謎のトカゲがやって来て   作:あるてぃまや

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Q.なぜシグナーの竜で書いたのですか。

A.そこにシグナーの竜がいたから。


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 家である築30年のアパートに帰ると、玄関先で星屑のように綺麗な銀色をした、随分と身体が細っこいトカゲのような生き物が丸まって寝ていた。大人の猫より一回り大きいくらいのそれは、家主に扉を開けさせまいとするかのように陣取っている。家に入りたい俺にとって、邪魔なことこの上ない。

 得体も知れぬ謎のトカゲ相手にあまり刺激を与えたくはないが、こちらとしてはそうも言ってられない。俺はへっぴり腰になりつつも、謎のトカゲを起こすために、持っていた茶色のカバンをトカゲの身体に軽く当てた。

 カバンを当てられた謎のトカゲは、身体をふるふると揺り動かす。起きるかと思って様子を見ていたが、それ以外に大した反応はない。

 なら、と先程よりもう少し強めにカバンを当てる。謎のトカゲから、小さく、ぐっ、と声が漏れる。流石に嫌だったのか、謎のトカゲはゆっくりと顔を上げると、なんだよ、とでも言いたげな不機嫌そうな顔で俺を見てきた。そのすらっとした顔つきは、俺の記憶のどこにも該当するようなトカゲの顔がない。元々トカゲに対する知識なんてものがあまりないこともそうだが、そんな俺でも思う。この謎のトカゲ、トカゲにしては随分と顔が厳つくないか、と。

 

「……そこ、退いてくれないか。扉を開けたいんだ」

 

 伝わるとは思ってないが、扉を指さしながら言ってみる。指をさした扉を謎のトカゲは見ると、そのあと俺に目を向ける。それを数回交互に行ったあと、謎のトカゲは、ふん、と鼻を鳴らし、また元の体勢に戻ってしまった。退くつもりはないようである。別にその場所の日当たりが良いかと言われればそうでもないし、何か特別な場所というわけでもあるまい。何が良くてこんな場所に陣取るのだろうと首を傾げてしまう。

 どうしたものかと考えた時に、ふと、カバンの中に帰りに買ってきていた食パンがあったことを思い出した。野生動物(?)に餌付けするのはよろしいことでは無いのは承知であるが、モノで釣らなければ動く気がしないのだ。

 俺はおもむろにカバンからそれを取り出し、青いやつ(クロージャー)を取ってから袋を開けた。中からは微かに食パンの匂いが零れて、鼻腔をくすぐる。その匂いに気づいたのか、謎のトカゲもなんだなんだと鎌首をもたげていた。

 俺は食パンをちぎり、欠片を謎のトカゲの方へ投げて転がした。投げられたものを警戒してか首を後ろに引いていたが、何も無いと分かると首を元に戻し、食パンに顔を近づけて匂いを嗅ぎはじめる。程なくすると、ブルーベリーでも食べて色が着いたかのような青舌で、食パンの欠片を拾い上げた。

 

「……っ!」

 

 弾かれたような勢いで、謎のトカゲが首を振り上げる。先程までの寝起きの不機嫌さはどこへやら。キラキラとした瞳でこちらを見やると、謎のトカゲの背にあった翼のようなものを広げて、なんと後脚だけですくっと立ち上がった。左右に揺れながらこちらにぐんぐんと歩み寄ってくるなどという、あまりの光景と勢いに思わずたじろいで俺は後ろに下がるが、すぐに謎のトカゲは俺に追いついてしまう。謎のトカゲは目の前まで来ると、ギュウ、と低く鳴いた。若干命の危機を感じたが、謎のトカゲからは、俺を攻撃するような雰囲気はない。それよりも、俺の手にあるパンの袋に意識がいっている。パンの袋へ前脚を伸ばしてきたので、さっとパンの袋を上へと上げた。パンの袋を上げられたせいか、不機嫌そうにギュウ、と唸る。言葉が分かるわけではないが、これは分かる。よこせ、とかそういう類の鳴き声だ。

 

「お前、これが欲しいのか」

 

