謎のトカゲがやって来て   作:あるてぃまや

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スターと遊ぼう


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 さく、と小気味よい音をたつ。

 むぐむぐと頬を膨らませながら、スターがマーマレードを塗った焼いた食パンをさらにほおばっている。その顔はまさに幸せそのもの。美味いモノを食うのは至福、というのは生き物共通の思いだろう。

 本当にスターは食パンが好きらしい。他のパンはどうかと思ってメロンパンやあんパンなども食べさせてみたが、微妙な顔をして結局食パンを寄越せと俺の服を引っ張る。どうしてここまで好きになったのやら。

 

「……ふぅ」

 

 スターが食パンを食べ終わるのと、俺がレポートを書き終えたのはほぼ同時だった。

 時計を見てみれば夜の9時過ぎ。そろそろ風呂かな、と考える。昼の間に風呂はもう洗っているので、湯を貯めればすぐにでも入れる用意はしている。

 パソコンをシャットダウンし、座布団から立ち上がる。風呂の方に向かい、中に入って栓を捻った。だいたい溜まりきるまで23分くらい。その間は少し暇である。

 リビングに帰ると、スターがぱたぱたと翼をはためかせてホバリングし、食パンを置いていたお皿を洗っていた。

 少し前に皿洗いを冗談半分で教えたのだが、まさかできるとは思っていなかった。やはり知能がそこらの生き物よりも飛び抜けている。人並みと考えても良いのかもしれない。

 さて、どうしたものか、と手を拭いてから帰ってくるスターを見ながら、座布団に座って考える。スマホを見て、動画サイトにアクセスするものの、目新しく興味を引かれるものはない。SNSも今は特に見たいとは思わないし、ゲームもあまり。

 そんな時、ふと勉強机にあるトランプが目についた。反対側の座布団に座り、顎をちゃぶ台に置いてだらしない顔をしているスターを見て、少し考える。もしかしたら、ワンチャンある……かも? 

 

「……なぁスター、ちょっと遊ぶか」

「ぐぁ?」

 

 スターが顔をあげる。

 俺は勉強机のトランプを持ってきて、箱から取り出してカードをザッと並べてみる。

 スターはなんだなんだ、と寄ってきて並べられたカードを眺め、首を傾げる。

 

「遊び方は色々あるが、今回はババ抜きという1番シンプルなものをやろうと思う」

「ウゥ?」

 

 スター自身、興味はありそうだ。

 とりあえず、スターにババ抜きのルールを教えてみる。人間でもないスターに教えるなどおかしな話かもしれないが、皿洗いを理解するスターならば、これくらい理解できるだろう。

 

「……ま、とにかくこの『ジョーカー』を最後まで持ってた方が負け、ってことだ。分かったか?」

 

 そう聞くと、スターはこくりと頷く。俺は軽くトランプを切って、俺とスターに半分ずつ分ける。最初は重なってるものを抜いていって、手札を減らしていく作業から。チラッとスターの方を見ると、手が小さいからか持ちにくそうではあるが、言っていた通りに捨てている。やはり理解しているらしい。

 結局残ったのは、俺が5枚でスターが4枚。つまるところ、俺がジョーカーを持っているということだ。ここからの手順は結構適当でも構わない。2人でやっているのだから、ほとんどの確率で揃う。そりゃあそうだ、だってこちらが揃ってないカードは、相手が持っているカードなのだから。

 お互いに引いて、捨ててを繰り返し、結局俺がスペードのエースとジョーカーの2枚、スターが状況からしてスペードのエース1枚。ババ抜きで1番面白いところと言っても構わない場面である。

 

「俺的に、オススメはこっちかな」

 

 右側のカードを、俺は若干上げてみる。上げた方はジョーカー。その行動に、スターは若干嫌そうな顔をしながら、2つのカードをよぉく見比べている。

 しばらくして、スターはオススメした右側のカードを指した。あらら、と心では思いながらも、顔には出さずに、どうぞ、と渡す。渡されたカードをゆっくりとめくれば、現れるのはジョーカーのカードである。

 

「グァウァ!」

 

 騙したな、と言わんばかりの顔でスターが俺に吠えるが、心理戦で負け、2分の1を外したスターが悪い。

 スターはちゃぶ台の下にカードを持ってきて、何度かシャッフルしたあとに、俺の目の前に見せる。

 見せられているカードは、左側が少し上げられている。

 

「左側がオススメってことか?」

「ぐぅあ」

 

 なるほどなぁ、と思いつつ、左側に少し手をかけてみる。反応はあまりない。なら、と右側に手をかけてみると、若干スターの身体が縮こまってこわばったように見えた。

 もう一度左側。やはり反応ない。

 となるとおそらく……。

 

「こっちかな」

 

 と、右側のカードを引く。

 うぁ、というスターの小さく情けない声と共にみたそのカードの絵柄は、スペードのエース。つまり。

 

「俺の勝ち」

 

 場に捨ててゲームセット。スターの手元に残っているのは、負け札のジョーカーだ。

 

「グァウ!」

 

 ばん、とちゃぶ台に手を叩きつけてジョーカーを場に捨て、スターはすぐさまカードをかき集める。ぐちゃぐちゃと回して混ぜ、慣れない手つきでカード切り、俺の目の前に叩きつけるように置いた。

 

「……もう1回したいのか?」

 

 強く頷かれる。どうやら相当悔しかったらしい。

 スターがやりたいなら、ともう1度同じように始める。

 

 結局俺の手元に残ったのは、ハートの9とジョーカーだ。

 

「じゃあ、次はこっちがオススメかな」

 

 今度はハートの9である左側をあげてみる。スターはじぃ、と見つめ、すぐに右側を指す。渡されたカードを見て、スターは首を引き、俺に対してキッ、と睨みつけてきた。

 

