半ば予想通りと言うか…結局茶を飲み過ぎ為かトイレに行きたくなったので二人にそれを伝え、背を向けてドアの前に立った…っ。
「待って。」
「…何だよ?」
ドアノブを掴もうとした所で、俺はその手を龍田に掴まれていた…
「動きがあまりに自然だから、危うく見逃す所だったわ…何しようとしてるの?」
「何って…言ったろ、俺はトイレに「一人で?」…あのな…俺は別にガキじゃねぇんだ、トイレくらい一人で「いや、さすがにこの状況でそれは…そのまま通らないと思いますよ?」チッ…」
「…ハァ…こっちの返事くらい待ちなさい、それぐらい一緒に「一緒にってどうすんだよ、まさかと思うが…中まで来る気じゃねぇだろうな?」当然でしょ?」
「……」
まさか、さすがに無いだろうとは思いつつ…この問答に若干のイラ付きが有ったのも有り、半分揶揄うぐらいのつもりで言った言葉があっさり肯定されて面食らう…
「……本気か?」
「逆に私たちがそうなった場合、貴方は来ないのかしら?」
「…入り口まではさすがに行ってたな…中に入るのはお前らだけだ。」
当たり前だ…この状況だ、何が出来るわけじゃないにしても…万が一を考えたら、一応そうするのが当然だろうに。
「…ま、貴方ならそう言うだろうと思ってたけど…で?にも関わらず私たちは付いて来るなって?」
「…ハァ…分かったよ、じゃあ入り口まで「少なくとも私は、一緒に中に入るつもりだけど?」…おい、いい加減にしろ…ガキじゃねぇんだ、自分の身くらいは自分で守れる。」
「本当に?」
「…おい、まさか…お前も中まで来るつもりか?」
「…ふぅ…貴方に何か有ったら困るので…大丈夫です、私は後ろ向いてるんで。」
「…多分理由そのものは違うと思うけど、右に同じ…よ。私も後ろ向いて、そのまま待たせて貰うわ。」
「…お前ら程の力はねぇけどよ、一応俺は男なんだが…」
「こんな異常事態で、男とか女とか…そんなの関係有ると思うわけ?」
「逆に聞きますが…この場に貴方以外で、私と龍田さん…どちらかしか居なかった時…仮に、そのどちらかの人物がトイレに行きたいと言ったとします…ではその場合、貴方はどうしますか?」
「文句言われても気にせず中に入って個室の前で待……チッ…」
考える間も無く、最早自分の口が勝手に動いたと思えるレベルで俺は答えていた…割とこの場では、色々な意味で最悪の答えを…くそっ…さすがに自分の性質に悪態を吐きたくなるぜ…
「…ふぅ…ですよね、仮にこの場に居るのが部下では無い上…そもそも普通に信用も信頼も出来無いとハッキリ言い切ってる私しか居なくても、貴方はそうするでしょうね…」
「うるせぇな…」
こんな奴でも、俺の目の届く場所でその身に何か起きようものなら…俺は一生後悔する自信が有る…何より、こっちからすればいくら…毎回向こうが勝手に来てるとは言っても、結局強引に爺さんの所に帰すとかしていない以上…それは要は、俺がコイツの身の安全を自分の責任において…引き受けたって事だ…万が一コイツの身に何かが起きれば、俺は爺さんに顔向けが出来ねぇ…
だから…信用信頼、出来る出来無いとか関係無く…コイツをそう簡単に死なせるわけには行かねぇ。
龍田については考えるまでも無い…俺が直接の上司で有る以上、部下で有るコイツを必要以上の危険に晒すわけには行かない。それはもう、俺の上司としての責任の話であり…何なら、俺のプライドの問題だ。
「お前らに俺の目の届かない所で勝手に死なれてたまるか…危険に飛び込む可能性が有るなら、俺が絶対安全圏に居ないと困る事態でも無い限り…俺も同じ場で出来る事をやる…それが普通、上官の仕事だろ?」
上って言うのは責任を取る為に言うのは良く言われる…だが、その責任って言うのは単なる又聞きの話ってだけで…果たして取れるのかと言う話だ…自分も実際にその場に居て、それでも防げないミスだった…でも無い限り、結局その"責任"は薄っぺらいものになる…もちろん全ての場において、上司がそこに居れるとは限らない…
