謎のトカゲがやって来て 作:あるてぃまや
やれやれ、これだからまけずぎらいは。
「……よし」
揚げたからあげを見て、俺は1人頷いていた。
スター達が喧嘩か何かをしに行ったあと、夕飯の用意として味噌汁やからあげを作ったワケだが、スターはまだ帰ってこない。
まぁ、その内帰ってくるだろう。それまでにからあげが少し冷えてしまうが、こればっかりは仕方ないと割り切ろう。
からあげにラップをかけてから、俺はテレビをつける。そうして、ぼう、としながらテレビを見ていて目に入ってきたのは、遊戯王のCM。友人がやろうやろうとよく言っているそれだが、1度くらいはやっても良いのかもしれない。
なんて考えていると、ベランダがガラガラと音を立てて開く。どうやら、スターが帰ってきたようだ。
「おかえり、そこのタオルで脚拭いてから入……」
……ボロボロになった姿で、ついでに後ろには赤いドラゴンも付属で。
スターはまぁ同居している存在であるからして良いとしても、何故赤いドラゴンも普通に帰ってきているのか。普通に考えておかしいだろう。
「ここ、お前の家じゃないだろ」
思わず赤いドラゴンにそう言うと、赤いドラゴンはキョロキョロと辺りを見渡し、今のは誰に言ったんだと言いたげに首を傾げる。
「お前だよ、お前。そこにいる赤いお前」
「?」
「なんで分かんないんだよ。さっきまで言葉通じてただろ」
家にあがってきた赤いドラゴンを追い出したいが、スターとの喧嘩を見て膂力で勝てるワケがないのは理解している。つまるところ、俺にはどうしようもなくて。
大きくため息をつき、俺は立ち上がる。
「なんにせよ、そこのタオルで脚拭けよ。そのままだと床汚れるんだから。スター、その赤いドラゴンに教えておいてくれ」
「クギュ」
スターに頼んで、俺は勉強机の引き出しから医療用具の箱を取り出す。見るからに擦り傷だらけ怪我だらけ。応急処置くらいはしてやった方が良いだろう。
「スター、こっちおいで」
箱を持っている俺を見て、スターはなになにと興味津々でこちらに寄ってくる。俺が座ると、割とナチュラルにスターは俺の膝に腰を据える。箱の蓋を開けてやると、スターはその中の匂いを嗅ごうとして、すぐに首を後ろに曲げた。薬品の匂いはそう嗅いでいてこう、鼻にスっとくる感じで良い匂いとは言い難いし、当然ではある。
その中から俺は、擦り傷とかに使う市販の軟膏を取り出して、蓋を開け指先にちょろっと出す。
「スター、これ傷口に塗るから、ちょっと染みるかもだけど暴れるなよ?」
「グァゥ?」
「大丈夫大丈夫。これすれば傷の治りも早くなるし、ちょっとだけしか染みないから」
俺はスターを軽く抱っこし、目に付いたスターの擦り傷に、軟膏を塗る。
「ぴきゃあっ!」
「うおっと。こーら暴れない。我慢しろ我慢」
「ぎゃわぅ! ぎゃぁ!」
瞬間、スターはもはやパニックレベルで俺の腕の中でじたばたともがく。
俺の体にぎちぎちと爪を立て、スターは身体を震わせていた。まるで風呂の時みたいな反応である。
「痛ででっ! 爪っ! 爪立てるなこのおバカ!」
「ぎゃうん! ぎゃあっ!」
傷を治しているというのに俺の体はその対価かのように引っ掻き傷が増えていく。その傷をつけてくるスターはもはやギャン泣きである。そんなに染みたのか、はたまた俺が塗るの下手くそで、傷口に指を押し込んでしまったのか。
「おいスター、落ち着けって。殴り合い蹴り合いの喧嘩なら、多分お前泣いてないだろ。なぁんで軟膏塗るだけでそんなギャン泣きするんだ? こっちのが絶対痛くはないだろ」
「ギャウァ! ゥギュルル!」
「それとこれとは違うって? そうかなぁ……?」
ブンブンと首を大きく横に振るスターに、眉をひそめる。まぁ、人にはそれぞれ耐えられる痛みに種類があるみたいなこともあるし、ドラゴンのスターにもそういうのがあるのだろう。このじくじくする痛みは嫌い、とか。
「はい、これで終わり」