「だから言ったろ、こっちオススメだって」

「むぐぐ……」

 

 不満そうにしながらも、ちゃぶ台の下でシャッフルして、俺に見せる。オススメとかはないらしく、どちらも高さは一緒だ。

 今回はスターの様子を見ずに、さっと右側のカードを取ってみる。

 また、うぁ、とスターから声があがる。ということは、と引いたカードを見れば、ハートの9であった。

 

「また俺の勝ちだな」

 

 スターは自分の手元に残されたジョーカーを忌々しく眺め、また先と同じように混ぜて切り、吠えて再戦を申し込んでくる。はいはい、と俺はスターに付き合うことにした。

 

 続く3回、4回目。

 

 3回目は、俺が先に1枚の状況になり、ペアを引いて勝ち。

 4回目は、俺が当たり札を引こうとすると力づくで止めにきたが、外に猫が、と嘘をついて一瞬気が散った瞬間にサッと取り、ペアが出来て勝利。

 

 これで4連勝である。

 

「うぐぐぐ……」

 

 身体を震わせながら、スターがずっと睨みつけてくる。まぁまぁ、と俺がたしなめながら5回目の準備を始めたところ辺りで、風呂のタイマーがピピピと鳴った。

 

「よし、風呂入るか」

「グァウァ! ギャウ!」

 

 俺が立ち上がって風呂の方に行こうとすると、スターが勝ち逃げすんなと言わんばかりに吠え、座れと座布団を指す。どうもスター、相当な負けず嫌いのようだ。

 

「わかったわかった。風呂入ったらまたやってやるから。なんならスターも風呂一緒に入るか? 気持ち良いぞ」

 

 むっとした表情のままだか、やってくれないと分かるとスターは渋々立ち上がり、風呂に行く俺についてくる。

 家の風呂は、足をゆったりと伸ばせるくらいに広い、というワケではない。まぁ少し縮こまれば身体がすべて浸かることはできるので、特に気にすることはない。

 さっさと服を脱ぎ、風呂場に入れば、スターもそそくさと中に入る。

 俺は、ほかほかと湯気が立つ湯船から白いプラスチックの風呂桶でお湯をすくって、身体にかける。

 

「ビャウァッ!」

 

 すると、下にいたスターがお湯にびっくりしたのか、声をあげて風呂場から飛び出した。

 

「あ、悪い」

 

 そんなとこにいればそりゃあかかるだろうが、スターからすれば知ったことではない。イタズラされたと思っているのか、スターは姿勢を低くして、俺へとウーウーと唸っていた。

 

「今の事故なんだよ。許してくれないか」

「……ウゥ?」

「ほんとほんと。風呂入る時は先にお湯を身体にかけるもんなんだよ」

 

 訝しげである。

 しかし、そこで唸っていても仕方ないの判断したのか、スターは若干不機嫌そうな顔をしながらもまた中に入ってきた。その間に、俺は湯船に浸かる。ふぅ、と大きく息を吐き、上を見上げる。

 やはり、風呂は良い。とてもリラックスできる。このまま眠ってしまいそうである。

 ……風呂は眠るのではなく、気絶しているなんて話をどこかで聞いたことがあるが、まぁ瑣末なことである。

 

「……ウゥ……」

 

 スターが風呂の縁に手をかけて、お湯を見ている。お湯を軽く手で触れて、すぐに手を引いたり、匂いを嗅いだりと随分警戒している。

 

「なんだスター、水が怖いのか」

「ヴァッ、ぐ、グァウ!」

 

 そんな「ンなワケないだろ!」みたいなわかりやすい反応が返ってくるとは思わなかった。

 癪に障ったようで、ふんすと鼻を鳴らして飛び上がり、縁に座ってスターが中に入ろうとしてくる。前のめりにはなるものの、そこ以上には勇気が出ないらしく、縁にぐぐっと力込めて踏ん張っている。

 

「怖いなら別に無理に入らなくても」

「グァウ──っ!?」

 

 うるさい、と言いたげにスターが吠えた。その瞬間にスターの脚がつるりと滑る。

 俺がキャッチする間もなく、スターは湯船にボッシュートとなった。

 

「ピギャ! ギャ、ギャウァ!」

「まてまてスター落ち着け! っていでででで!」

 

 パニックになったスターがばちゃばちゃと水しぶきをあげて暴れる。スターのおしりを支え、背中に手を回して抱っこするが、暴れるスターが爪を背中にキチキチとたてて、鋭い痛みが背中に走る。それがまぁ痛いこと痛いこと。

 

「ふーっ、ふーっ……」

「大丈夫大丈夫。そんな怖くないから」

 

 ぽんぽんと背中を叩き、ゆったりとした声で、大丈夫大丈夫と何度も話しかける。その甲斐あってなのか、時間経過によるものなのか、暴れていたスターはゆったりと落ち着きを取り戻していった。

 

「……落ち着いたか?」

 

 静かになったスターに聞くと、小さくこくりと頷く。ぎゅっと俺の体を抱きしめて、離れるような気配はない。少し震えてはいるが、多分もう大丈夫だろう。

 

 ……あぁ、背中の傷にお湯が染みる。

 

 この痛みはちょっとした罰として、甘んじて受けよう。

 

 

P.S.

 風呂から上がったあと、疲れたのかスターはババ抜きもせずに俺の布団に潜り込んで寝てしまった。

 

 そこは俺のだぞ、と言っても聞かないので、一緒に寝ることに。

 

 中に入ると、スターが俺にぴたりと身体をくっつけてすやすやと寝息をたてて眠ってしまった。ぼんやりと光っていて眠りにくかったが、俺も俺で慣れたのか、そこまで気にならなくなってしまった。

 

 





まけるのは、いや。
つぎは、かつ。
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