謎のトカゲがやって来て   作:あるてぃまや

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予定調和の名付けではある


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『我々調査団はこの土地に住むと言われる伝説の生き物、火吹き竜の謎を調査し、その結果、ファイアサラマンダーにたどり着くことができました。ファイアサラマンダーは──』

 

 テレビは、小さなオレンジと黒色のトカゲを映す。そんな名前の生き物、本当にいるんだなぁと思いつつ、横目でちらと一緒に見ている存在を見る。青白い流線型の身体、翼の生えている、どちらかといえば西洋的に有名な風貌をした、ウチの同居人である謎の生き物、スターのことを。

 

「……ウゥ?」

「いや、なんでもない」

 

 俺の視線に気がついたらしく、どうしたの、と言うように首を傾げる。

 誤魔化すように右手で頭を撫でてやると、スターは目を細め、くるる、と喉を鳴らすように鳴いた。

 

 ……もっと稀有そうな存在、目の前にいるんだよなぁ。

 

 頬を突っついたり、喉元を撫でたりすれば、遊んでくれてるとでも思っているようで、俺の手を掴んだり、指を軽く食んでいる。その様子は、姿は違えど犬猫そのものにしか見えなかった。

 

 なんだかんだとこうやって一緒にいるが、結局スターが何なのかの手がかりについて、未だ一切掴めていないのが現状であった。

 前に、友人に冗談半分で生物研究所みたいなところが近場にあるかを聞いてみたが、そんなところは知らないと言われた。

 まぁ、こんなスターのような存在を造っているような場所があったとしたら、秘密裏であろうし、一般人が分かるわけもない。もしもそんな場所から脱走したのだとしたら、こんなところで甘えてるスターは、もっともっと早い段階で見つかってることだろう。などと、ずっと思っていた。

 

 それに……。

 

 甘えるスターにかまってやっていると、急にベランダの扉がガラガラと開く音がした。そちらを見れば、ムスッとした顔をする、赤いドラゴンの姿が。

 

「いらっしゃい。今日も不機嫌そうだな、お前は」

「……フン」

 

 悪かったな、とでも言うように鼻を鳴らす赤いドラゴン。

 

 そう、もしもそんな研究所があるならば、この赤いドラゴンだって、造られたその対象だろう。それでもこうやって、俺の家へ毎日のようにあしげく通ってくるのだ。ここに来る最中に捕まらないということは、その研究所の人が驚く程に相当なポンをやらかしてるか、そもそもそういう存在じゃないということ。

 俺は後者であろうと、赤いドラゴンが来るようになって、薄々ながら気づきはじめていた。

 

 脚の裏をベランダに用意していたタオルで拭き、ドスドスと音を立てて中へと入ってくる。赤いドラゴンは、こちら来ると、一鳴きし、俺の手を掴む。そうして、口に咥えていたらしいモノを、俺の手のひらに落とした。

 

 見てみれば、緑色が内包された石のようなものである。宝石の原石みたいなものだろうか。色味はとても真緑に近くて、とても綺麗である。

 

「あぁ、またプレゼントか、これ?」

「グォン」

「そっか、いつもありがとうな」

 

 撫でてやると、満更でもなさそうな顔をする。この赤いドラゴン、来る時には何かしらこういう石を持ってやって来る。これがなんなのかはよく分からないが、とりあえず、赤いドラゴンなりに対価を持ってきているということなのだろう。生真面目である。

 

 俺は立ち上がり、冷蔵庫の方へ歩いていく。冷蔵庫を開き、中から冷えている輪切りのレモンを入れたタッパーを取り出した。レモンを一つ手に取って、タッパーを直す。

 

「ほら、レモン」

「グォウ!」

 

 俺から輪切りのレモンを受け取ると、嬉しそうに鳴き、どすどすと俺の座っていた座布団の近くに座る。

 

 レモンに齧り付いてる赤いドラゴンを見ているスターは、不思議そうな表情をしている。よく赤いドラゴンがレモンを美味しそうに直で食べているのだ。からあげの時みたく、かけて食べるレモンとはまた違った何かがあるのかと考えたようで、1切れスターが俺に要求してきたのである。

 渡した結果は、まぁ……不思議そうな表情をしているところから分かるだろう。

 

