傍受マニアの艦これ   作:三和

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「…で、実は用を足すのだけが目的じゃないんでしょ?」

 

「!…何で、そう思った?」

 

途中の廊下を歩いてる最中…龍田がそう声を掛けて来る…ハァ…正直な所を言えば、コイツが攻撃的な態度を取ってた頃から…時折零す言葉などから…実はコイツが別に馬鹿じゃないのは何となく察していた…それでも、ここまでとは思ってなかった…ふぅ…実際今、俺の抱えてる他の艦娘も逆に、良く前任者が手放したなと後になって思ったくらいには…それぞれ、秀でてるものがちゃんと有った…前の奴が無能だったのか、それだけせっかくの能力を塗り潰す程に抱えてるモノの影響で扱いにくかったのか…

 

…ま、ウチに来て時間こそ掛かったが今は比較的落ち着いてる奴らが多い辺り…結局前者の気がしてならないが…

 

「そりゃさっきトイレを見に行った時…あれだけ散々振り向いて考え込んでればそうも思います…さっきの違和感の方…ちゃんと形になりましたか?」

 

…まぁ、コイツに関しては間違い無く頭の良さは俺より上だ…ただ、コイツの場合…基本それを自分が暗躍する為に使うんだろうからタチが悪い…仮に爺さんが引退して、コイツが本当に俺の下に着いたとすれば…今よりももっと、俺はコイツに…振り回される事になるんだろう……どちらにしても、俺は何れ…コイツと何処かで決着を着ける必要は有るだろうな…

 

「…あくまで確信はねぇ…正直に言えば、俺の見間違いだったかも知れねぇ…どうせ行かないとならないんだ…違うなら違うでそれでも良い。」

 

この際、出来る事は全部やる…とにかく、俺はこいつらを無事に…さっさと外に出してやらなきゃならねぇからな…

 

「…と言うか、仮に私たちが来なかったらどうする気だったの?」

 

「そもそも連れて行く気はなかった…俺の勘違いかも知れねぇんだ…俺が自分で確認して、納得出来れば…先ずはそれで良いと思っていた……仮に、俺の思った通りだったとして…だからここから出られる、と言う可能性が有ったわけでもねぇしな…」

 

「…成程…何より、万が一の事も有る…だから一人で確認しようとしていたと…」

 

「ホント、ナメられたもんよね…少なくとも私は、貴方の部下なんでしょ?そう思ってくれてるんでしょ?なら、危険が有るかも知れないからこそ…私を連れて行かないって言うのは可笑しいんじゃないのかしら?」

 

「…ふぅ…そう詰るな、悪かったとは思ってるさ…お前らは俺にとって兵器じゃなくて人間…だからと言って戦う力は確かに有る…そこに性別とかも関係無い…お前らは艦娘と呼ばれる、一人の軍人だって事を忘れてたのは俺の落ち度だ…」

 

「…何と言うか、本当に変わってるわよね…貴方。」

 

「私たちは兵器じゃない…そう言ってくれる方は確かにそれなりに居ます…でも、先ずそこを忘れてる人は中々居ませんよ?」

 

「…ハァ…しゃあねぇだろ、俺は元々…民間人だったんだからな…」

 

こいつらは…女性の姿こそしてる…そして、どう見ても人間だが…その身に嘗て戦った艦の力を宿す…言ってしまえば、それぞれが普通の人間の力を遥かに超えた一端の戦士…分かってたつもりでも、やはりそのつもりでこいつらに接するのは俺には難しい…

 

「…ハァ…正直コレでお前らが男だったり、そもそも人の姿をしてないとかなら、もっとシンプルに考えられるんだけどな…」

 

「…ホント、そこでそう考えるのも特殊よね…」

 

「大抵は部下が女性…しかも人権は無いようなものって事になれば…最初はどれだけ誠実に振舞ってても…大抵最後には羽目を外すものなんですけどね…」

 

「…逆に聞くが、そんな奴をお前らは信頼出来るのか?自分の命を預ける価値が有ると思うのか?」

 

「私の場合、好きでも無い相手には指一本触れさせる気は無いわよ?…ただ、一人の軍人としてきちんと"仕事"が出来るなら一定の信は置くし…何なら、私でもそう言う相手に絆される可能性は有るかもね…」

 

「私は、寧ろ…"そう言う事"も一つの手段として見てますから…と言うか、そう言う聞き方をする辺り…実は興味有るんですか?」

 

「…ハァ…無いわけねぇだろ…正直、色々抑えるのに苦労してるさ……いつもな。」

 

「今のセリフ…それこそ叢雲ちゃんに聞かせてあげたいわね…実は満更でもないんでしょ?」

 

