「…成程、そういう事ね… 」
「やっぱ何も聞いてないんだな…」
あの後加賀の部屋に案内され、今さっき一通り事情の説明を終えた。
「…聞いてないわね…最も、私は見た事無かったけど確かに幽霊の話が持ち上がってるのは知ってたわ。」
「…ちなみにお前は信じてたのか?」
「……同じ艦の艦娘で有っても、所属してる鎮守府によって…微妙に性格が異なるのは知ってるかしら?」
「ああ。」
…一応上から寄越された主要な艦娘について書かれた資料にはそいつの趣味嗜好や、提督に関する態度など…一通りのパーソナルデーターが載っていた…とは言え、当然それは関わる人間や、居る場所の置かれた状況によって変化するのは艦娘も人で有る以上は当然の事だろう…
「秘書艦の叢雲も忙しいし、子供の様な性格の駆逐艦の世話を私がする事も多かったのよ…だから自然と、ね。」
「艦娘の「加賀」としてなら本来は信じない…が、駆逐艦の世話をしていたお前なら信じてたって事で良いのか?」
「常識に凝り固まった思考をしていたら全然指示も聞いてくれないし、懐いてもくれないのよ。最も、理由はそれだけじゃないけどね…」
まぁ確かに…表面上幽霊を怖がる子供に合わせる事は有っても、それだけじゃ実際に信じる事はねぇだろうな…
「つーことは、お前は幽霊を見た事が有るのか?」
「ええ、子供は霊を見る事が多いって言うらしいけど、近い精神を持つ駆逐艦の子たちと一緒にいる事が多かったせいかしら?あの事件が起きる前に一度、ね…間違いなくアレは…"そう言ったモノ"よ…」
「あの…それってつまり、あの頃の時点で既に幽霊が居たって事…?」
あの頃ってのは…ウチが壊滅する前、つまり俺がここに来る前の話になるか。
「……居たわ、いつから居たのかは私も分からないけど…確かに見たわ。」
叢雲が震えだし、部屋の床に座ってる今も握られている俺の手に力が込められる…だから痛ぇっての。
「お前の言い方から察するに…当時お前は俺が着任する前にウチで一度幽霊を見た…で、こうして戻って来てからは鎮守府の方はもちろん…ここでは幽霊は今日まで見た事が無い…そういう事で良いのか?」
「…そもそもあの頃はここに建物は無かったわよ。でもその質問の答えならYES、よ。」
「…当時見た幽霊の特徴は?」
「…私が見たのは…髪の短い、ちょうど今も貴方が着ている提督の制服を着用した男性よ。」
つまり、今ウチで噂になってる幽霊とは別物って事か…
「成程、話は分かった…さっきは悪かったな、取り敢えずコレでお暇するわ「待って」あん?」
「この後も見回りを続けるの?」
「…まだ夜は長い、そもそもさっきの部屋を確認してねぇからな…」
「例の空き部屋の件ね?そう言えば一つ確認したいのだけど…」
「何だ?」
「…叢雲が死なせてしまった…初雪の下駄箱が有ったって言うのは…本当なのね?」
「ああ、確かに見た。…聞くが、元々用意はされてなかったんだな?」
「…貴方も知ってると思うけど…今此処に「初雪」は所属してないわ…」
「来る予定が有って用意したとかじゃねぇのか?」
「それなら…貴方の方が詳しいんじゃないの?」
そりゃそうだ…増えるなら俺が聞いてないのは可笑しい…
「そうだな…さて、行くわ「ちょっと待って」何ださっきから…逃げられちまうだろ。」
と言うか…さすがにこれだけ時間経って逃げてなかったらそれはそれで相当ヤバい奴だろうけどな…
「私も行くわ。着替えるから少し待って、って言ってるの。」
「…本気か?」
「貴方、不審者を取り押さえる自信有るの…?」
「……いや、無い。」
本来提督になるってなら研修だって有るだろうし、そうでなくてもそもそも海軍に入るならそれなりに戦えなけりゃ入れないだろう…いくら、前線に出るのが艦娘で有ってもそれが普通だ……だが、俺はいきなり鎮守府に押し込まれた一般人でしか無い、こんな口調を昔から続けて来たからそれなりに揉め事に巻き込まれた事は有るが、少なくとも特別俺はケンカが強い方って訳じゃない…
「叢雲もそんな状態だし、私も行くから…だからちょっと外で待ってて。」
寝巻き姿の加賀が立ち上がるのに合わせ、俺たちも床の上に敷かれた座布団から立ち、ドアへ向かう。
「…急げよ?」
「ええ、分かってるわ。」