ドアの向こうの空間は真っ暗でほとんど何も見えない…取り敢えず俺は中に入り、電気のスイッチが有る筈の壁に手を当てる…有った…俺はスイッチを押した。
「チッ…」
「やっぱり点かない?」
「ああ…ま、どうせそうだろうと思ってたけどな…」
俺はポケットからライターを取り出し、火を点けた。
「……特に異常はねぇな…」
「それはまぁ、そうでしょうね…」
脱衣所は見た感じ問題は無い…俺は中に入り、龍田も付いて来る…そのまま奥まで進み、入り口と同じく引き戸になってるドアを引いてみた…特に問題無く、こちらも開いて行く…
「……こっちも何もねぇな。」
「いや、有ったら困るんだけど。」
風呂場も特に異変は無し…何だかんだしばらく使われてねぇらしく、若干のカビ臭さも感じる…俺はドアから出していた顔を引っ込め、ドアを閉めた…熱っ!
「っ…」
「大丈夫?」
「ああ。」
俺はその場に屈み、熱さで落としてしまったライターを逆の手で拾った……後で手を冷やしておくか。
「ねぇ、何も無いなら戻らない?」
「……」
「どうしたの?」
「いや、ちょっとな…」
「取り敢えず出ましょう…ここはその、何か不気味だから…」
「そうだな…」
俺たちは脱衣所を後にした。
目の前のトイレのドアを見詰める…
「なぁ?やっぱり入ってみても良いか?」
「い・や・よ。」
「……入るのは俺だけ「駄目よ、また閉じ込められたらどうするの?私だけじゃどうしようも無いわよ」ふぅ…分かったよ…」
「と言うか火傷したんでしょ?早く冷やした方が良いわよ?」
「……」
「さっきからどうしたの?」
「んー…ちょっと気になる事が有ってな…」
「考えを纏めたいなら聞いてあげるけど、ここじゃ嫌よ…いい加減鎮守府に戻りましょう?あそこの方がまだ安全だと思うし…」
「俺はあっちでも閉じ込められてるから、別に安全じゃねぇと思うが?」
改装されて見た目の印象はすっかり変わったが、当時と場所は変わってねぇんだよな…
「ここよりはマシでしょ?」
「まぁ、そうなんだがな…」
「貴方って本当に変な度胸が有るわよね、見てるこっちは毎回ヒヤヒヤするわ…」
「怖くねぇ訳じゃねぇんだけどな…」
この俺の妙な癖、そのお陰で危険に晒されたのは実は一度や二度じゃない… 好奇心に寄るものだけでは無いこれのせいで、俺は今の立場に居ると言っても過言じゃねぇしな…
「とにかく戻りましょ、私…ここに居たくないし…」
「そう、だな…」
トイレのドアから視線を逸らし、俺は入り口に目を向けた。
「……そんな話、信じろって言うのかしら?」
目を覚ました龍田は最初は取り乱していたが、結局俺の様子から何かを感じたのか、話は黙って聞いていた…
「信じて貰うしかないんだがな…言っておくが、こっちはお前とグダグダ問答してる暇はねぇんだよ。俺を信じてなくても良い…手を貸してくれ。」
「天龍ちゃん…本当にこんな奴の事を信じるの?」
「信じるも何も、実際にオレも加賀さんも巻き込まれてるしな…それに、ここに風呂場が有るのは間違いねぇんだよ……壁にしか見えないけどな。」
「……分かった、天龍ちゃんの言う事だし、信じる。」
……何とも釈然としない話だが、結局龍田の奴はあの時俺の話をろくに信じようとはしなかったんだよな…だから、正直この件が有ったから俺の事を信じようと思ったと言われても何となく複雑だったりはするんだよな…最も、この一件の後から俺に対する龍田からの当たりは多少良くなり…その後更に少ししてから俺に対する扱いについて龍田から謝罪を受けたんだよな…
…ま、そのせいで俺は逆に龍田を信用出来無くなったから皮肉な話では有る…
「…で、とにかくこのドア?を一緒に引っ張れば良いと…」
「正確には加賀を引っ張る天龍の身体を引っ張れ、って意味だからな?」
「分かったわ。」
……当初俺は龍田に対して同性愛者の疑惑を掛けていたんだが、この時の受け答えでそうでは無いと分かった。こいつは、行き過ぎてはいるが一応純粋に天龍の身を案じているだけだと……まぁ、それは向こうが望んでる事じゃねぇし、やり方を思えば敬遠されても仕方の無い話だがな…やってる事は完全に同性愛者のそれだしな…
「行くぞ?ふんっ!」
四人でお互いの身体を引っ張る……ハッキリ言って傍から見たらギャグにしか見えない状況だが、こっちは真面目なんだよな…ただ、どうしても滑稽には思えて来る…っ!
「良し!開きそうだぞ!お前ら!もっと踏ん張れ!」
ドアが僅かだが横に動いた…もう立て付けが悪いなんてレベルじゃない動きだが、動いたのは確かだ…後はこのまま引っ張れば良い!
「グオオオオ…!」
「…で、四人で散々引っ張って、これだけしか動かねぇのか…」
今は四人全員床にへたり込んでいる…確かにドアは開いた…ただ、それはせいぜい中が覗けるレベルの物……中が見えるだけマシだが、これで中に叢雲が居なかったらハッキリ言って無駄な体力使ったとしか思えないな…と言うか、風呂場のドアも木製で中は見えないから風呂場に居る、とかなら本当にどうしようもねぇ…!
「っ!居たぞ、叢雲だ!おい!」
ドアから見える僅かな隙間をロウソクで照らすと、うつ伏せに床に倒れる叢雲の姿が確かに有った……くそっ…声を掛けても全然反応がねぇ…まさか、死んでるんじゃねぇよな…?
「このドア、壊すか?」
「いや…多分俺たちが閉じ込められた時と同じだ…このドアは壊れねぇだろう…てか、この状態で砲撃って万が一効果有ったら当然叢雲にもダメージが行くぞ…」
「じゃあどうするって「ねぇ、ちょっと良い?」ん?」
「貴方たちが閉じ込められたのって…例の私と会った時の事?」
「ああ、そうだが?」
「……あの時は確か、中からドアが開けられないのに外から私が開けたら簡単に開いたわよね?」
「そうだな…それが?」
「……だったら今度はその逆。向こう側からならドアが開くって事じゃない?」
「…って、なると…叢雲が起きて自分から開けるしかねえって事か?」
正直、この程度開いただけで奇跡って気もする…これ以上こっちからは開けられる気がしねぇ…
「そうね…だから、どうにか叢雲ちゃんの気を引いて起こすしか無いんじゃない?」
「つってもどうすんだ?せいぜい指が二本差し込める程度にしか隙間開いてねぇんだぞ?」
さっき鎮守府の方で、天龍が閉じ込められた俺を助ける為にトイレのドアの小窓を破壊した時とは訳が違う…
「だからそれは…」
「それは?」
「……その…皆して声を掛け続けるとか…」
「……」
基本的に寝てるのと、意識を失うって言うのは同じ様で違う…寝てる場合は音に反応して起きたりはするが、意識を失ってる場合は外部からそれなりの刺激を与えないと起きて来ない場合は多いらしい…要は、単に声を掛けた程度じゃほとんど反応がねぇんだ……いや、そんな話はどうだって良い…それしかねぇって言うんなら…
「おい…おい…おい!?起きろ叢雲!」
例え可能性がゼロに近くても、それでもやる…喉が潰れるまで叫び続けてやるさ…!