一通り塗り終わり、スターを解放してやる。へにゃりとその場でへたれこんだスターの頭を軽く撫でて、前を見る。
さて、あとは……。
「えーっと……赤いドラゴンくんよ。お前もスターと喧嘩して傷だらけだろ? 軟膏塗ってやるからこっちおいで」
ちゃぶ台の反対側で座っている、赤いドラゴンに手招きして俺の膝を叩く。しかし、赤いドラゴンはスッと視線を逸らし、聞いてませんよアピールをしていた。
「……怖いのか?」
ぴくり、と赤いドラゴンの体が揺れる。
まぁたしかに、さっきまで喧嘩してたスターが、あんな情けない姿を晒していたのだ。そりゃあちょっとは怖くなるというもの。
なるほどなぁ、とちらりとスターを見て、俺は少し笑った。
「そうかぁ。怖いなら仕方ないよなぁ。なんだかんだスターはできたんだけどなぁ?」
「グァ〜?」
新しい玩具を見つけたのような顔のスターが、明らかにバカにしたように鳴いた瞬間、バンッ、とちゃぶ台が大きな音をたてて叩かれる。
ちゃぶ台が割れたかと思ってびっくりした。
叩いた勢いそのままに赤いドラゴンは立ち上がり、ずんずんと俺に近づいてくる。やって来た赤いドラゴンを見て、もう一度膝を叩くと、赤いドラゴンは乱暴に俺の膝に座る。この子も相当な負けず嫌いなのだろう。
「グォン」
早くやれと言わんばかりに俺の方を向いたので、それじゃあと俺は躊躇なく赤いドラゴンの傷に軟膏を塗った。
「ピッ!?」
刹那、赤いドラゴンからとは思えない高く情けない声があがる。思わず手を止めると、赤いドラゴンはこちらを見て、ほんの少しだけ涙目になりつつも、威厳を保たせたいのか、早くやれよと言わんばかりに睨みつけてきた。
ふるふると身体を震わせて耐えているのがよく分かる。これはさっさと終わらせてあげないと可愛そうだろう。
大きそうな傷に軟膏を塗り、その都度短い悲鳴のような声が赤いドラゴンからする。その姿を見て、隣のスターはにやにやにやにや。
「いや、他人も気にせず、我慢もせずにギャン泣きしてるお前のが圧倒的にカッコ悪かったからな?」
「ギュッ!?」
当たり前だろうが、と付け足すと、スターは不満そうに頬を膨らませていた。
そうこうしてる内に、赤いドラゴンの傷にも粗方軟膏を塗り終わる。じくじくとする痛みが嫌なのか、何度も身体を震わせる赤いドラゴン。まぁ、スターみたくギャン泣きしなかったことは褒めるところだろう。
「よく我慢しました。偉いぞ」
赤いドラゴンの頭を左手で撫でると、その手を赤いドラゴンは払い除けようと腕をあげる。
「……グルル」
が、何を思ったか、その腕を下ろして俺にやられるがままに。撫でられたのが嬉しかったのだろうか。
「ゥギュウ……」
それを見て、スターが俺の右の裾を軽く噛んで引っ張った。赤いドラゴンの方を羨ましそうに眺めてから、上目遣いでこちらを見てくる。
「はいはい、スターも偉かったぞ」
雑な褒めではあるが、余っている右手で撫でてやると、スターは堪能するように目を伏せる。犬猫なんてペットを飼うと、こんな感じなんだろうか。いや、どちらかといえば、子供、弟とかの類か。
そうして2人のこと撫でていると、どこからともなく、ぐぅ、と腹の虫が鳴いた音がした。
「……グォ……」
恥ずかしそうに顔を背けているところからして、発信源は赤いドラゴンらしい。
「夕飯、食うか」
「ギャウ!」
元気の良いスターの返事。よしよし、と俺は立ち上がり、味噌汁を再度沸かし、置いているからあげの皿をレンチンする。その最中に箸やら白飯をよそうやらと手早く済ませていく。
もうスターもこの辺りのことは理解してるので、俺の代わりに小皿やらの用意をしてくれていた。
「ありがとうな、スター」
「ギャウァ」
それくらいのタイミングでからあげはチンが終わる。レンジから取り出してちゃぶ台に置き、あとはキッチンに戻って味噌汁を見れば、良いくらいには温まっていた。味噌汁を3つ分入れ、トレーに、赤いドラゴンが食べる用にスプーンとフォークを1セットと味噌汁を置いて持っていく。