 パンの袋を指さすと、謎のトカゲはノータイムでこくりと頷く。言葉を理解しているのか、などと思ったが、まさかそんなことと頭からその考えを消す。

 それよりも、物欲しそうにパンの袋を見ているのだから、これはチャンスの他ない。袋のパン一切れを半分に分けて、中から取り出す。手に持ちながらそれを少し揺らせば、謎のトカゲは合わせるように目で追う。それを確認してから、俺は自分の後ろ側にパンを軽く投げた。

 宙に浮かぶパン。それを視認した瞬間、謎のトカゲがまるで白い風にでもなったかのようなスピードで俺の隣を通り過ぎていった。パンが落ちる寸前に謎のトカゲはキャッチすると、随分と鋭い爪の生えた前脚で器用に持ってもしゃもしゃとかぶりつく。あの謎のトカゲ、意識は完全にパンに奪われている。退いてもらえたし、これでやっと家に入れそうである。

 パンを持って嬉しそうに尻尾を揺らす謎のトカゲを見ながら、俺は後ろに下がってドアノブに手をかける。開いた拍子にガチャ、と音が立つが、謎のトカゲが気にしてる素振りはない。俺は、はぁ、と妙に疲れの混じったため息を吐き、謎のトカゲから視線を外す。

 街中から少し離れている場所であり、山がある程度近いとはいえ、野生動物と出くわすなんて初めての経験である。あの山、あんな生き物が生息してるんだなぁ、なんて扉を閉めながら思う。翼の生えたトカゲなんて……。

 

「……翼の生えたトカゲ?」

 

 待て、と思考を巡らす。

 それってつまるところ、()()なのではないか。そんなことありえないと言いたいところだが、あの風貌、顔つきはトカゲのそれというよりも、まさに……。

 

「ピギャッ!!」

 

 扉が閉めきられる寸前、ガンッ、と何かが挟まった音と()()()先程の謎のトカゲの甲高い鳴き声が同時に聞こえた。驚いて横を見ると、扉の閉まる隙間に謎のトカゲの尻尾が挟まれていた。謎のトカゲが尻尾を引っこ抜こうと扉と壁にチキチキと爪を立てている。このままだと部屋に傷がつきそうである。慌てて扉を開けると、謎のトカゲが引っこ抜こうとする勢いそのままにひっくり返り、受身をとれずに後頭部もぶつけていた。挟まれた尻尾と、今しがたぶつけた後頭部を前脚でさすりつつ、身体を縮めこんで痛そうにしながら、謎のトカゲは恨めしそうに俺を睨みつけてくる。まるでお前のせいだと言わんばかりだ。

 

「いやいや、俺のせいじゃないだろ」

「ゥギャウ!!」

「わ、分かった分かった。そんな怒るなって。パンの半分やるから」

 

 ガルル、と低い唸り声をあげている謎のトカゲ。このままだと攻撃されかねないので、急いで袋からパンを取り出して謎のトカゲに投げる。投げられたパンを口で掴んで咥えると、モゴモゴと何か恨み言を吐いているのか、断続的に鳴いていた。

 

「まったく。ほら、さっさと巣に帰れ。ここはお前の家じゃないんだから」

 

 そう言いながら、パンを咥えた謎のトカゲの背中を押す。

 ……のだが、謎のトカゲは、やだ、と言うように首を振り、脚にぐっと力を込めている。ちょっと押してもまったく動く気配がない。

 

「おいこらっ、抵抗するなっ」

 

 カバンを置いて両手で押してみる。少しは動いたが、謎のトカゲは前脚を地につけてやだやだと首を降って四つん這いになってしまった。爪をしっかりと立てて踏ん張っているからか、俺の力ではうんともすんとも言わない。動物というのは、なぜここまで踏ん張れるのか本当に分からない。押してダメなら引くまでということで、逆に抱き上げてみようとするが、それを察知したのか尻尾を鞭のようにしならせて、俺の手を、ぺしり、とはたいてきた。ゆらゆらと尻尾を振り、やらせんぞ、という目付きで俺を見ている。これは、力比べではどうすることもできない、というワケだ。

 であればモノで釣るまでのこと。コイツの目的は、おそらく袋に入ったパン。ならば、俺が持ってるパンに反応してついてくるに違いない。所詮は野生動物、食欲に勝てないだろう。