だが、通常居るべき場にも居なくて問題が起きた時…糾弾の場にだけ突然現れて簡単に責任を取るとか言える奴は…まぁ、部下に責任を擦り付ける奴よりはそりゃ遥かに良いだろう…ただ、それがあっさり出来ると言うなら…そいつには、逆にあまり責任感が有るとは言えないだろう…
自ら、何なら又聞きでも良いから全てを最初から把握し…その上で仮に安全圏に居たとしても、せめてある程度の判断を下しつつ…例え、それでも部下のミスで問題が起きた時…その時初めて、そいつにあくまで上司である自分の責任であると言い張れる…それを問われる資格が有る…面倒な事では有るが、それでも俺はそう思っているし、出来るだけそう在りたいと努めている…
無理矢理押し付けられた提督と言う立場では有るが…それでも、俺は俺一人しか居ない形だけの役職じゃなく…実際に下に着く"人間"を抱えている…ましてや、俺はあいつらの進退だけでなく…"命"も預かってるんだ…簡単に死なせる気なんてねぇし、必要も無いのに命を捨てさせる様な事もしたくねぇ…
綺麗事だとは分かっていても…"人間"であるあいつらを見捨てる気にはどうしてもなれない……つか、ほとんどが本人の所為でも無いのに遠巻きにされ、爪弾きにされたあいつらを俺が見捨てたら…一体誰があいつらの面倒を見てくれるって言うんだ…もっと言えば、あいつらと俺は一蓮托生だ。
あいつらがあっさり全滅しようものなら、俺の提督としての資質を問われる上…何ならその後無事に娑婆に戻れるかも分からねぇ…つか、仮に戻れても俺は後悔の毎日だ…今がそれこそ、日々死にたくなるくらいキツくても…結局その苦しみよりは遥かにマシだろう…
そして、もし俺が死んでも…恐らくあいつらはまともな扱いは受けない…ただ、それでも…俺は命の尽きるギリギリまであいつらを戦火からは守り切れたと言う誇りは残るし…あいつらもまた、俺が生きてる間だけでも負けて海に沈むと言う艦時代から続くトラウマを払拭する結果にもなるわけだ…事実これまでの戦いで、俺は何とか一人の死者も出さずに済んでいる…実際にこの、決して最善では無いかも知れないが…何とか、最良とは言えそうな結果を手繰り寄せて来たわけだ…てか、ここまで来て今更…あいつらの死に顔なんて想像したくも無い…なら、結局先に死ぬのは俺の方がまだマシだ…
「…まぁ、言いたい事は分かったんだけど…結局普段、貴方は自分の身をしっかり守れてるとは言い難いから説得力が無いんだけど。」
「…ふぅ…ああ、それも分かってるさ…だからこれは、適材適所の話でも有る。」
「適材適所、ですか?」
適材適所とは…簡単に言えば、各々が自分の向き不向きをしっかりした把握した上で…それぞれ出来る事をやるって話だ。
「俺の理想はな…お前らが行く戦場にくっ付いて行って、肉眼とレーダーで状況をリアルタイムで確認しつつ…お前らに無線指示と、敵に対して割り込み無線で欺瞞情報を流しての妨害行動をやると言う戦い方をする事だ…安全圏の鎮守府では、所詮得られる情報が限られてる…今の状況でもお前らは割と俺の指示を聞いてくれるし、仮に俺にミスが有っても…お前らは自ら考え、現場の判断を下してくれて…その報告もしてくれるから、そこから俺も切り替えて立て直す事が出来る…だがな、そもそも指示をする側の俺がミスをする事が問題なんだよ…戦場では、いつ何が起きるか分からねぇってのにな…それは…要は、結局その場に俺が居ないから起きている問題だ…実際に現場を見ていないから、指示の判断を誤る…なら、要するに俺がお前らと行けば良い…もちろん、それだけでミスはゼロにはならないだろうが…大幅に減少はする筈だ…」
