「……あ。」
「あ?どうした?」
赤城が何やらポツリと言葉を零し、その場で立ち止まるのが分かったので俺も一旦足を止めて振り向いた。
「あ、いえ…ちょっと思い出した事が有りまして…」
「何だ、言ってみろ。」
「ここの廊下って、窓は無い筈ですよね…?」
「そうね、それが?」
「……可笑しくないですか?」
「何がだ?見ての通り、窓はねぇだろ?」
暗い廊下…そこに有るのは壁と部屋に繋がるドアだけだ…
「さっき一階で、龍田さんは何をしました?」
「何をって……あ。」
「っ…あー…」
そこまで言われて俺も思い出す…そうだ…あの時は、確か…
「そうだな…俺は、龍田に槍を使って窓を割らせ様としたんだったな…」
「…ええ…確かに私も覚えてる…どうして、気付かなかったのかしら…」
「成程、報告書の通りですね…ここの空間は、歪んでいる…もう一つ良いですか?」
「ん?」
「……そもそも廊下に窓はゼロで有る、と言うのが間違いで有る可能性は有りませんか?」
「…どうして、そう思う…?」
「確か当時…貴方達は何故かお風呂場の存在を完全に忘れていた上、入り口のドアは壁になっていた事にもしばらく気付かなかったんですよね?…じゃあ、こう言う事も考えられます…つまりは空間は元より、閉じ込められた人間の元々の記憶自体も向こうの都合の良い様に改竄されてしまう、と…」
「「っ!?」」
そうだ…確かにあの日、俺たちは誰一人風呂場に行っていない事を疑問に思わなかった…
「…チッ…紙とペンが有りゃあな……」
「え?」
「私たちの記憶はもう当てにならない…と言うか、今持ってる記憶すらも時間と共に改竄されてしまうかも知れない…なら、マッピングは必須になるわ…自分たちが今何処を歩いてるのかすら分からなくなったら本当に出られなくなるかも知れない……忘れてしまう前に、書き留められたら良いのだけれど…」
生憎、俺もペンは有るが余分な紙は手元に無い…
「お前らどっちでも良い、紙持ってねぇか?」
「私は無いわね…と言うか、私はついさっきまで寝てたからね…」
まぁ、龍田が着てるのはどう見ても就寝用のラフな格好だからな…持ってる訳ねぇか…
「赤城はどうだ?メモ帳の一冊でも待ってねぇか?」
「……生憎、今は持ってないですね…」
と言うか、普通に携帯出来る小さいメモ帳だとどっちみち心許ねぇし…もっと厄介な問題も有るか…
「そもそも、俺たちは今一緒に行動してるからねぇとは思うが…あるいは、さっき龍田が同個体に乗り移られた様に…いつの間にか、俺たちの誰かに奴らが取って代わる可能性は有る。」
「……確かにそうですけど、それは…」
「そんな所まで疑ってたら、もうキリ無いわよ…」
「ま、そうなんだけどよ…」
そんな事を言ったら、今現在ですらお互いが本物だと示す証拠は特に無い…確実にそいつが本物だと分かるのは、その人物本人だけと言う事になる…
「…とにかく、さっさと部屋見て回るぞ。」
だが、結局そんな事をこの場で言っても仕方がねぇ…龍田の言う通りキリが無いのだ…グダグダ考えるのは、本当にやる事が何も無くなってからで良い…ハァ…ま、前回は出られたんだ、今回もどうにかなんだろ……多分。