「チッ…」

 

あー…面倒臭ぇ…

 

「…普段イライラしてる事が多いのも、実はその所為かしら? 」

 

「……」

 

そんなの聞かなくても分かるだろ…

 

「逆に不思議なんですが…自分からソレを望んでる相手に…逆に、どうしてそうしないんですか?」

 

「…ハァ…あいつの場合…俺への距離が近かったのは、最初は誰かに縋りでもしないと精神的に不安定な自分の事に付いて自覚が有ったから…その頃から、俺はあいつの事を知ってるんだ…もちろん、今は…それが全てではなく、ちゃんと俺個人に好意を向けて来てる面も有るのは気付いてるさ…けど、それを受け入れる事が…必ずしも、あいつの抱えてるモノにきちんと決着を着ける事になるのかは分からん…俺がそうする事が、あいつにとって本当に正しい事なのか…分かんねぇのさ、俺には…」

 

「でも、実際今は…あの子がそれを望んでるのは確かな事でしょ…と言うか、貴方としてはどうなの?」

 

「あん?」

 

「だから…彼女の事をどう思っているのか、ですよ…好きじゃないんですか?」

 

「……分かんねぇ、正直…それも良く分かんねぇんだよな…」

 

仮に俺が叢雲と普通の出会いをしてたなら…多分、とっくに俺も答えを出せていたんだろう…だが、本当に不安定な頃のあいつを見てきた所為か…気付けば、俺自身の気持ちがどうなのかも…こうして改めて考えたら、良く分からねぇ…"部下"や"仲間""としての信頼や好意なら…間違い無く有る、と…俺もそう言い切れるんだがな…

 

「…ま、結局私がどうこう言える事でも無いけどね…けど、忘れない様にね?」

 

「…何をだ?」

 

「今なら…あの子程じゃなくても貴方にそう言う気持ちを抱いてる子がウチにもそれなりに居るって事…変に拗れる前に、早めに答えを出しなさいって事よ…多分今の内ならまだ…貴方が叢雲ちゃんを選んだと分かったなら、彼女たちも諦めが着くでしょ。」

 

「…ああ、分かってるさ…」

 

やはりバレてんな…ハッキリ気持ちが固まってなくても…選ぶなら、叢雲だと…俺がそう思ってる事を…本当に、面倒臭い奴だな…

 

「…と、着きましたね…」

 

「ほら、私たちは後ろ向いててあげるから…早く済ませちゃいなさい。」

 

「ああ。」

 

 

 

 

 

 

 

「…で、結局…貴方が感じた違和感の正体は何だったんですか?」

 

「…ふぅ…取り敢えず、コレを見な。」

 

「コレは…鏡、ですよね?」

 

一般的にトイレって言うのは大抵は身嗜みを整えられる様、手洗い場に鏡が有るのは普通だ…で、元々俺が気付いたのは女子トイレに行った時の事になるが…どうやらここでも、状況は変わらないらしい…

 

「今は暗いし、良く見えねぇか…赤城、今ロウソクはお前が持ってるだろ?そのまま、もっと近くに寄って…そいつを見てみろ。」

 

「はぁ…構いませんけど…」

 

赤城が鏡に近付く…暗い所為も有り、俺の位置からは何が映ってるのかそこまでハッキリは見えねぇが…それでも一度気付いちまった所為か、問題点がここからでも薄ら見える程度でも判断が付く。

 

「…特に問題は「本当にそうか?」…う~ん…見た感じ、普通にここの光景が見えるだけ……あれ?」

 

「…成程…要するに、この鏡には私たちの姿が映っていないのね…」

 

「そう言う事だ…ま、俺もさっきの時点では気付いてなかったが…」

 

俺自身もここにこうして着任し、あの幽霊騒ぎの時に初めて分かった事だが…俺には一度見た景色をある程度頭に留めておく能力が有る…だから当時、そこは壁であると認識していた筈の場所に…実は風呂場が有ると言う事に、元々の俺の記憶との齟齬が有った為に気付く事が出来た…要するに今回の場合は、さっき一瞬目に入った鏡に俺たちの姿が映ってなかった事にその場では気付かなかったが…俺の脳は、ちゃんとその光景をそのまま記憶していた…だから、それが可笑しいと警告が頭の中に来てたわけだ…尤も、当初その事実がハッキリ思い出せなかった為に…さっきの俺には単なる違和感にしかならなかった訳だが…

 

「…ま、生憎…それがここから出る切っ掛けにはならない様だがな…手間取らせたな、俺の用件も済んだし…取り敢えず戻るぞ…」

 