「…つまり、貴方を護衛する艦隊と…実際に攻撃する艦隊が共に出撃して、最前線で戦うのがこれから先…貴方の考える、私たちの理想的運用方法って事かしら?」
「…ああ、だからこそ…余計にお前らに代わりが居るとか思いたくねぇんだよ…今の段階だと、いくら俺の乗る艦の護衛に回す艦娘は最小限にするとしても…それでも現状、頭数が揃えられねぇ…俺が鎮守府に居て…現場でお前らが連中と小競り合いだけしてる今の状況はまだ変えられないが、後々これを実現させる為にも…お前を含む、誰一人にだって…そう簡単に轟沈なんてして貰うわけには行かねぇんだよ…とにかく、今は戦果は少なくとも良いから…先ずはお前らに生き残って、練度を上げて貰う事を考えて貰わねぇとならねぇ…だからお前には、こんなくっだらねぇ事で死んで貰うわけに行かねぇんだよ…」
「あの~…私、今の所貴方の部下じゃないんですけど「仮にも預かった人間を死なせるわけには行かねぇだろ」…あー…成程。」
つか、そろそろ尿意も限界だ……チッ…必死過ぎて要らん事まで語っちまった…
「つーわけでだ…お前らに万が一の事が有ったら真面目に困るから、俺は一人でトイレに行くわけ「それで納得するわけないでしょ」チッ…早く行かせてくれ、もう限界なんだわ…」
「貴方の言いたい事は分かったわ…だけど、結局その理想の絵を完成させる為のパズルを組み立ててるのは貴方でしょ?仮に貴方が死んだら、ピースが有っても完成させる人間が存在しなくなるから…結果、全部パーになるのよ?」
「恐らく今残ってる他の提督ですら、そんな危険な事…誰も引き継がないでしょうから…結局、貴方にしか出来ませんね…」
「…ハァ…で、どうしろと?」
「だから、そもそも変な意地張らなくて良いじゃないですか…私たちもただトイレの中に一緒に入るってだけの話です…貴方だって、私たちがどちら…一人しか居ない場合でも中には入って来ても…私たちの入ってる個室の中までは入らないつもりだったんでしょう?私たちも、別に好き好んで見たくは無いですから…普通に後ろを向いて待ってます…私たちはただ、貴方と同じ事をしようとしてるだけですよ?」
「そう言う事…と言うか、貴方はこっちに対してそれが出来るし…要求もするのに…私たちがやるのが駄目とか、一体何様のつもりかしら…貴方が私たちが命を張るのを安全圏で見てるだけなのが嫌だと思うなら…それでこっちに来るって言うなら…私たちは貴方を全力で守りつつ…そして、共に勝利する…その結果を得る為に、お互いに命を懸ける…それは、別に戦場でなくても同じでしょ?」
「あー…分かった分かった…もう好きにしろ。」
正直、これ以上言い争うのは面倒臭い…つか、逆に良くそこまで俺を信頼しようと思うよな…
「真面目な話…俺が適当な事言って誤魔化そうとしてるだけとか思わねぇのか?」
「…いやだって、貴方って結局…嘘を吐くのが苦手なタイプでしょ?時々変なタイミングで怒ったり、急に黙るのは…要するに、こっちを上手く言いくるめる方法が浮かばない所為よね?加えて言えば、普段はそこまで口数が多くないのに…追い詰められて余裕が無くなれば無くなる程…寧ろ貴方は頭の回転が早くなるのか、口が良く回る様になる癖が有る…でも、元々普段からすぐ面倒になって急に怒り出したり…喚いたりする程不器用な人が…多少頭の回りが良くなった所で、逆にそこで嘘は吐けないわよ…今のは多分、元々考えてた内容では有るんだろうけど…取り敢えず私たちを納得させる事が出来るかもって思って、頭に浮かんだ通りにそのまま言っただけでしょ?…ふぅ…実は今、後悔してるわよね?まだ言うつもりは無かったのに、つい…そのまま喋っちまった、とか…」
「……」
チッ…こう言う頭の良い奴相手にするのは…本当に、面倒臭ぇ…
「…ハァ…もう良い、限界だからとっとと行くわ…付いて来たかったら勝手に付いて来い。」