 戻ってきた俺は座り、テレビを消す。さて、やることというやることは終わらせている。今から何をしたものか。

 

「グァウ」

 

 暇ならかまえとすりつくスターを、右手で撫でて遊びながら、ふと思ったことがある。スターと反対にいる、この赤いドラゴンのことだ。

 

 単純な話ではあるが、名前が無い。

 

 いや、スターのようにここで暮らすつもりは無さそうなので、付けなくても良いといえば良いのだろう。だが、こんなに毎日通ってきているというのに、毎回毎回「お前」だの「赤いの」だの「赤いドラゴン」だの呼び方が些か可愛そうに思う。当の本人は気にしている様子もないし、それで通じているのだから良いのだろうけれど、なんというか、ただのこっちの気持ちの問題である。エゴだな、なんて内心苦笑する。

 

「……なぁ、お前さ、名前、欲しいか?」

 

 レモンを齧り、その酸っぱさに身体を震わせていた赤いドラゴンは、名前と聞いて反応を示す。首を傾げて少し考えたあと、赤いドラゴンは、こくっと頷いた。本人も欲しいというならば、考えてやるのが良さそうだ。

 

 しかし、この赤いドラゴン……どんな名前が良いのやら。まぁまず無難なところと言えば。

 

「クロとか?」

「グォウァ!」

「んじゃあ、レッド?」

「グルルァ!!」

 

 鋭い爪は当てないように気を使いつつも、ちゃんと殴られた。

 やはり色で呼ばれるのは気に食わないらしい。犬猫ならそれでも気にされないが、なまじ頭が良いこいつらはそういうとこに聡い。

 

 では、悪魔みたいな顔だし、デーモンとかだろうか。しかし、毎度毎度デーモンなんて呼ぶのはなんだかこう、仰々しい。それに、デーモンと呼ぶほど悪魔じみてるかと言えば、そういうこともない。たしかに顔は悪魔じみてるが、中身は正直スターよりも良い子だ。毎度毎度レモン一切れとはいえ、対価を持って来ようとはしているのだし。

 それに比べこのスターは……。

 

「ギャワゥ!」

「痛った!? スターおまっ、今なんで俺のこと引っ掻いた!?」

「フンっ!」

 

 頬を膨らませ、不貞腐れた様子でそっぽを向くスター。まさか、心の中でも読まれてしまったのだろうか。いや、まさか。流石にそんなことはない……はず。

 あとでスターの機嫌取りをするにしても、早いところ名前を決めてやらねば。

 

「……んー、じゃあキングとかか? 王様って意味だけどさ。カッコイイだろ?」

「……ふっ」

 

 聞いてみると、ほんの少しだけ口元を緩ませる。しかし、それは良いという意味ではなかったらしく、無言で首を振られた。

 まぁ仕方ない。雰囲気からそんな気配を感じたのだが、赤いドラゴンが嫌だというのならばやめておこう。

 だとすると、他には……。

 

 腕を組み、俺がうんうんと唸っていると、赤いドラゴンはちょんちょんと俺の腕をつつく。どうした、と赤いドラゴンの方を見れば、赤いドラゴンは、食べかけの一切れのレモンをこちらに見せてきた。

 

「……え?」

 

 なんだ、それは。何故レモンを見せてきたんだ、この赤いドラゴンは。いや、なんとなく予想はつく。予想はつくが……。

 

「……レモンが良いのか?」

「グォン」

 

 迷う様子もなく、こくりと。

 

「……んー?」

 

 レモン。レモン? いやたしかに、この赤いドラゴンは何故かレモンが好きである。でもだからといって、自分から自分の好きな食べ物の名前を名乗るのは、はたしてどうなのだろうか。

 

 ……いや、待てよ。

 

 レモン。レッドのレに、デーモンのモン。

 

 レッド・デーモン、略してレモン。

 

「……おお?」

 

 これは、これは良いのではないか? レッド・デーモンのレモン。略した方がなんだか変だしこじつけ感凄いが、レモンという名前に、この赤いドラゴンのカッコ良さを内包する略称という意味を持たせるのは、天才的発想ではなかろうか。それならば、レモンでも変な話ではない。

 

 そうだ、そういうことにしよう。

 

