えるのが普通だ。

 

「了解…って言っても…電が皆に伝えてくれてたらそこまで気にする事じゃないんでしょうけどね…」

 

「…普段見てる限り、艦娘同士ですら割と結構ギクシャクしてるからな…」

 

ま、その辺はそれぞれ別の鎮守府からここに配属されて来てる上、仕事が無いにも関わらず特にイベントなどの交流の時間を取ってない俺のせいになるのかもしれないけどな…艦娘の方から企画出して来るなら現実的に無理な話でなければ通すし、準備の手伝いくらいはしてやるが…俺に対しての信頼がほぼ無い今それは先ず有り得ねぇだろうな…

 

…そんな事を考えながら俺はドアノブを掴んだ。

 

 

 

開かれたドアの先に有るのは三つの鏡の取り付けられた水受けと蛇口…そして並んだ個室…

 

「…一応…個室の中も見るべきだよな…?」

 

「……当然…でしょうね…」

 

俺もさすがに懐中電灯の灯りに照らされた先に広がる予想以上に不気味な光景に声が少し震えるのが分かる……が、俺の言葉に続いて発せられた叢雲の声は俺以上に震えていた…と言うか、一旦は治まった筈の身体の震えがまた再発した様で固く握られた手からそれが伝わって来る…

 

…横にこんなのがいるんじゃ、俺もビビってる場合じゃねぇか。

 

「叢雲…怖いなら外で…っ…分かった、離さないから力を緩めてくれ…」

 

叢雲の手の力がまた強まり、手に走った痛みに思わず呻きが漏れそうになるのを堪える…やれやれ…軽い気持ちで見回りをするなんて提案すべきじゃなかったか…?さっさと帰りたくなって来たぜ…

 

 

 

並んでいる個室それぞれに一応三回ノックをして、返事が返って来ないのを確認してドアを開ける…誰もいない。…木製の寮で、便器も木製なのに洋式かよ…ここまで徹底されてると恐怖よりも、呆れと感心の混じった複雑な感情が浮かんで来る…さて、最後のドア…っ…

 

「…どうしたの…?早く開けてよ…」

 

「…いや…何か聞こえなかったか?」

 

先程までこのトイレに誰かいる雰囲気は無く、特に何の音もしなかった……だが、このドアの前に立った瞬間に物音が聞こえた…微かにだがコトッと…木造の建物に良く有る家鳴りとは違う異質なその音は例えば…木製便器の蓋をそっと閉めたらこんな音がするんじゃねぇかって音だ…

 

「…家鳴り…じゃないの…?」

 

「…いや、そんな音じゃなかったな。」

 

俺がそう言うと叢雲の身体の震えは更に激しくなり、手にも再び力が籠る…痛みを気にしてる場合じゃねぇ…もし、中に居るのが艦娘ならそれで良いんだ…さっき俺たちがした会話に反応しなかった事や気になる事は色々有るが、音がしてから漂う…先程まではまるで感じなかった気配…その正体を確認しなきゃならねぇ…

 

「……」

 

懐中電灯を持った手で先程の様にノックをする…結果は…!

 

「……ノックが…返って来たな…」

 

「嘘でしょ…!だって…鍵かかってないわよ…!?」

 

「落ち着けって…他に誰もいねぇんだし、おっちょこちょいな奴が鍵かけないで入ったのかも知れねぇだろ。」

 

「でも…!でも…!」

 

俺だって分かっている…暗闇の中、焦って個室に入った様な奴が入り口で会話していた俺たちに反応しないと言うのは先ず有り得ない、と。

 

「……誰か…居んのか…?こっちは邪魔をする気はねぇから…悪いが、居るなら声で返事してくれ…」

 

返事は返って来ない。だが、気配は確かに有る…間違い無く今この個室の中には誰かがいる…

 

「…悪いな、こっちは仕事でここに居るんだ…返事がねぇなら…開けさせて貰うぜ…?」

 

「ほっ、本当に開けるの…?」

 

「開けるしかねぇだろ。ここまで声かけて出て来ねぇんだ…不審者の可能性だって有る…」

 

「…でも…人間じゃ…無かったら…!」

 

「それこそ覚悟の上だろ?もしかしたら初雪かも知れねぇ…最も違うナニカかも知れねぇが、元々幽霊騒ぎをどうにかする為に来たんだ…初日で原因が特定出来るなら…それに越した事はねぇ。」

 

ドアノブに手をかけ、力を込める…特に抵抗は無くドアは開かれた…

 

「……」

 

「そんな…!じゃあやっぱり…」

 

個室の中には誰もいなかった…灯りに照らされた木製の洋式の便器しかねぇ…俺は叢雲の手を引いて中に入り、確認する…

 

「…人の居た痕跡はねぇな…」

 

先程まで感じていた気配も消えている…つまり、本当に幽霊がいる訳か…にしてはさっき聞こえたのは間違い無く物理的な音だったけどな…

 

「いねぇんなら仕方ねぇさ…次に行くぜ。」

 

「次って…まだ続けるの…?あんたは…怖くないの…?」

 

「……怖いに決まってるだろ。だけどな、このまま放置するってのも気持ち悪くなるんだよ、俺は。嫌ならお前は帰りゃ良い。」

 

言葉での返事は無かったが、叢雲からは強い力で俺の手を握る、と言う答えが返って来た……だから一々人の手力一杯握るんじゃねぇっての。

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