謎のトカゲがやって来て   作:あるてぃまや

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謎のトカゲ、2匹目


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「なぁ、お前って遊戯王とかって知ってる方だっけ?」

 

 その日最後の講義終わりに、隣で受講している友人が突然そんなことを聞いてきた。

 

 遊戯王。カードゲームに疎い俺でも、その名前くらいならば知っているほどの有名なモノ。クリボーとかならば、俺でも分かる。

 よく制限カードが増えたり減ったりする、というのもSNSの受動喫煙でなんとなく知っている。だが、知っていてもその程度のものである。

 

「いや、あんまり。遊んだことないから」

「なるほど。ならちょうどいいや。スマホとかで遊戯王がお手軽に遊べるアプリあるんだけど、どう? やらね? 課金とかしなくても、好きなテーマ3つ4つくらいなら全然組めるし、今ならアプリ上でめちゃくちゃ強いテーマピックアップされてて、すぐそれもデッキ組めるんだけど」

 

 勧誘がすごい。

 

 そう言いつつ、友人がスマホを触ってアプリを起動する。ホーム画面と思わしきところには、俺でも知っているブルーアイズがいた。

 

「アプリだから対戦相手がいないとかの心配もないし、ちょっとしたチュートリアルもある。まぁ本当にちょっとしたチュートリアルだけど……まとにかく、知らなくてもすぐ遊べるぜ」

 

 友人からの期待の眼差し。近場でそういうのをやる人が少ないのだろう。

 

「うーん。まぁ、気が向いたら入れるかなぁ」

「ぬぅ。おーけーおーけー。やりたくなったら言ってくれよな。デッキ選び手伝うから」

「その時はよろしく」

 

 その後も少し遊戯王の話を友人がしていて、『わくわくあーぜうす』だとか『めるふぃーぐんかんさんげんしん』とかいうのを言ってたが、俺にはよく分からなかった。

 

 

 *

 

 いつになく、スターが集中している。

 目の前にあるのは、トランプで作ったタワーである。1番下が5段目で、今は2段目にカードをスターが置こうかというところだ。

 手を震わせながらも、2枚のカードの上部分をくっつけ、静かにそっと置く。良い感じに2枚が立つところを探しあて、スターがそっと手を離した。

 

「……フゥ」

 

 成功。次の2枚を手に取り、その隣にまた置きはじめる。そんなスターのひとり遊びを見ながら、ふと思った。

 

「……からあげ、食いたいな」

 

 脈絡も何もない。しかし、食べたいモノが浮かぶ時というのは、得てしてそういうものだと思う。

 冷蔵庫の中には、たしか鶏肉はなかった。となれば、買いに行かねばならない。

 

 よっこらせ、なんてジジくさいかけ声をあげながら立ち上がり、財布とエコバッグだけ準備し、玄関に向かう。

 

「スター、ちょっと買い物行ってくる。留守番頼んだ」

 

 こちらは見ずに、スターは首だけ振って返事をする。どうやら、頂点を置く作業をやっている様子。ここ一番の真剣具合である。

 さっと靴を履き、扉を開く。

 

「行ってきます」

 

 ばたん、と音をたてて扉が閉まる。その瞬間、ぎゃわぁっ、なんて悲鳴にも似たスターの声があがっていたが、聞いてないフリをすることにした。

 

 *

 

 買い物をしてからのんびりと帰路についていた。昼時であるため、騒ぎ立てて遊ぶような子供もいない、閑静な住宅街である。

 

 それ故に、音1つでも割と目立つ。

 

「シャーッ!」

 

 猫の喧嘩だろうか。十字路の右手、ちょうど俺の家の方角からそれは聞こえてきた。この辺りは野良猫も多いからなぁ、なんて思いながら十字路を曲がる。

 

 目の前にいたのは、予想通りの猫。

 あの猫、たしかスターに喧嘩売ってた野良猫じゃなかろうか。

 そして、その猫の二回りほど大きい、赤と黒の鱗に身を包んだ、どこぞにいる悪魔みたいな角をもつ、ガタイのいいドラゴンだった。

 

 ……ん? 

