「…ん?」
加賀の先導で二階へ上がる為に階段に足を掛けたところで俺の耳が微かな物音を拾った…
「どうしたの…?」
恐る恐ると言った感じで声を掛けて来た叢雲に答える。
「……いや…何でもねぇ「可笑しいと思った事が有るなら言いなさい」…気の所為かも知れないぜ?」
「些細な事でも異常は異常よ。この停電も含めて普通の状況じゃないんだから何かを感じたのなら、一応全部調べた方が良いと思うわ。」
既に踊り場まで到達していた加賀が上からそう声を掛けて来る…ふむ、なら口に出すか。
「トイレの方から音がした気がしてな「た、確かなの…?ここからトイレまでそれなりに距離が有るわよ…?」…だから気の所為かも知れんと言ってるだろうが。」
「…そう…一応調べましょうか「加賀さん!?」大きな声出さないの。相手が人じゃない可能性を考えたら、気になった事は全部調べた方が良いわ。」
「…マジで行くのか?」
「音がした…と言ったのは貴方よ?」
まあそうだがな…結局加賀は階段を下りて来て俺たちの横に来ると自分の手を差し出す…意図を察した俺がその手に懐中電灯を渡すと加賀はそのまま廊下をきびきびした足取りで歩いて行く…仕方無く俺は繋がれている手を引いて叢雲を促し、加賀の後を追った。
「…別に異常は無いみたいだけど…や、やっぱり気の所為だったんじゃ…?」
トイレの中を調べたが、一見人が居た痕跡は見つからない…叢雲が震えた声でそう言葉に出すが…俺は違和感を感じていた…加賀もそうだったらしく、叢雲の言葉に答えを返さない…
加賀がトイレ内の窓に近付く…窓に軽く触れた。
「……鍵は掛かってるか?」
「……ええ、問題無いわ…しっかり掛かってる…」
「ほ、ほら…!やっぱり誰もいなかった「寧ろお前が気付かないのか?」…え?」
俺は先程トイレに来た時、ノックの返って来たドアを開ける…
「……何よ、中なら今確認した「加賀、懐中電灯貸しな」「はい、どうぞ」だから何よ…!?」
俺は個室の中を照らす…パッと見は確かに特別異常は無い。
「何よ…やっぱり何も無いじゃない…」
未だ気付かない叢雲に呆れの感情が湧いてくる…まぁ、今の叢雲なら無意識に認識から外していても何ら不思議は無いがな。
「…蓋だ。」
「蓋?蓋がどうしたのよ「まだ分かんねぇのか?便器の蓋だよ、さっきは閉まってただろ?」あ!」
先程見た時には下りていた蓋が今は上がっている…当たり前だが、木製のこいつが風で上がってたのが下りる…何てのは百歩譲って有るかも知れないが、さすがに自然に上がる事はねぇだろう…
「そもそももうちょい早く気付けよ…この個室の蓋だけ上がってるのは可笑しいだろうが。」
「そうね、私もだから変だなと思ったのよ…」
「…じゃあ窓を確認したのは…」
「仮にここに誰か居て、俺たちが近付くのに気付いて逃げようとした場合…窓からしか逃げ場はねぇからな。」
内鍵の掛かっている窓を外から開けるにはそれなりに手間は掛かるが別に出来無い事は無い…が、閉まってるのは些か不自然だ。どう言う意図が有ったにしろ、向こうは俺たちに姿を見られなければそれで済む話で…何も居た痕跡を完全に消す必要は無いのだ……そんな手間掛けてる間に俺たちがトイレの中に入って来ちまうしな…
「…それなら…やっぱり気の所為「何度も言わせんじゃねぇ…さっきは間違い無く閉まってたんだよ」だからそれは…あんたの記憶違いじゃ…」
「叢雲…他は閉まってるのにここだけ蓋が上がってるの…可笑しいと思わない?」
ここの艦娘の多くにその習慣が無いならここだけ上がってるのでは無く、他の個室の蓋も当然上がってるのが自然だ……もちろんそういう場合もねぇとは言わないが、先ず考えにくい話になるな…
「…まるで…急いで用を足して…慌ててたから蓋を閉めないで出て行った…そんな感じがするわね…」
「嫌な事を言いやがるな…」
何となく加賀の言いたい事を察してしまった俺の口からそんな言葉が漏れた。
「ちょっと…それってどう言う意味よ…?」
「…死者が幽霊としてこの世に現れる時…自分が死んだ事を中々認識出来ずに死ぬ直前と同じ行動を繰り返すって話があんのさ。要するに俺と加賀の言いたいのはだな…この蓋を開けたのは死人で…鎮守府の襲撃直後、あるいは直前にトイレに行きたくなり駆け込んだ……そのまま死んでるんじゃないか?」
「…何で…そう思うの…?」
「さっきノックをした時…返事は返って来たが、誰もいなかったからだよ…つまり中で死んだ…んで入る少し前の行動に戻ったから個室から消えたって意味だな。」
鎮守府に来た日…一応確認の意味で入ったから知ってるが…実際、提督や来客の為に有ると思われる男子トイレは崩壊こそしてるものの個室の形は保っていたが…隣の女子トイレは少々状況が異なる…何せ、両壁に四つずつ配置されてる形になってる内、片側の個室四つ分が砲弾の直撃でも有ったのか個室そのものがほぼまるまる無い状態なのだ…隣の四つがまともに残ってるのが奇跡だな…とは言え機能は死んでただろうから、そっち直せるならもう片方の方の個室も治して欲しいもんだが…
「言ってる事は分かるけど…それなら鎮守府に出るんじゃないの…?」
「出てるが俺たちが知らないか、何故かこっちだけに出ているか…あるいは両方か… 」
普通そんな行動何度も取ってたらどっかで可笑しいと気付きそうなもんだが…幽霊ってのは単純な思考能力しか無いのかねぇ…
「まぁとにかく…結局こうして話していても現れる気配は無い様ね…」
「みたいだな…さて、次に行くか。」
「まだ続けるの…!?」
「原因の特定をするって言ってんだろうが……嫌なら帰っても…痛っ…たくっ…ならとっとと行くぞ。」
帰れと口にした途端思いっきり握られる手……全く…今夜の見回り終わるまで…果たして俺の手はまともに残ってんのかねぇ…