「…異常無し、ですか。」
部屋に入った赤城がそう口に出す…まぁ、パッと見は確かに異常は無い様に見える……だが。
「いや、変だな…」
「そうね…」
「え…もしかして、ノックが返って来たのに誰も居ない、とかですか?」
もちろんそれが理由じゃない…その程度は今更俺たちにとっては特別驚く様な事じゃない…いや、結局それ自体は異常には違いないんだけどな…
「窓が開いてるわ…」
「え?あ、確かに…」
ここは廊下には窓は無いが、さすがに部屋には有る…で、僅かでは有るが…確かに窓が開いてるのだ…それにだ…
「このクローゼットも開いてるな。」
「……本当ですね。」
部屋には間違い無く誰も居ない…それでも、確かに誰か人が居た様な痕跡が有る…
「普通に考えれば悪戯なんですけどね…」
「それは無い…さっきも言った通り、ウチの艦娘は三階には寄り付かねぇ……てか、向こうはノック返して来た上…それから大して間を置かずにドア開けてんのに何処に逃げんだよ。」
「……窓からとか?」
「それにしては窓の開きが小さいわ…この幅じゃ、人間はとても通れないわね…」
龍田の言う通り開いている窓の幅は、せいぜい指二本が入るのがやっとのスペース…さすがにここから逃げたとはとても思えん…と言うか。
「この窓の下はモロに地面の筈…オマケにここは三階だ、普通の人間なら飛び降りたら最悪怪我だってするだろうし…艦娘やそれ相応の訓練受けてる奴だとしても着地時にそれなりに音はすると思うぜ?」
「そもそも今言った通り、この幅じゃ通れないわよ…」
もちろん、始めからロープなどを使えば怪我も無く…ほとんど音を立てずに降りるのは可能だが…下に降りてからわざわざ窓を閉めるのは出来無くも無いがクソ手間だ…と言うか、そこまで用意周到に痕跡を残さない様にするなら窓は素直に閉めりゃ良いし(まぁ、どっちみち鍵は掛けれないし…そもそも窓は開いてる)何より、クローゼットが開いたままなのは不自然過ぎる…ちなみに、クローゼットの中もパッと見異常は無い。まぁ、クローゼットのドアが開いてるのが既に奇妙な話では有るのだが。
「…と言うか、ここまでで私も一つ気付いてしまったんですが…」
「言ってみな。」
「ここ…しばらく艦娘は元より、人の出入りは全く無かったんですよね?」
「ああ、その筈だぜ?」
「つまり、掃除もしばらくされてないと…」
「…大体もう三年は経つかしらね、間違い無くしばらく誰も出入りしてない筈よ…皆、本当に怖がってたから…」
「…成程。でもその割に、部屋がやけに綺麗だと思いませんか?」
「…まぁ、確かにな…」
部屋は見た所、僅かな埃ですら被ってる様子も無い。実際に存在する廃墟などで良く言われる話だが、人が全く出入りしなくなった建物は荒れるのが異常に早いらしい…まぁ、ここは二階部分までは人の出入りが有るが…それでも、そこから上は年単位で入ってねぇんだ…もう少し荒れた様相でも別に不思議は無い。と言うか、今の状況がもう既に可笑し過ぎる…言われるまで気付かなかったが、確かにこの部屋は綺麗過ぎる…いや、それ以前に…
「あー…そもそもここは最後の部屋だったな…」
「良く良く考えたら、三階の他の部屋も人の居た痕跡こそ無かったけど…妙に綺麗だったわね…」
この階に掃除の手はずっと入ってない筈だ…なのに、何処の部屋もやけに綺麗だった……いや、何で今になって思い出した?
「可笑しい…」
「「……」」
俺の言葉に二人は返事を返さなかった…まぁ、確実に俺と同じ結論に達したのだろう…最も…
「ま、残念ながら…手掛かりは何も無かったな。」
「そうね…」
「どうします?本当にトイレとお風呂場、行くんですか?」
俺たちの今回の目的は結局ここから出る事で有り、ここの異変についてはそもそも知った事じゃないのだ…部下で有る艦娘がこれ以上巻き込まれないなら、今になって異変の原因を探る気だって本当は俺は無かった…ま、俺の気質的に気に入っちまったのか時折出入りはしてたがな、そこは今は置いておいてだ…こっちは過去の亡霊から恨みをぶつけられる言われは無い。大体あの時、向こうに接触のチャンスはやったんだ…にも関わらずあの日、向こうは俺たちを逃がした…あの時、こっちは叢雲を助けるのを優先したのも有るが…結局あいつらが俺たちを逃がした事実は変わらない…つまりはそう言う事だ…
ま、要はだ…その時点で話し合いの時間はもう終わっている。加えて、今回も今の所連中が姿を現す様子は無く…正直、ここまで来ると本当にからかわれてるとしか思えねぇ……チッ、考えれば考える程…とにかくタチが悪い…ムカつくぜ…
「ま、今は他に行ける場所はねぇからな。」
相変わらず後手に回されているのがクソ腹立つが、そんな事を言ってても仕方ねぇか…
「…凄い顔してるわね。」
「あん?……チッ、ここまでどうせ…向こうの掌の上なんだ…ムカつくんだよ。」
イラつきつつも、ケツのポケットからタバコの箱を取り出し…一本出して咥え、火を付ける……ふぅ。
「…落ち着きました?」
「……ああ、少しはな。」
「あのねぇ…さっきから思う様に行かなくて、やりにくい…そう感じてるのは、別に貴方だけじゃないのよ?」
「悪ぃ…」
「…正直、こんなのあの子には見せられない姿よね。」
「ハァ……あいつは俺に勝手に色々期待してる様だがな…俺はとにかく短気な方だし、何より…元々学もろくにねぇ…本来なら、海軍の提督なんてやる器じゃねぇんだよ…学が無い以前に、グダグダ色々考えるのも本当は苦手だしな。」
「とか言う割に、何だかんだ仕事は出来てるわよね…って…そもそも考えるのが苦手、は…嘘よね?」
……俺が普段書いてる書類の内容分かった上で言ってんのか、それは……チッ、今は考えないでおくか…いや、そこは置いておくにしても…頭使うのがとにかく嫌いなのは結局マジだ。
「確かに、貴方は根本的に軍人としての基礎知識は足りないとは思いますけど…心構えはしっかり出来てますし、頭の回転は結構早い方だと思います…と言うか、叢雲さんは元々…海軍提督としての貴方を見てる訳じゃないのでは?」
ハァ…ああ、そうだろうよ…
「ふぅ……あいつとももう長い付き合いだ、その辺の諸々は…こっちは嫌になるくらい分かってるさ…最も、分かってるから尚…度し難いと俺は感じてるんだがな…つか駄弁ってる場合じゃねぇだろ、さっさと行こうぜ?」
「ま、そうね…」
「そうですね…」
正直無駄に時間を食った…明日の事も有るし、いい加減さっさと外に出たいところだな…