特別異常の見受けられない(いや、恐らく使われてる頻度こそ少ないとは言え、便器に埃の一つも被ってなければほとんど異臭も無いのが可笑しいと言えば可笑しいが…自分たちは使わない筈なのに掃除をほぼサボってないらしい…よっぽどクソ真面目な奴なのか?)男子トイレを後にして、隣の女子トイレのドアの前に立つ…
「龍田、念の為先に確認してくれ…何か物音とかは聞こえるか?」
「ん…特に音は聞こえないわ…ちなみに、中の様子は何とも言えないわね…ドアの小窓から見える範囲だと何も問題は無さそうだけど…」
結局中に入るしかねぇか…あ~…嫌になるねぇ…
「あの…一つ良いですか?」
「あん?今度は何だ?」
普段だったら流すかも知れんが、俺は赤城の疑問に耳を傾ける事にする…今の所脱出の決め手にこそなってないが、何だかんだコイツは先程から色々確信を突いて来ている…正直認めるのは癪だが、あるいはこの場にコイツが居なくて…俺と龍田だけだったらもっと厄介な展開になってたかも知れねぇな…
「いえ、さっきから話に出てる…ここの掃除をしてる艦娘についての話なんですけど…」
「…普通にさっき、分からないって結論が出た筈だが…何か気になる所でも有ったか?」
まぁ、通常時ならそもそも意味の無い話題だし…何なら今は緊急事態で、んな事…気にしてる場合でも無い……その筈だ…だが、言われて気になった…どうも違和感を感じる…
「…そもそも先にここの掃除について具体的に話を出したの、どちらでしたっけ?」
「…それ、今しないといけない話?」
「すみません…どうも気になって…」
「…必要有るとは思えないけどね…」
龍田に同意したい…ただ、出来無い。何か、可笑しい…
俺は今日、ここに来てからの事を思い出す……ふむ。
「…俺じゃなかったか?」
「私も何故か、具体的な切っ掛けまでは覚えて無いんですけど…」
…改めて考えると妙な話だが、俺も切っ掛けが思い出せない…あれからそれ程時間は経って無い筈だが…
「…それで?けどって事は、何か言える事は有るんだろ?」
「ホント、どうしてか曖昧になってるんですけど…それでも、こうして考えてみると覚えてる事が一つ…ハッキリ掃除はされてるって言い切ってるんですよ……龍田さんが。」
「え…私?」
思い出した…確かにコイツはそう言ってるな。
「…掃除を行っている事を記憶しているなら、誰がやってるかも知ってる筈だな?」
まぁコイツは参加してないのかも知れんが。
「そう言われても…私、そんな事言った覚えが無いんだけど…」
「……あの時って…例の別個体さんが入ってる時でしたっけ?」
「…いや、違うな…」
あの時は確か…既に閉じ込められてるのを確認し、本格的にここの調査を始めた後だった筈だ…つまり、喋ったのは間違い無くコイツ本人の筈だ…
「龍田、本当に覚えてねぇのか?」
「ええ…二人の勘違いじゃないの?」
そう言われると俺もあまり自信は無い。赤城もそうらしく、何も言わない…とは言え…
「ふぅ…ま、今悩む事でもねぇだろ?」
「…そんな簡単に流しても良いのかしら…私も、自分の記憶に自信が無くなって来たわ…」
「既に俺たちの記憶そのものに影響が出てるのはさっき確認したろ?なら、これ以上ウダウダ言っても仕方無い…強いて言えば、制限時間が分かっただけ収穫だろ?」
「制限時間?」
「今日…それもそんなに前じゃない出来事がハッキリ思い出せない…でだ、これから先…自分の自我を形成する一端になっている記憶が消えない保証は有るか?」
「……無い、ですね…」
「じゃあ何?私たちは自分が誰か、分からなくなる前にここを脱出しないといけないって事…?」
「そう言う事じゃねぇのか?」
「そんなの…どうしたら…」
「まぁ、あくまでコレは俺の仮説だ…合ってるかは分かんねぇよ?」
「…何か、目印が必要かも知れないですね…」
「あ?目印?」
「自分の事を忘れない様に…服に名前を書くとか「この場の誰も書くもん持ってない上…そもそも"ソレ"が自分の名前だと分からなきゃ意味ねぇだろ」でも…何の対策もしないと言うのは…」
「つか、真面目な話…対策しても意味ねぇと思うぞ?」
「何故「仮に…そうだな、例えば…艦娘の私室に入ってそこから筆記用具借りて名前書いたとするよな?」…見た覚え無いけど…」
まぁ、私物は大半は持って行ってるだろうしな…
「例え話だ…とにかく、俺たちはそれを使って袖に名前を書いた…だが、後で見たら消えてる…あるいは、全く違う名前が書かれている……そう言う展開にならない可能性はゼロじゃねぇ。」
「だから…対策は何もしない、と?」
「ああ…つまり、忘れちまったら俺たちはそれで終わりって事だ…要は、忘れる前にここを出るしか俺たちにはねぇんだよ。」
結局全ては向こうの手の平の上、俺たちは何処までも奴らのルールに従ってやるしかねぇ訳だ…クソムカつく事にな。
「とにかくさっさと動くしかねぇ…龍田、早くそのドア開けろ。」
「了解…ハァ…ホント、とんでもない事に巻き込まれちゃったわね…」
「全く…何で私がこんな目に…」
龍田には同情するが、赤城に関しては半ば自業自得とも言える…大体…
「赤城…お前が望むのは混沌なんだろ?どうせならもっと楽しめよ、お前の好きな命懸けのゲームを挑まれてんだぜ?」
「私が望んでたのはこう言うのじゃないですよ…」
「ワガママな奴だ…」
まぁ、全く楽しくないって一点だけは俺も同意してやるが。