「ちょっと…その子、本当に叢雲ちゃんなの…?」
「ああ、間違い無い。」
心配そうに聞いて来る龍田にそう断言する…まぁ、普通普段から寝顔見てたからって分かるものじゃないが、俺は不思議とこいつが叢雲だと確信出来ていた…
「…で、お前らの方は突然叢雲が消えたんだったか?」
「ええ…天龍ちゃんと二人と大騒ぎしてたわよ…おまけに貴方が叢雲ちゃん抱えてトイレから出て来たから更に驚いたわ…ねぇ…結局どう言う事なの…?」
「頑張ってたお前らには悪いが、あちらは偽物だったか…あるいは「あっちも本物だった…か?」へぇ…」
そこにこうして入り口に歩いている間黙っていた天龍が口を挟む…足を止めてそちらを見ればニヤッと笑う天龍が居た…あー…同じ結論に達したか…確かに、お前なら分かるよな…
「えっと…どう言う事なの?」
……残念ながら加賀はまだ分かんねぇらしい…ま、仕方ねぇとは思うが。俺と天龍と同じ事象に巻き込まれていたとは言え…こいつ自身は全く実感がねぇだろうしな…
「二人だけで納得しないでよ…説明して欲しいんだけど?」
「慌てんなよ龍田…先ずは叢雲を鎮守府まで運ぶ…お前らも来い、このままここに残して行くのは不安だからな…」
……出る前に一悶着くらい有るかと思ったが…結局何も起こらず入り口のドアは開いたので、俺たちは拍子抜けしつつも外に出た。
「ふぅ……」
寮は真っ暗だったせいか、大して明るくも無い鎮守府でも安心するらしく…俺は安堵の溜め息を吐いていた。
「おい、まだ気抜くのは早いだろ?」
「ん?」
「執務室行こうぜ、叢雲を寝かせてやんねぇとな。」
「ああ、そうだな…」
ちなみに加賀は静かだが、龍田は相変わらず俺たちの言葉が気になってるらしく騒いでいる…やれやれ…
「落ち着けよ、執務室着いたら説明してやるから…」
「本当ね?」
「ああ。」
「はい。」
「おう。」
叢雲を奥の部屋に布団敷いて寝かせ、加賀の入れてくれた茶を飲む…飲みつつ…腕を見ながらさっきとは違う溜め息を吐いた…現在執務室の時計は四時を指し、俺の腕時計は三時丁度で止まっている…結局さっき見た時より明らかにズレてる上、壊れてしまったらしい…
「それで…どう言う事なのかしら?」
「ん…あー…そうだな…まぁ、早い話が…少なくとも最初は叢雲は確かにあの脱衣所に居たんだろうさ。」
「あそこに居たって…叢雲ちゃんはトイレに居たんでしょ?」
「そもそも俺が風呂場の存在を思い出す前にトイレは見たが、居なかっただろ?」
「そうね…」
「…で、俺の時計が狂った話もしただろ?」
「!…あ、そう言う事?」
龍田はどうやら頭の回転が早いらしい…正直俺は説明が苦手だからな…助かる…
「分からないわ…どう言う事?」
おっと…残念だが加賀はまだ分からないらしい…
「時間軸がズレていたのさ…下手したら叢雲が脱衣所に居たのは…本来の時間より一時間程ズレてたりするかもな…」
「……そう言う事、ね…まぁ、もうあそこで何が起きてても驚かないけど…」
もっと簡単に言えば…本来トイレに叢雲が移動したなら脱衣所の叢雲は当然居なくなる…が、脱衣所の方の時間軸がズレていたので叢雲が消えないままだったって訳だ…仮に龍田と天龍が叢雲を起こす事が出来たらトイレに居た叢雲は消えていただろうな……最も、これはあくまでどちらも本物だったら…と言う推論に基づいた話だが。てか、さっき天龍と時計が止まったり…かと思えば戻る…なんて現象に遭遇しなきゃ考えもしなかった話だがな…
「ま、叢雲がいつ目覚めるかは知らねぇが…明日も見回りはしないとならねぇ…お前ら、付き合ってくれるか?」
「ここで断ったら、貴方はどうするのかしら?」
「おい、龍田…」
不穏な発言をする龍田を天龍が咎めようとするが俺の答えは決まっている…
「もちろん、お前らが来ないなら一人でやるだけだが?」
「……ハァ…ここで行かないとか言ったら私、悪者扱いじゃないの…分かったわよ…私も行けば良いんでしょ…」
「ああ、頼む…」
「ホント、天龍ちゃんの言ってた通りね…」
「何だ?」
「私の口からはちょっとね、知りたかったら天龍ちゃんに直接聞いて…」
「おい、天龍…俺について、龍田に何を言ったんだ?」
「さてね…その内機会が有ったら教えてやるよ。」
「そうかい…ま、教えてくれないなら別に良いけどよ。」