「…やっぱりここに戻って来る羽目になるか。」
俺は天龍と共に先程閉じ込められたトイレの前に立っていた……そして、近くでは相変わらず龍田が気絶している…
「いっそ叩き起こすか?」
「手が足りないと感じるのは分かるけど止めてくれ…あんたと二人で居るの見たら確実にあいつ向かって来るから…」
「だよな。」
まぁ確かに言われるまでも無い話だな…俺はドアに視線を戻す。
「……コレ、迂闊に入ったらまた閉じ込められんじゃねぇか?」
「…まぁそう考えるべきだよな…そもそも小窓から見てる限りは誰も居ねぇけど。」
確かにドアに付いた窓からは個室が並んだ空間が有るだけで二人の姿は無い…ただ…
「見えないだけで実は居るって可能性が有るんだよな…」
「そりゃまぁ時間が進まないなんて異常事態だし、無くも無いだろうな…」
……結局俺たちの意見は共通している…仮に二人が居るとしてももう一度入りたくねぇ…さっきの様に俺たち二人共中に入り、仮に叢雲と加賀のどちらか、あるいは両方が中に居たとしてもまた閉じ込められたら意味が無い…龍田が来た様にたまたま誰かが通り掛かる何てのは相当に低い確率だろう…そもそも俺が寮のトイレに居る状況は客観的に見たら問題だ…まぁその辺は今更気にしても仕方ねぇが。
「どっちかが中に入り、もう片方はドアが閉まらない様に押さえておくしかねぇだろうな。」
「そりゃ名案だな……で、どっちが入る?」
「決まってる、オレだ…何か有ってもオレならある程度対応出来る。」
「じゃあ俺がドアを押さえておく役目か……龍田が起きねぇ事を祈るしかねぇか。」
「まぁそん時は諦めろ。」
「……」
龍田が味方になる可能性を視野に入れねぇ辺り、マジで信用してねぇんだな…あの態度を見たら当然って気もするが。
「じゃあ開けるぜ?ちゃんと押さえててくれよ?」
「分かった…」
つか、万が一を考えたとは言え…俺も天龍もロウソクを持っていないのはどうなんだかな…とか考えてたら天龍の声が耳に入る。
「万が一マジでどうしようも無い事態が起きたらドアを閉めて、あんたは逃げてくれ。」
頭の何処かでブチっと何かが切れる音が聞こえた気がした…
「……お前、俺がそれを出来ねぇと分かってて言ってやがるな?」
「そりゃ分かるけど今の条件は飲んでもらう…オレとあんた…どっちが残るべきかは分かんだろ?」
「チッ…」
「…そんなに葛藤してくれるとこっちも中々冥利に尽きるね……マジで惚れても良いか?」
「言ってろ…良いからとっとと開けろ。」
「あいよ。」
天龍がドアを開け、中に入って行く…後ろに居た俺はドアを押さえた…
「で?」
「いや、あんたも分かるだろ…特別異常は無いな。」
元々このトイレは個室数こそ多いが空間そのものはそこまで広くは無い…一般的に言えば、学校の教室の半分位の大きさって言えば良いのか…
「個室は?」
「そう急かすなよ、今見る…」
天龍が閉まっている個室を一つずつ開け、中を確認して行く…途中俺はチラッと後ろを見るが、龍田が起きる気配は無さそうだ……こんな所を見られたら言い訳で済まねぇ気がすんな…
「ん、誰も居ねぇな…残念ながら。」
「じゃあ戻って来い、他を探すぞ。」
「あいよ、じゃあ戻るわ…」
天龍がこっちに向かって歩いて来る…俺がドアから離れようとした時…
「うおっ!」
天龍が突然パッと見何も無いトイレの床でコケる…そのまま俺に向かって倒れ込んで来た…咄嗟に受け止め、切れずに二人して廊下の床に倒れ込んだ…って、コイツ…
「おい、テメェ…わざとコケやがったな…?」
「あんたさっき人の胸に顔埋めやがったろ?役得って事で。」
天龍は俺の胸に顔を埋め、両腕は完全に俺の背中まで回り…ホールドしている…
「ふざけてる場合じゃねぇだろ?離せ。」
「う~ん…あんたの匂い悪くねぇんだよな…もう少しこのままで良い…イテッ。」
天龍の頭にチョップを落とす…怯んだ隙に天龍の腕を振りほどき立ち上がる…チッ、叩いた俺の手の方が痛いぜ…
「そう怒んなって…少しは緊張も解れただろ?」
そう言って笑う天龍を見ていると肩の力は抜けて行く…ただな…
「何もこんなやり方で無くてもだな「おっと。誓って言うが、コケたのはマジだぜ?」……何だと?」
「…さっき、足を掴まれた感じがしたんだ…」
天龍の言葉を聞き、改めてトイレのドアの窓から中を見る……外から見る分には何も異常は無い。が、見えないだけで澱んだ空気が目に見える様な気がした…
「三度目は…無い方が良さそうだな…」
「だな…他の所で見つかりゃ良いけど。」
既に立ち上がっている天龍と顔を見合わせる…
「さて、次は何処を探す?」
「…一階の空き部屋だな。」
さっきも見たが、もう今更だ…
「あいよ。んじゃあとっとと行こうぜ?」
天龍が廊下の床に置かれているロウソクを拾った。