 

「ゥ〜」

「えっ」

 

 謎のトカゲ、パンなど見向きもせずにまさかの俺の家に上がり込み開始。モノ釣り作戦大失敗である。

 あそこまで上がられては、本当に俺ではどうすることもできないだろう。ここは諦めて、謎のトカゲというお客さんに気の済むまで家を散策してもらおう。気が済めば、自分の巣に帰るはずだ。

 いや、そうであってくれ、などと神頼みにしながら、俺は肩を落として家の中に入る。なぜ俺は、家に帰ってから疲れなくてはならないのだろう。大きくため息をつきながら、靴を脱いで部屋の中へ。家は一人暮らしのため、間取りとしては1Kで1部屋しかない。玄関から入れば、靴箱の隣にキッチンスペース。その逆側には風呂場とトイレがある扉がある。部屋はそこまで物はなく、部屋の中央にちゃぶ台があって、2つ座布団を敷いている。ちゃぶ台の前には、小さな薄型テレビ。学校の教科書を置いている勉強机がテレビの横に設置されているくらいなもの。テレビの反対側にある壁には襖があり、物置のスペースがあるため、基本的には布団やらがそこに片されている。一応小さなベランダがあって、そこには洗濯機に、昔育てていた向日葵の植木鉢くらいしか物はない。そういう質素な家なワケであって、謎のトカゲが満足するようなものは正直無いと思う。それを決めるのは、この謎のトカゲであるが。

 とたた、と謎のトカゲは歩いて部屋を見渡し、すんすんと匂いを嗅いでいる。野生動物ならば、見ることもないモノだらけなのが人間の住処というもの。物珍しいのだろう。

 

「あんまり物を壊すようなことはするなよ」

 

 言っても無駄だとは思うが、とりあえず言ってみる。謎のトカゲは、コテっと首を傾げたあと、気になったモノに歩んでいく。ひとしきり匂いを嗅いで、満足するまで眺めれば、また次のモノに移る。それを何度も繰り返して、最後にちゃぶ台の方に行くと、その場にあった座布団の上に乗る。踏み心地を確認するように何度か脚を動かすと、お気に召したのか、座布団の上で最初に会った時と同じように丸くなってしまった。

 

「え、おい」

 

 丸く。つまりそれは、寝る準備に入ったということ。この謎のトカゲ、もしやこの場で寝るつもりなのかと眉をひそめてしまった。

 確かに基本的に外敵──この謎のトカゲに外敵などいる気がしないが──の心配もない人間の家の中である。とはいえ、赤の他人である人間がいるのだ。無論、俺はこの謎のトカゲを襲うつもりなどないし、むしろ返り討ちにされるのが目に見えている。だとしても、この場で寝るのは判断としてどうなのだろうか。

 これは、格下と見下されて大丈夫だろうと高を括られているのか、気を許せる安心できる相手として見られているのか。どちらにせよ、敵とは思われていないが故の行動であろう。厚かましいというか、なんというか。

 

「お前、まさかとは思うが、帰る気が無いのか?」

 

 丸くなった謎のトカゲに聞いてみると、謎のトカゲは顔を僅かに上げ、くぁ、と欠伸を見せる。今のが答えだとすると、無いということだろう。

 まじかよ、と目元を指でつまみながら呟いた俺に、謎のトカゲは尻尾を微かに揺らした。

 いやいや、落ち着け。寝て起きればこの謎のトカゲも帰るだろう。定住することはない。そうに決まっている。もしかすると時々遊びに来て食べ物をねだってくるかもしれないが、それ止まりが関の山。無い、定住なんて、無い。

 

「そう、だよな?」

 

 思わず漏れでたその言葉に、謎のトカゲは身動ぎをするだけ。嫌な予感がしなくもないが、今はそのことを考えるのはよそう。

 そんなことを考えながら、俺は現実から目を背けるように、目の前の謎のトカゲから目を背けたのだった。




スターダスト・ドラゴン

星屑のような綺麗な銀色をした竜。夜間は肩や胸部のクリスタルが薄ら輝くため、寝る時に近くにいると少々眩しい。
好物はパン(貰ったパンが美味かったらしい)。
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