「よし、お前は今からレモンだ」

 

 勝手に俺の中で解答が生まれた名前、レモン。なんにせよ、本人が良いならばそれで良いだろう。本人はそのままレモンの意味だろえが、俺はレッド・デーモンのレモンの意味としてレモンと呼ぼう。

 

「じゃあ、これからもよろしくな、レモン」

「グォン!」

 

 そうして、赤いドラゴンにも名前がつく。

 

 レモン。

 

 不思議な名前だが、割としっくりきたのはなぜなのだろう。

 名前とは、意外とそういう話なのかもしれないな、なんて思うのだった。

 

 

 

 

 

 

 ─オマケ─

 

 大学内のとある一角にて。

 

 一緒に学食を食っている友人と話している時に、話題の1つとしてこんなものをあげた。

 

「なぁ、お前って石とかそういうの詳しいよな」

「なんだいきなり。って、まさかついに石に興味が出たってコトか!?」

「あいや違うくて、ちょっと見てほしいものがあるんだよ」

 

 なんだよぉ、と残念そうにしている友人はおいといて、俺は先日レモンから貰ったあの緑色の石を机に置き、友人に見せる。それを見た友人はニヤリと笑った。

 

「へぇ、ま、そんじょそこらの石ならオレぁ大して驚かねぇが、どれどれ……」

 

 そうして、友人はどこからか取り出した白い手袋をはめて、石を回転させながら見始める。仮に何か名前があるのならば、知っておきたいな、なんていうそんな軽い考え。

 

 しかし。

 

「……は?」

 

 友人の顔がその一言を皮切りに真剣そのものになる。あれ、もしかしてそんじょそこらでは無いのか、と俺は首を傾げた。

 

 そうしてしばらく。

 

 眺め終わった友人はオレに黙っておもむろに返すと、ちょっとこっちに来いと人気の少ないところに連れていかれた。

 

「お前、今のどうやって手に入れたんだ?」

「どうって、まぁ知人から貰ったんだけど、俺これが何か分からないからさ、石マニアなお前ならわかると思ったんだけど……」

「貰った? これを? 貰ったってことは、金払ってねぇってこと?」

「まぁ、タダで……」

 

 それを聞くと、友人は大きくため息をつき、いいか、と言葉を続ける。

 

「今の、ペリドットっていう宝石の原石。で、この大きさだと加工すれは5カラットなんて普通に超えるんだよな。しかも、オレの間違いじゃなきゃ、キャッツアイも入ってる。ペリドットってのはまぁ夜会のエメラルドって言われるとおり緑の宝石なんだが、これは……」

「……あー、悪い。結論だけ頼む」

「……正確な値段は分かんねぇけど、ほぼ素人目でも状態良いし、これで上手いことカッティングしたなら、そうだな……ま、下手すりゃあ100万とかで取引される可能性もあるかも」

「ひゃくっ……!?」

 

 考えてもみなかった大金に、俺は思わずカバンに入れていた緑色の石、ペリドットの原石を見る。

 これが、100万するかもしれないもの? そんなものをなんとなしに貰っていた? 

 

「いや、マジで気をつけろよ。多分あのタイミングでそれに気付けるやついないとは思うけど、マジでヤバいぞそれ。売るならさっさと売った方が身のためだし、売らないならマジでちゃんと保管しとけよ」

「お、おぅ、そうする」

 

 急にカバンが重たくなったような気がする。分不相応なものを持つと、こんな気分になるのだろうか。

 変な汗をかいてる俺を見て、友人は頭の上で手を組んだ。

 

「いやぁ、でも良いなぁ。なに、お前の知人分かって渡したの? それともお前みたく価値が分からんタイプ?」

「た、多分後者……」

 

 だと思いたい。

 もし、前者だとすれば……。

 

 

 

 

 ……その日から、俺はレモンに石を持ってくるのは止めるように伝えた。なぜ、という顔をされたが、とにかく要らないと。

 

 あれ以外にも石はわんさか貰っている。もしそれも俺が分からないだけで、全部希少価値の高い宝石の原石だったら……。

 

 うん、貰ったものは、大切にしまっておこう。

 

 

 

 




われにとってのキングは、この世でただひとり。
 だから、われが名乗るのは、ちがうのだ。
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