謎のトカゲがやって来て   作:あるてぃまや

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ふわふわしたこの食い物、うまい


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 気がつくと、俺はどことも知れぬ草原にいた。辺りには、人工物があるような気配もなく、どこまでもだだっ広く、草原が見えるだけ。上を見上げれば、ぼんやりと雲が流れているくらいで平和なものだ。

 なんて思っていると、空に何かが飛んでいるのが見えた。鳥、にしては長細い。まるで蛇のような姿だ。その身体は液体が流動しているかのようにうごめいていて、ここからでも分かるくらいに赤く輝いている。青い空には、その姿があまりにも浮いていた。なんだろうかと眺めていると、その赤い蛇がこちらに頭を向けた。身体をくねらせて、じわじわと近づいてくる。

 いや待て、予想以上に大きい。目の錯覚で小さく見えていたが、そんじょそこらの生き物とは思えないほど大きい。口を開けば、立っている俺なんて余裕に入ってしまうのではないだろうか。目の前までやってきた赤く輝く蛇の大きさの圧が凄まじい。しかし、不思議なことに怖いとは思わない。

 

「…………」

 

 ただただ、俺のことを見つめている。その目に、感情というものを探れない。何を思っているのか、考えているのか、俺にはまったく見えない。伝えたいことがあるような気がする、なんてぼんやりとそう思う程度だ。

 

「ウゥ」

 

 突如、横から鳴き声が聞こえた。白銀の、翼の生えたあの謎のトカゲだ。謎のトカゲは、その赤く輝く蛇に、何かを訴えかけるように鳴く。それを、赤く輝く蛇は黙って聞いていた。

 謎のトカゲがひとしきり喋り終わるように鳴き終わると、赤く輝く蛇は少し俺に視線を向けた。

 

「────」

 

 いつだかったか聞いた、クジラのような鳴き声が赤く輝く蛇からあがる。どこまでも伸びていきそうな声は、どこからともなく反響するように複数聞こえた。

 赤く輝く蛇は俺から視線を外し、彼方へと飛び去っていく。穏やかな風が赤く輝く蛇と共に去っていくのを、草原に残された謎のトカゲと一緒に、ずっと見つめていた。

 

 

 ✿

 

 

 朝の静かな寒さを感じて、まぶたを開ける。ぼんやりと思い出されるのは、先程の不思議な夢。変な夢だったなぁ、とぼんやりと考える。今のがなんだったのか、なんて考える前に、身体にある妙な圧迫感を感じて、そちらに目を向けた。

 

 ……あぁ。

 

 頭を片手で抑える。布団の上にすやすやと呑気に寝ている姿を見ては、()()()()()なんて思わずにいられない。身体にかかる圧迫感は現実のものだし、存在感がそうではないと語りかけてくる。

 布団から出ようとすると、俺の動きで起こしてしまったのか、ソイツ──謎のトカゲは寝ぼけ眼でゆっくり顔をあげて、くぁ、とのんびりと欠伸をする。そこから見える牙のなんと鋭そうなことか。腕にでも噛みつかれたら、簡単に骨ごともっていかれそうである。

 トイレや風呂の部屋にある洗面所に向かうために俺が移動しようとすると、謎のトカゲは翼を羽ばたくように動かして立ち上がり、身体を左右に揺らしながら当然のように二足歩行でついてくる。その立ち姿、顔立ち、謎のトカゲなんて呼称しているが、どう考えても……。

 

「……ドラゴン、だよなぁ」

「ゥウ?」

 

 なんだ、と首を傾げる謎のトカゲ、もといドラゴン。伝説上の存在、この世に存在しないはずのドラゴンであるが、目の前の生き物はそれに酷似している。あるいはそのものと思われる。

 実は、秘匿されている実験施設から逃げ出した、遺伝子操作されてドラゴンぽくなってるただのトカゲだったりして。

 なんにせよ、一般的な動物の類ではあるまい。生き物にしては、あまりに身体の装飾が多すぎるし、まるでアニメの世界から飛び出してきたキャラクターのようだ。

 

「……まさか、な」

 

 さすがにそんなメルヘンな話にまで展開されると、俺の思考がもたない。せめてこの世界の住人であってほしい。この出会いだけでもおなかいっぱいなのだから。

 布団を押し入れに戻し、洗面所でいつものように顔を洗ったりと一連の流れをしている最中、隣のドラゴンは動くような気配を見せない。タオルを取って顔を拭き、リビングに戻ろうとすれば、ドラゴンも後ろからとてとてとついてくる。ひっつかれても何も無いのだが。

 そんなドラゴンのことは気にせず、朝食の準備。今日の朝食、というか、いつも朝食は食パン1枚である。トースターで焼いて、マーマレードのジャムを塗って、と毎度それなのだが、これがまたどうしてか、存外飽きないもの。食パンの種類を変えることはあっても、ジャムの味を変えることなど滅多に無い。単純に、俺がマーマレードのジャムが好きなだけなのだろうか。

 

「ウゥ〜」

 

 食パンを取り出すと、ドラゴンが横から物欲しそうな声をあげた。見てみれば、昨日と同じように目を輝かせている。このドラゴン、食パンを大層気に入ったらしい。肉類ではなく食パンというのは意外だが、まぁおかしな話でもない。

 持っている食パンの4分の1くらいを適当にちぎって渡す。渡された食パンを受け取ったドラゴンは、若干不服そうな顔をしていたが、こちらから奪おうということはしてはこなかった。大人しくそれだけ貰って、ちゃぶ台近くの座布団に座り、もしゃもしゃと食べ始めている。聞き分けが良い、というのだろうか。それで済ませてくれるならこちらとしても助かる。

 残った食パンをオーブンに入れて、数分待つ。チン、とオーブンがこぎみ良い音をたてて終了を知らせたので、キッチンから白い平皿を持ってきて、俺はオーブンを開いて取り出す。オーブンの隣の冷蔵庫から、マーマレードのジャムを出して、ちゃぶ台へ。もしゃもしゃ、と食べているドラゴンの反対側の座布団に座り、いつものようにジャムを塗り始めた。

 

「ウゥ?」

 

 食パンを前脚で持ちながら、ドラゴンが寄ってきた。俺がやっていることが気になったようで、じぃっと見つめてくる。

 

「……塗るか?」

 

 バターナイフにマーマレードを乗せて聞いてみる。ドラゴンがコクッと頷いたので、食べかけの食パンに乗せてやった。

 ふんふんと匂いを嗅ぎ、不思議そうに首を傾げながらも、マーマレードと一緒に食パンを頬張る。

 

「……っ!」

 

 ドラゴンの身体が跳ねた。目を見開き、尻尾を大きく揺らす。

 

「美味かったか?」

「ギュッ!」

 

 ドラゴンは跳ねながら鳴くと、食パンを俺に差し出す。多分、これはもっとくれとかそういうことだろう。マーマレードも大層気に入ったご様子だ。

 食パンを受け取り、もう少し塗って渡してやると、すぐさまドラゴンは食パンにかぶりつく。機嫌良さげに少し高い声をあげながら、口の中の食パンを味わっていた。

 

 それを見ながら、俺は自分の食パンを口にする。

 

 うん、今日もマーマレードは美味い。

 





ふわふわした食い物、橙色のヤツつけると、うまい
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