天龍がトイレの電気を点けて中に入り、個室を開けて確認して行く…
「…で、どんな感じかしら?」
「そう言われてもな…ちなみに、あんたからはどう見える?」
「…まぁ、異常は無さそうよね…と言うかそもそも…女子トイレに男性であるここの提督居たら、それはそれでどうかとも思うけど…」
「ま、少なくとも覗きとか…悪戯の為に入ったりとかはさすがにしない奴だってオレも信じてるけどな…念の為だよ、ここでは何が起きても可笑しくないからな…」
「…以前は、叢雲がここで発見されたんだったかしら?」
「ああ、途中で行方不明になってな……叢雲?」
「……」
「…叢雲?どうかした?」
「…っ…え…?何がですか…?」
「…いや、それだけ反応遅れてそれは無いでしょ…今ちょうど貴女の事で話してたんだけど…先に尋ねるべきかしらね…上の空だったみたいだけど、何か気になる事でも有るの?」
確かに…私はさっきから考え事をしていた…何を考えていたかと言えば…
「…珍しいなと、思いまして…」
「?…何が?」
「その…ここって結構な頻度で電気が止まってしまって…大抵は明かりは一切点かなくなるんです…でも、今回は廊下は元より…トイレの電気まで普通に点いたので…」
「あー…確かに、普通に点くのは割と無かったりするよなぁ…」
「…そう言えば、ここは電気関係のトラブルが異常に多いとかも報告書には書いてたけど…実際、そんな頻繁に使えなくなるの?」
「提督も何度か業者に連絡してるんだけどな…尤も聞いたら大体は異常無しで、ほぼ手の付け様が無いのに大抵はそれでもかなりの頻度で明かりが点かなくなるな…ちなみに、たまに故障箇所が見付かった時でも比較的壊れにくい箇所が壊れてるとかも多いらしくてさ…何せ今は物資も不足してるからな、結局その時点ではパーツが無くて修理を断念…直すのにしばらく掛かる上、その癖…少ししたらまた点かなくなるのがいつもの流れだからなぁ…しかも、ただでさえここは怪我の確率上がってるからな…真っ暗な状態で階段降りてトイレ行く奴とかは最悪命の危険すら有るからな…だから幽霊信じてない様な奴ですらビビって、鎮守府が改修されたら早々に移ったぐらいだからな…」
実際私と同じく、暗いのが苦手って子も多いみたいだし…せっかく皆で建てた艦娘寮だけど…結局は放棄せざるを得なかったのが実情…まぁ、改修された鎮守府に移ってきた子からこことの違いに関してクレームが来た事は無いんだけど…寧ろ冷静に考えたら、突貫で建てられたここよりあっちの方が快適って事も有るかも知れない…私はここ利用しなかったし、違いは良く分からないけど。
「…ま、とにかく…今回は電気が普通に点いたのが不思議って事ね……とは言え、結局点いてるに越した事は無いでしょ?」
「まぁな…」
「そうですね…」
もちろん…電気が点いてる事自体は、私は特に不満は無い。これで真っ暗とかだったりしたら…私が精神的に保つかどうか…さっきも言ったけど私も、あまり暗いのは好きじゃないし…点いてる方が有り難…いや、やっぱり可笑しいわね…普通ならこの状況こそ当たり前では有るんだけど…"ここ"では寧ろ、違和感でしかないかも…
「…納得行かないって顔ね…」
「すみま「だから謝らなくて良いわ…そうね、取り敢えず…貴女の今の正直な感想を聞かせてくれるかしら?」…その、やっぱり変だと感じるんです…何も問題は無い筈なのに、まるで何かを見落としてる様な…そんな、不思議な感覚で…」
「漠然としてるな…ま、言ってる事自体は分からなくもねぇけど…」
「…つまりここでは寧ろ、異常な状況こそ日常って言いたいのかしら?」
「まぁ…夜間は元より、昼間でも妙な雰囲気を感じる場所だからな…ここは…」
「…ここ、今は外部から来た艦娘の宿泊施設として開放されてるわよね?彼女たちは何て言ってたのかしら?」
「…何となく不気味に感じるって言ってる奴は結構居た…後は、単純に体調崩す奴も少なくなかったな…ま、尤も…オレらみたいなのは人間よりは遥かに丈夫だし…大抵は少し怠い程度だったみてぇだけどよ…少なくとも、寮内で頻繁に起きる事故よりはまだマシだ…」
「…要は、普通の人間がここに長く滞在したら本当に命の危険も有るって事かしら?」
「かなりの頻度で階段から転げ落ちて、ダイレクトに頭から床に落ちるなんて奴が居るからな…まぁ、その他にも色々…仮に普通の人間だったら、三日と保たないだろうな…もちろん、音を上げるってよりは死ぬ可能性が高いって話になるな…オレらにとっても決して安全な場所とは言い難いが、割とどうにかなるオレたち艦娘と違って…人間は長時間滞在したら、ほぼ死が約束されている様なもんだからな…」
「…ハァ…急いだ方がいいわね…私の同僚や龍田さんはともかく、提督は人間だし…と言うか、そんな危険な場所を普段休憩に使うって…本当にどんな神経してるのかしら…」
「……」
憶測では有るけど、 私はその理由には当たりを付けてる…
「…その、多分…あいつは…死にたいんだと思います…」
「…あら、そうなの?」
「本人に確認は取ってませんけど…恐らくは…」
私としてはそうなって欲しくはない…でも、結局私じゃ止められないかも知れない…恩人で、愛してる人でも有るのに…私は、あいつに何もしてやれない…何も、返せない…
「外部との接触はほとんどゼロみたいだし…結局は貴女たちが支えるしかないわね…」
「私もそうしたいんですけど、中々…」
「何せこっちからいくらアプローチ掛けても全部躱すからなぁ、あいつ…全く反応が無い訳じゃないから、別に同性専門とかじゃねぇみてぇだけど。」
「…と言うか、私からしたら慕ってくれてる部下が居て死にたいってのが良く分からないのよね…少なくとも、提督は今まで誰も死なせてないんでしょう?つまり、後を追いたい相手が居るとかでもないし…当然、罪悪感を抱く相手だって居ない。」
「ま、オレたちがしつこ過ぎてってのも有るかもな…にしたってわざわざ死のうとする理由としてはさすがに弱い様に思う…と言うか、今になって死にたいってのはオレにもいまいち分かんねぇんだけど…多くの艦娘に警戒されていた以前ならまだしも、今は割かし良好な関係築けてると思うんだけどな…環境としては、今は滅茶苦茶恵まれてる方な筈だ…」
「…分からない…私にも分からないけど、あいつは何故か…日に日に顔色も悪くなってる様に思うの…」
「単純に体調崩してるとかじゃなくてか?」
「…もちろんそれも…全く無いとは言えないけど…何となく、精神的なものの方が大きい様に思うのよね…」
「…最初にあいつに出会って、ずっと見て来たお前の意見だ…確かに、気の所為とも言いきれないけどな…」
「ま、ここでうだうだ言っても仕方無いでしょ…急ぎましょ、今は行方不明になってる人たちを見付けるのが先決よ。…手遅れにさえならなければ、結局何とでもなるんだから。」
「はい…」
「ああ。」
そうね…見付かりさえすれば、きっと大丈夫よね…