その間に、スターは自分の割り箸を持ってくると、ぱきりと綺麗に割って自分の所に置いていた。
箸の使い方を教えてみれば、あっという間に習得してしまった。本当にスターは吸収率が高い。教えると大半は上手いことできるようになるのだ。
「そろそろ、スター用の箸買ってやるか」
「グァウ?」
「そう。毎回毎回割り箸なのはなんかなって思ってたし。それくらいなら買ってあげるさ」
ふふん、と鼻を鳴らすスター。
そんな俺とスターのことをじぃ、と静かに見てるのは、赤いドラゴンである。
自分は何もしてないことを気にしてるのか、少しそわそわとした様子である。
「まぁスターの友達……か何かは知らないけど、少なくともお客さんだからな。そんな気にしなくて大丈夫だぞ」
まだ少し納得はしてないのか、微妙そうな顔である。そんな赤いドラゴンのところにスプーンとフォークを置くと、赤いドラゴンはそれを見たあと、スターの持っている割り箸を指さした。
「箸を使いたいのか?」
こくり、と小さく頷かれる。
使うの難しいぞ、と言いたいが、スターが使えるなら、この赤いドラゴンも割と普通に使えるのかもしれない。
試しに箸の使い方を教えてみると、こともなげに使えるようになってしまった。スターが特別かと思っていたが、ドラゴンという存在自体が器用な存在なのだろうか。
まぁ、なんにせよ。
「じゃあ、いただきます」
手を合わせ、いつもの号令。スターは知っているのでしっかりとやっている。それを見よう見まねでする赤いドラゴン。
そうして、俺やスターが食べ始めると、赤いドラゴンはやや遠慮しがちにからあげに手を伸ばす。
レンチンしたから、あまりカラッとはなってないけれど、さてどうだろう。
「……っ!」
からあげを口にした赤いドラゴンが、驚いたように目を開く。続いて1個2個と、ポンポンと口の中へ。
見た感じ、気に入ってくれたようだ。
スターと俺の分だけで考えていたから、からあげ、少し足りないかもなぁとふんわりと思う。
さて、あとは。
「ほら、これを絞ってからあげにつけてみな」
からあげもそうだが、レモンも気になっていたのだ。
俺は、買ってきていたレモンを輪切りにたものを赤いドラゴンに渡す。赤いドラゴンは、直で食わないのかと不思議そうにしながらも、俺の言われた通りにちょっとだけからあげに絞ってかける。そうして、からあげを一口で口の中に入れ込んだ。
「~~~っ!!」
弾かれたように顔をあげ、赤いドラゴンは俺の方を見た。反応からして分かる。凄く美味しかったのだろう。
そんな美味いのかと、俺もからあげにかけてみる。
柔らかい肉を噛むたびに、肉汁と旨味が広がる。そして、かけたレモンの香りは、ほのかに広がりながらも主張しすぎず、かといってからあげに何も寄与しないなんてことはなかった。レモンの酸味は、からあげの脂っこさを程よく中和し、さっぱりとした口当たりにしている。
飽きずにもう1個、もう1個といけてしまうような、そんな……。
「あ、やべぇなこれ。めちゃくちゃ美味い」
これは困った。想定を超えて美味い。普通にこのあとポン酢で食べるつもりだったというのに、それで食べる前から分かる。多分、いつものように食べるポン酢じゃ満足できないということに。
スターにも同じように食べさせてみると、スターも驚いた顔をしてレモンを俺に要求してきた。ホントによく分かる。
2人分だったということもあり、からあげはあっという間に俺含めた3人の胃袋へ。余韻のように口に広がる爽やかなレモンの風味。
スターも赤いドラゴンも満足気なようで、食べ終わり、ふぅと一息ついていた。
「ごちそうさまでした」
手を合わせ、美味しいものを食べたことに感謝を。
うん、今日のからあげ、非常に大満足であった。
あのレモン、また買ってみようかな。
そんなことを、俺は割と本気で考えてしまっていた。
先にたおれたのは「白いの」だというのに、オレの勝ちなんて言う。
このまけずぎらいめが。