「おい、今日はマジで力を込めるのを止めてくれ。こっちの皿を持つ手に集中出来無くなる…」
相変わらずこっちが耐えられなくなるギリギリの力で握って来る叢雲に溜め息を吐きたくなりながらも俺は言う…俺たちが歩いている床は木製だ…仮に落としたからと言ってロウソクの火種程度でいきなり燃え上がる訳じゃないだろうが、万が一の事は有る…そもそも皿が割れたらどうやってロウソクを持てと言うのか…
「ごめんなさい…」
「…何回も言ってる筈だ…怖いなら戻ってて良いってな。」
「それは…出来無いわ…あの子がもし本当にここに居るなら私は…あの子に会わないといけないから…」
俺は消え入りそうな叢雲のその声の中に確かな決意を感じた……ただな…
「どれだけ怖がろうが別に構わねぇ…俺だって怖いしな…ただ、こっちに負担はあんま掛けないでくれ。」
その言葉は…きちんと覚悟の出来ている奴の吐く物だろう…少なくとも今の叢雲だと口だけは達者の良い例だ…今のこいつはこっちできっちり注意しないと手を握るだけじゃ済まず、俺にがっちりしがみついて来そうな勢いだからな……コイツ…まさか俺の背中に隠れながら初雪の奴と話すつもりじゃないだろうな…?
「……本当にごめんなさい…不甲斐無くて…でも、お願い…その…手だけは握ってても良いかしら…?」
「今更だな…駄目なら駄目と最初から言っている。」
「……ありがとう…」
震えつつも普段仏頂面の叢雲が僅かな笑顔を向けて来るのを横目に捉えつつ…改めて昨夜聞いたコイツに対する艦娘たちの反応について考える…
……確かに今のコイツを見て勝ち気とか、気の強い…なんて感想にはならんだろうな……最も、さすがにここまで酷い姿を見せてはいないだろうが。
今の俺は両手が塞がっている。ドアの前に立ち、叢雲に視線を向けると、叢雲は一瞬ビクッと硬直したものの…結局は手を離した。…中に入ると同時に俺の空いた手を叢雲はまた掴む……で、その後後ろで勝手にドアが閉まる…
「ヒッ…!」
「……お前な…このドアは開けっ放しで固定出来ず、そのままだと普通に閉まるのは昨夜分かった筈だろうが…何でまたビビる?」
「その…何かもう条件反射で…」
……暗い方が幽霊は出やすいかもしれんが、早い所廊下の電気だけは復活して欲しいところだ…まぁその場合、自動的に部屋の電気も復活するから確実に懐中電灯も使わんくなる辺り…もう何しに来てるんだか分からなくなるな…(そもそも見回りが目的で有って、肝試ししに来てるんじゃねぇけどな)
この後は特に何事も無く加賀と合流し、共に三階を見回り…見回りの担当階を入れ替えたりして2時まで粘ったが…結局この日は昨夜の出来事が嘘のように何事も起こらず軽く話し合った後に俺たちは解散し、帰る最中は元より鎮守府内でも別に何の異常も無く…俺たちは腑に落ちない気持ちを抱きながらも眠りに着いた。