傍受マニアの艦これ   作:三和

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「ぜはぁ……助かったぜ、加賀。」

 

さっきは何故か誰なのか分からなかったが…今ならはっきりとアレは加賀の声だったと分かる…

 

「…礼なら私じゃなくてこの子に言いなさい…ここに来たのもこの子が様子を見に行こうと言い出したからだし、ドアの小窓に向かって床にあったコンクリートの破片を投げ付けたのも彼女よ。」

 

彼女…?加賀が退けて、後ろに居た奴が目に入る…

 

「よぅ、提督…災難だったな?」

 

「天龍…?」

 

「そっ。オレだよ…それはまぁとにかく…ほら。」

 

地面に寝転がっている俺に向かって屈んだ天龍から手を差し出される…俺は一瞬意味が分からずその手を見詰めた…

 

「……何だ?」

 

「いや…何だじゃなくてさ、いつまでもそんな体勢で会話してる事も無いだろ?取り敢えず立てよ…叢雲を待たせてるしさ。」

 

俺は自分の手を伸ばし、差し出されたままの手を掴んだ。

 

「ん…よっ、と!…うおっ!?…おいおい…大丈夫か…?」

 

立ち上がり、天龍が手を離すと同時に急に立ち上がったせいか目眩がして…そのまま天龍に向かって俺は倒れ込む…意識が朦朧としていても顔にはっきりと感じる、むにっと言う柔らかい感触…

 

何でよりによって比較的小柄な相手の"ソコ"にピンポイントに顔が当たるかねぇ…天龍も避ければ良いのに受け止めてやがるしよ…

 

「…ハァ…しゃあねぇな…加賀さん、提督の事はオレが見てるから叢雲の所に一度戻ってくんね?」

 

「それは良いけど…良いの?」

 

「良く分からねぇけど…あいつ、一人で放っておいたらヤバいんだろ?」

 

「…そうね、分かったわ。…提督の事…頼むわね?」

 

「ん、了解。落ち着いたらそっち連れてくから。」

 

加賀が去って行く…

 

「さて、と。取り敢えず何が有ったか教えてくんね?」

 

 

 

「ふ~ん…足が勝手に動いたねぇ…で、今その気配とやらは有んの?」

 

「……いや、今は感じない…」

 

「そっか…」

 

天龍に床に座らされた俺の横で片膝を立てて座っていた天龍が立ち上がり、小窓の割れた女子トイレのドアに手を掛ける…

 

「おい…」

 

「一応見て来るから、提督はここに居てくれよ。」

 

天龍がドアを押し開けて中に入って行く…俺は立ち上がる気力も湧かず…中を進んで行く天龍を小さな窓越しに見詰めていた…一番奥の閉じていたドアを開け、そのまま中に入る……少しして天龍は何事も無く外に出て、こっちに向かって歩いて来る…

 

「ん~…別に異常は無いかねぇ…一応聞くけど、気の所為とかじゃないんだよな?」

 

「…ああ…誓って、そう言うぜ…」

 

俺に誓う神とかは別に居ないけどな…

 

「…ふむ…あいよ、了解。」

 

天龍はそれ以上何も言わずにまた俺の横に座る…

 

「おい…」

 

「ん?何だよ?」

 

「…さっきの話…信じてやがるのか…?」

 

「う~ん……そもそもだけどさ、ここに来た時点でまともな状況じゃなかったのは分かってんだよな。」

 

「まともな状況じゃない…?」

 

「そっ。オレは執務室に来て、叢雲に提督がトイレに行ったって言われた時にさ…どうも胸騒ぎがしたんだよな…オレのこの手の予感って昔から当たるからさ…加賀さんに無理言って一緒に来て貰ったんだ。そしたら…何故か女子トイレの中に居るあんたがそこの小窓から見えた……何で女子トイレに居るかは別にして、とにかくオレたちは声を掛けたんだ「待て…声を掛けただと…?」…ああ。それなりにデカい声も加賀さんと二人で出したつもりだったけど…その様子じゃ、やっぱり聞こえてなかったんだよな?」