 

「ふしゃぁっ!」

 

 猫に威嚇され、不機嫌そうな顔の赤いドラゴンは、尻尾を地面に叩きつけ、身体を大きく見せるように腕と翼を広げる。まるで猫をそのまま覆い尽くさんばかりだ。

 身体をめいっぱいに使った赤いドラゴンの威嚇に、猫はたじろぐように後ろに下がる。赤いドラゴンは、猫へジリジリと近づく。今にも飛びかかりそうな赤いドラゴンに気圧されたのか、猫は後ろの家の塀に飛び乗り、そそくさとその中へと逃げてしまった。

 

「……ふん」

 

 逃げた猫を追いかけるでもなく、赤いドラゴンはその様子を見てつまらなさそうな顔をする。そりゃあ、あんな怖い顔したドラゴンに凄まれたら怯えて逃げ出すだろうに。

 

 ……というか、この辺りは俺が知らないだけで、こういうドラゴンみたいなのが色々と居着いてるのだろうか。あんな生き物、今までスターよろしく見たことがないのだが。

 

「……グォン?」

「あ」

 

 見てたら気づかれてしまった。

 赤いドラゴンは、ドシドシと身体を揺らしながらこちらへと歩み寄ってくる。俺は少し後ずさりしながら、距離を取ろうとする。がしかし。

 

「うわっ!?」

 

 後ろ向きに歩いたのがいけなかったらしい。少し大きな石を踏んで、俺の身体はくるりと大きく転倒した。持っていたカバンから、今日買っていたジャガイモやらリンゴやらレモンやらがゴロゴロと転がる。痛みに若干悶えつつ、やってしまったと考えたもつかの間、赤いドラゴンが俺の身体をまたいで腕を組み、高圧的な様子で見下しながら立っていた。

 

「……や、やぁ。ごきげんよう……」

 

 言うことがないので、とりあえず挨拶をしてみる。しかし、赤いドラゴンはそんな挨拶を無視し、目を細めてグイッと顔を近づけ、訝しげに俺の顔を舐めるかのように眺める。俺の顔に何かついてるのか、と言いたいところだが。

 

「……あ、あの、できればなんだけど、退いてくれると嬉しいな……って」

「……ふん」

 

 しばらくの間、俺の顔を好きなだけ確認した赤いドラゴンは、おもむろに俺から離れる。やっと離れてくれた、と俺がため息をつきながら上体を起こしている間、赤いドラゴンは辺りを見渡して、散らばってしまった食べ物を拾い集めてくれていた。俺がズボンからホコリを払って立ち上がったあと、赤いドラゴンは抱えている食べ物を見せつけるように俺へと差し出した。

 

「グォウ」

「あぁ、うん。助かる。ありがとう」

 

 別に、というように赤いドラゴンが顔を逸らす。内心では悪かった、と思っているのだろうか。

 赤いドラゴンが持っている食べ物を1つずつ貰い、ホコリを少し払いながらカバンに入れていく。その時、赤いドラゴンの手がぴたりと止まった。

 

「……どうした?」

 

 持っているのは、見ているだけでも何故か口の中が酸っぱく感じてしまうような黄色い果物、レモンである。このレモン、1個だというのにお値段はなんと250円の代物。105円程度で買える普通のレモンとは果たしてどれくらい違うのだろうか、とつい気になってしまったのだ。今日の夜はからあげにする気でもあったし、丁度良いかと購入を決意したのである。

 

 そんなレモンを、赤いドラゴンはじっと見つめている。

 

「……食いたいのか」

「ガヴッ」

 

 頷かれた。

 なんだろう、このどことなくスターと似た雰囲気は。食いたいのならばどうぞ、と言いたいところだが、このレモンはちょっと困る。俺も食べたい。ただ、ダメなどと完全に拒否すると何されるか分からない。

 

「……半分だけなら良いぞ」

 

 ということで、妥協案の半分。レモンを半分にして、片方を渡す。受け取った赤いドラゴンは、レモンの果肉の匂いを嗅ぎ、おもむろにペロリと舐める。

 

「~~~~っ!」

 