「そうね…でも、あら?だったら私たち…今どう言う扱いになってるのかしら…」

 

「あん?」

 

「いや、だから…鏡に私たちが映っていないわけでしょ?だったら、私たちの扱いって…今この世界ではどうなってるのかなって…」

 

「…基本、鏡って言うのは元々は光を反射するだけのただの板だ。俺たちがこの板に目を向けた時…その反射された光が目に入り、板に何かが映ってる様に見える…要は、結局そう見えてるだけだ…俺たちの脳の仕組みを利用した錯覚だな…そして、これだけ暗い空間でも大抵は僅かな光でも反射して…鏡の向こうの空間を反転させて映し出す……ま、さっきも言った通り…俺たちからは結局そう見えてるだけなんだけどよ。」

 

「…では、今この鏡に映ってる光景…貴方は何を示してると思いますか?」

 

「それは…こうしてトイレの中が映ってるのに俺たちの姿が映っていない以上…実は俺たちは…ここには居な、い…!?」

 

いや、待て…マジでそうなのか?

 

「…成程、でしたら私たちの居るここは…現実の空間では無いと言う可能性が有りますね…」

 

「そんな事…有り得るの…?」

 

「…まぁ、正直…以前もここでは時間がズレたしてたしな…何なら今回も窓が有った筈なのに消えるとか…普通は有り得ないからな…」

 

「つまり、今回は順番的には…貴方がここに来た時から…既に別の世界に居たって事になるのかしら…」

 

「…もちろん俺が寝てる間にそうなった可能性も有るが…それでもとにかく、最初に俺がいつの間にか別の世界に行っていて…お前らがここに足を踏み入れた時点では、確実にこの寮の入り口自体が別世界の入り口になってたわけか…」

 

「…では、窓を消したのは何故だと思います?」

 

「…昼間はとにかく、外からの光が入りにくくなる夜間は条件次第で窓のガラスは鏡とほぼ同じ状態になる…つまり、窓を破壊すると言う裏技を使って脱出される事よりも先ず…そもそも、ここが現実の世界では無いと気付かれたくなかった…?」

 

「仮にそうだとしたら、何故…ここの鏡は残したのかしら?」

 

「…龍田はしばらく、この寮には出入りしていない…だから、突然廊下の窓が消えてもそもそも窓が有ったのかどうだか…仮に元は有ったとしても、後で突然消えた際に残ってる記憶からその辺をハッキリさせる自信が無い…赤城に至ってはここに来るの自体今回が初めてだから、そもそも最初は窓が有ったのかどうか余計にハッキリしなくなる…俺の場合、ここには夜間しか来ないせいで窓から日光を浴びていると言う経験をしておらず…光の入らない窓に対して普通はほぼ意識しない。」

 

俺は見た景色を記憶する力が有るが、一度でもしっかり視界に入れてなければ…恐らく、俺の脳は記憶しない…仮にしていたとしても、それが古い記憶で有れば俺も正しいと言う自信が持てない…今回俺たちが鏡に映っていなかったと言うのも、それがついさっきの事だったから俺は確信を持てただけだ…ま、今回それが決め手になってこの結論が出ているわけだが…そしてどっちみち、ここの鏡は下手に消せない理由が有る。

 

「寮に必ず窓が有るかどうかって言うのは、あくまで優先されるのは自分の記憶で…それがハッキリ正しいと言う確信が無い以上…消した所で、元は有ったのか…それとも、本当は最初から無かったのか…ハッキリさせるのは難しくなる…が、ここの鏡は違う。何故なら、こう言う一人用では無いトイレの手洗い場に必ず鏡が有ると言うのは…最早自分の記憶云々の話じゃなく、それはもう常識の話だ。自分の記憶が曖昧でもここに鏡が無かったら、既に常識的に可笑しいと言う話になる…」

 

だから、そうなるとそこで違和感を抱きやすくなる…その場合、さっきトイレを見た時…いや、その前の時点で可笑しいと気付いてる筈だ。

 

「ここが現実世界だと気付いて欲しくなかった…で、それから?」

 

「…残念だが、ここまでだ…それ以上は俺も分からん…つか、結局それが分かった所で…出る方法には繋がらんな…」

 

俺は鏡に握った拳を近付け、軽く叩いてみる…特には何も感じない…俺たちが映ってないだけで、それはやはりただの鏡だ…それ以上の情報は何も無い。

 

「…ふぅ…ここが何処かは分かったが…それ以上の収穫は無しか…しゃあねぇな、取り敢えず今度こそ戻るぞ。」

 

悔しいが、まぁ仕方無い…ま、一応収穫は有ったんだ…部屋に戻ってからも、改めて考えてみるか…

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