 

「ああ…あの窓が割られるまで、何も聞こえなかった…」

 

「無視してるんじゃなくて、そもそも聞こえてないってのは…外にいたこっちにもあんたの雰囲気で分かったからさ、取り敢えずドア越しじゃなくて直接声を掛けようとして加賀さんがドアを押したんだ……けど、ビクともしなかった。」

 

「…艦娘の力でドアが開かなかっただと…?」

 

「ああ…だからヤベェと思って取り敢えず加賀さんに退ける様に言って、床に転がってた瓦礫の一部を掴んでドアのガラス窓に向かって放り投げた……それすらも意味無かったらどうしようかと思ったけど、幸い窓は割れたし奥に向かって進んでいたあんたの足は止まって、加賀さんの言葉も届いたって訳さ…いや、ホントヒヤヒヤしたよ…」

 

ヒヤヒヤしたとか言う割に明らかに天龍は飄々としていた…何て言うかコイツ…

 

「天龍…お前…」

 

「ん?」

 

「いや、良い…」

 

何と言うか…最初に会った時からコイツは…どうも艦娘「天龍」と雰囲気が違う感じがしていた…資料にはとにかく自己主張が強く、騒がしい性格とか書かれていた記憶が有るのだが…コイツにはその様な感じは無い…寧ろ口は悪いが、その少女的な容姿にそぐわないレベルで落ち着きと言うか貫禄が有ると言える…まぁ気にはなるが、今は止めておくか……何となくだが…コイツに聞いても何も答えない気がするしな…

 

「…で?そろそろ落ち着いたか?」

 

「…ん…ああ…」

 

元々体調を崩した訳じゃない…大した距離を走った訳じゃないのに酸欠になりそうな程、息切れを起こしてて…多分…その状態で急に立ち上がったからクラっとしただけだ…そんな事を考えていると俺に向けて顔を近付けて来る……至近距離に天龍の整った顔が…

 

「……何だ?」

 

「ん…確かにさっきより顔色も良くなったな。」

 

……天龍から思ってもみなかった事を言われて、照れるのとは別の動揺が走る…

 

「そんなに酷かったか?」

 

「う~ん…失礼を承知で言うなら、今すぐ吐きそうなくらいヤバい顔色してたかねぇ……加賀さんには見えてなかっただろうけど。」

 

そりゃあ…立った直後に天龍の身体に顔埋めたからな…

 

……正直、思い出すと羞恥で死にたくなるぜ…

 

「体調が良くなったなら行こうぜ…二人を待たせてるしさ…」

 

「ああ……あ。」

 

天龍が俺から離れ、立ち上がる…俺も若干もたつきながらも立った所で…そもそもここに何をしに来たのか思い出す…ついでにそろそろ限界なのも気付いた。

 

「どうした?」

 

「いや…少し待ってて貰って良いか?」

 

「ん?……ああ、成程な…良いぜ、ここで待ってるからさっさと行って来いよ。」

 

「すまん。」

 

俺はトイレのドアに手を掛けた…やれやれ…何とか間に合いそうだぜ…




「あ。」

天龍と執務室に戻る為に廊下を進んでいた所で有る事に気付く…

「今度は何だ?」

「その、何だ…さっきの事だが…悪かった… 」

天龍が何も言わない以上、俺も何も言わなくても良いのかも知れんがそこはそれだ…後から色々言われたくねぇし、謝罪はしておくべきだろう…

「さっきの?……ああ、アレか。わざとならはっ倒す所だけど…あんたマジで酷い状態だったしな、別に気にしてねぇよ?」

「…そう言ってくれると助かる…」

まぁどんな状況であれ、若い女の胸に顔を埋めるなんてのは普通…渾身の力を込めた拳でぶん殴られても文句は言えねぇんだろうな…幸い天龍は流してくれたが、コレで相手が龍田辺りだったらそれこそマジで殺されてたかも知れねぇな…
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