 赤いドラゴンの身体がびくりと震えた。目をぎゅっと閉じて、口に広がっている酸っぱさに耐えてるような様子。まぁ、野生でレモンなんてモノ食べる機会はあまりないだろうから、未知の刺激に驚いているのだろう。あんまり好みではなかっただろうかと見てると、赤いドラゴンはまたレモンをひと舐め。先程と同様の反応を見せつつも、喉奥を鳴らすような音をあげていた。

 

「……気に入った、のか?」

 

 赤いドラゴンは黙ったままだが、大きく首を縦に降る。高いレモンだから気に入ったのか、はたまたレモン特有のその酸っぱさがクセになる味だったのか。どちらにせよ、美味しいみたいである。

 渡すものも渡したし、赤いドラゴンに関わる理由もないので、エコバッグを肩にかけて家に帰ろうとする。

 帰ったらスターがあのトランプタワーを完成させているだろうか。それとも、まだ苦戦しているのか。

 

 なんて考えていると、俺以外の、ちょっと重たげな足音が後ろから、どすどすと。

 

 ……あー。

 

 振り返らなくても分かる。この感覚、知っている。

 

「……ふーっ」

 

 呼吸を整えて、ちょっと足に力を込める。大丈夫、俺の予想が正しければ、酷い目には遭わない。だって、スターと似たような気配があるから。

 

「……っ!」

 

 だっ、と急に俺は走り始める。家は走って30秒程度のすぐ近く。追いつかれる前に、家の中に入ってしまえばどうにでもなる。

 スターだけでも大変なのだ。また変に新たなドラゴンと一緒に暮らしてなるものか。

 

 曲がり角を曲がり、家の玄関へ一直線。家の扉に鍵を差し込み、鍵を開けて──

 

「グォウ?」

 

 ──急停止。

 

 隣に来た赤いドラゴンは、いきなり止まった俺を見て不思議そうにしている。まるで、いきなり走ってどうしたんだ、みたいな顔で。

 

 ……いやまぁ、分かっていた。

 

 走って逃げられないとは思っていた。でも、もしかしたらに賭けるしかないじゃないか。ちょっとスターより身体大きいし、動きが鈍いかも、と。

 しかし結果は、俺の全速力に余裕でついてこられて。明らかに俺と行動しようとしてる気配があって。

 

「……なんで、ついてくるんだ?」

 

 本心からの疑問。しかし、赤いドラゴンは首を傾げるばかり。

 俺は目頭をつまんで、大きくため息をつく。

 

 やはり野生動物に餌付けは良くないと、心の底から思う。

 

 もうどうしようもないので、俺は大人しく玄関を開ける。そうすれば、俺の横からするりと赤いドラゴンが中へと入っていった。

 

「ただいまぁ……」

 

 家主より先に入るなと言うのも疲れる。はてさてどうしたものかなぁ、と考えていると、我が物顔で入った赤いドラゴンが、その場で立ち止まった。

 視線の先には、スター。

 

「…………」

 

 対するスターもスターで、作りかけのトランプタワーに手をかけたまま、赤いドラゴンを凝視している。

 かと思えば、トランプタワーから手を離し、赤いドラゴンの方へと歩いていく。それに呼応するように赤いドラゴンもスターの方へと近づいていき……。

 

「ギャワァッ!」

「グォルォ!」

 

 どちらからともなく、相手に掴みかかってボカボカと殴り合いを始めた。

 

「ちょっ!?」

 

 出会った瞬間に喧嘩勃発なんて誰が思うだろうか。俺はエコバッグを投げ捨て、慌ててスターを赤いドラゴンからひっぺがす。

 

「おいっ、ちょ、こらこら! こんなとこで喧嘩すんな!」

「ギャウ! ウギャルァ!」

 

 しかし悲しいかな。本気で暴れられると人間は非力なもので、スターにすぐ手を払い除けられ赤いドラゴンに掴みかかる。

 

 ポカポカと殴るわ、足でげしげし蹴り合うわ、掴んだ状態で投げとはずわ。

 

 ドタバタとしてちゃぶ台にぶつかり、トランプが宙を舞う。壁にぶつかり、かけていてカレンダーが下に落ちる。このままだと、俺の家はもっと被害を被る羽目になるのは火を見るよりも明らかで。

 

「~~~っ! スター! それ以上やるなら、これからパンはずっと抜きだからな!」

 

 その言葉に、赤いドラゴンに殴りかかろうとしていたスターの手が止まる。その隙を逃さないように、赤いドラゴンがスターの顎に見事なアッパーカットを決め、スターがこちらに飛んできた。

 

「ちょっわっ!?」

 

 飛んできたスターを抱くようにしてキャッチするが、その勢いのまま、俺は尻もちをついてしまう。

 

「……グォルォ」

 

 かかってこいよ。

 そう言いたげに、その場で赤いドラゴンがどっしりと構えている。スターはそれを見て反射的に立ち上がろうとするが、一瞬止まり、俺の方に目を向けた。

 

「……パンあげないぞ」

 

 釘をさすようにもう一度。

 スターは、俺と赤いドラゴンを交互に何度も眺め、うぐぐ、と唸りをあげる。

 

 かなり長時間悩んだ末、スターはゆっくりと立ち上がる。

 ようやく立ち上がったスターに、赤いドラゴンはようやくかとさらに姿勢を低くする。そうして、スターは赤いドラゴンの方へ──

 

「……グルォ?」

 

 ──はいかず、ちゃぶ台から散乱したトランプの方へと向かい、1枚1枚拾い集めていく。

 

 そんなスターの様子に、赤いドラゴンはスターの近場に寄り、戦えと言わんばかりに唸る。しかし、スターはそんな赤いドラゴンを面倒そうに横目で見るだけ。

 トランプを集め、落ちているカレンダーも元に戻したスターは、かなり不機嫌そうにこちらに寄ってきて、せめてもの八つ当たりか、少し強めに身体をぶつけて俺に寄りかかり、軽く俺の腕に噛み付く。

 

 少し痛いが、まぁ我慢をさせたのである。これくらいは甘んじて受け入れよう。

 

「……グゥ」

 

 この様子には、戦闘態勢に入っていた赤いドラゴンも拍子抜けしてしまったのだろう。スターが戦う気もなさそうなので、姿勢を戻し、俺の腕に噛み付いているスターを見て、つまらなさそうにため息をついていた。

 

「お前もいきなり俺の家で喧嘩はじめるんじゃないの。色々壊したらどうするつもりだったんだ?」

 

 赤いドラゴンにそう言うと、赤いドラゴンは少し顔を背け、ほんの少しだがこくりと頷くように頭を下げる。分かってくれるなら、まぁ良いだろう。

 

「はぁ。やるなら他所でやってくれ。他所で」

「……グォ?」

「そう、他所。それなら俺も何も言わないから。好きなだけ殴り合ってくれ」

 

 その他所発言に、噛み付いていたスターが顔をあげる。

 それなら、本当に良い? と聞きたげな目で俺を見つめるので、黙って頷いた。

 

 そうすると、スターはぴょいと飛び上がり、赤いドラゴンに一鳴き。それに呼応するように赤いドラゴンも低い鳴き声をあげると、傍目なんとも仲良くとてとてと玄関から2匹とも出ていってしまった。その後ろ姿だけ見ると、姿は全く違うが、なんとなく兄弟のような雰囲気を感じた。

 

 そう思ってふと気づく。

 

 赤いドラゴンが俺の匂いを嗅いでいたのは、スターの匂いを感じとったからなのではないか、と。だから、俺の家にまでついてきたんじゃなかろうか。

 

 ま、なんにせよ……。

 

「……変なの、2匹目かぁ……」

 

 天井を見上げながら、1人呟くのだった。





レッド・デーモンズ・ドラゴン

通称レモン。
スターダスト・ドラゴンとは主人公のライバル決闘者の切り札としてなど、色合いからしてもライバル色が強い。

顔は怖いが、悪いことをしたら不器用ながらも謝ろうとはする良い子。
なんの因果か、レモンの酸っぱさを気に入ったらしい。
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