オブリヴィジョン   作:縁迎寺

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補習の時間
講師:スクラ

 さて。それでは補習の時間だ。記念すべき第1回は能力、特に能力者について。とは言っても今回は簡単に終わる。皆は疑問に思ったんじゃないか? 何故俺が、魔術の始祖たるエオスの弟子なのかと。エオスとは昔の人物なのではないかと。…まあ、わかる。当然そう思うだろう。だが俺は正真正銘エオス師の弟子だ。エオス師も、昔の人物だ。もう何百年も前にあの方に師事していた。まあつまるところ、俺はもう何百年も生きている。そして、それだけ生きていながらこの若い見た目を保ち続けている。何故そのようなことが可能なのか。それは俺が能力者だからだ。それでは、解説を始める。
 能力者というのは不思議なことに、能力に目覚めた瞬間に不老となり、寿命では死ななくなるのだ。だから極端な話をすれば、幼少期に目覚めれば死ぬまでずっと子供の姿のままというわけだ。まあそれだけの話だ。そうした背景で過去に色々とあったらしいが…、そういったことは俺は詳しくないからな…。当時も生きていたセレニウスさんにでも聞いてみるといい。あの人は俺の倍は生きているから…。おっと、何か悪寒がしたから、今日の補習はここで終わりだ。ではまた次で会おう。
 


16.守勢、蛮声、意志雄声

 額から冷や汗を流すプロドは、しかし次の瞬間には毅然とした態度でカルコス達に向き直っていた。その様子に、カルコスは眉をひそめる。

 

「…こんなところにまで何をしに来たのかね? …持ち場に戻るがいい」

「…貴方こそ、こんなところで何をしているのですか?」

 

その妙に堂々とした態度に、カルコスはもちろん、リトスとアウラも違和感を覚えている。それ故、彼らの武器を構える手により一層力が入る。そんな彼らを前にしても、やはりプロドの堂々とした態度は崩れない。

 

「…私がどこにいようと、君たちには関係あるまい。さあ、早く持ち場に戻りたまえ。そしてこのことを綺麗に忘れ、復興作業に勤しむがいい」

「『全ては我らがペリュトナイの為に』だったっけ? …貴方はこのペリュトナイで、少なくとも立場上は一番上のはず。そんな貴方がまるで敬服するように、誰かと話していた」

 

先程までの堂々とした態度は何処へやら。プロドは唖然としてリトスを見ている。水のように流れるリトスの言葉。それはまさに雄弁であった。

 

「まさか、全部聞いていた、だと…」

「…言ったね。それが答えだ。…プロドさん。貴方が、このペリュトナイの裏切り者だ!」

 

プロドへ歩み寄ったリトスは杖を突き付ける。その先端に構築された刃は、これまで以上に蒼く煌めいていた。観念したのか、プロドは静かに両手を上げた。

 

「…ああ、その通りだ。…私も迂闊だった」

「じゃあ、本当にプロド様が…?」

 

アウラの手が震えている。彼女自身、覚悟してここに来ているはずだ。しかし、彼女はどこかでこの事実を信じきれずにいた。しかし現実は彼女の理解を待つことは無い。シデロスはプロドの後ろに回り、リトスと同じように剣を突き付ける。

 

「…これからどうなる?」

「貴方を連行し、その罪を白日の下に。それがセレニウス様からの指令ですから」

「…そうか。それは…、まあ、当然だろうな」

 

がっくりとうなだれたように下を向くプロドに、背後に立つシデロスは歩くように促す。その為にリトスはプロドの前から後ろに回った。

 

「…?」

 

その時、プロドの顔が僅かにアウラの目に映る。そしてそれに言い知れぬ違和感を覚えたのは、それを目にしたアウラただ1人だった。

 

「…何をしているアウラ。さあ、一旦道を空けてくれ」

「あっ…。すみません。すぐに…」

 

憶えた違和感を反芻することに浅く没頭していた為に出口への道を塞ぐようになっていたアウラは、シデロスに言われて我に返り、言われた通りに道を空けた。

 

「ありがとう。…さあ、進んで」

「…」

 

それが、間違いだった。

 

「…? 早く、進んでと言っているんです」

「…バカが。このままおとなしく連行されるわけが無いだろう!」

「…! シデロスさん! 後ろに避けて!」

 

虚ろだったプロドの目に、再び野心のような火が灯る。それと同時に、横薙ぎの一閃が飛んだ。

 

「!! プロド…。貴方は、どこまで愚かなんだ!」

「流石に避けられるか…。だが関係ない!」

 

プロドの手に握られていたのは、大人の腕ほどの長さの、グラディウスと呼ばれる剣だった。しかし通常のそれと決定的に違う点は、それの刃が仄かに黒ずんでいるということだった。一見すれば、手入れが疎かなだけに見えるそれは、しかしどこか不穏な気配を漂わせていた。そしてそれを、シデロスは知っているようだった。

 

「…それは、魔剣! いつの間にそんなものを…」

「エリュプス様から授かった力だ…。だが、これだけではない! グオアアアア!!」

 

神殿全体を震わせるように、プロドが咆哮する。おおよそ人の喉から出るものとは思えないそれが止むと、そこにいたのは赤褐色の獣人だった。その色は、プロドが見せていた野心の火に燻った眼とよく似ていた。

 

「これも、エリュプス様から授かった力だ…」

「裏切るだけでなく、獣にまで落ちるだなんて…。貴方にプライドは無いんですか!」

「プライドだと…? フッ…、ハハハハ!!」

 

アウラの言葉を投げ捨て、プロドが吼えるように笑う。最早その獣に、人としての矜持などあるはずもなかった。

 

「そんなものがあったとして、満足に生きていけるとでも思っているのか!? 甘いんだよ…。そんなことが出来るのは、ごく一部の強者だけだ!」

「あ、貴方は…」

「私はエリュプス様のペリュトナイに貴族として迎え入れていただくのだ! その為にこんなところで止まるわけにはいかん! だから、だから…」

 

その目に燃える野心が、より強くなる。そして毛並みが逆立ち、プロドは牙を剥く。

 

「死に晒せガキどもがァ!!」

 

そして赤い獣が未来という獲物を手にするために、未来のあるものを刈り取るために、牙と剣を剥き、跳躍した。

 

 ランプに照らされただけの暗い部屋で、気怠そうに椅子に腰かけるプリミラはプロドの視界を垣間見ていた。

 

「あーあ…。やっぱりダメだな、この男。貰っただけの力で粋がっちゃってさあ…」

 

溜め息を吐き、呆れたような口調で、退屈そうに視界を垣間見る。そんな彼女から、欠伸が零れる。

 

「まあ、もう少し見てみようかな…」

 

脚を組み直し、眠そうにしながらもその目は炎のように赤く輝いていた。

 

 獣狩りにおいて、狩人は獣に相対するべく武器を持つ。理由は至極単純。獣が牙や爪を持つのに対し、狩人はそのままでは武器になり得るものを持っていないからだ。そうすることで、最低限の武装という点における穴は埋めることが出来る。

 

「ハッハァ! そんな剣で、私の魔剣を受け止められると思うな!」

「クッ…。無駄に早い動きを…」

 

それを踏まえたうえで、こう考えられる。武装した獣というのは、何とも不公平な存在ではなかろうか。しかも今回の場合、手にしている武器は普通のそれではない。

 

「少し止まって、いて!」

「当たるかド阿呆が!」

 

リトスが放った蒼晶弾に、荒くその魔剣を振るう。洗練されていない素人の剣閃は、しかしいとも容易く弾を切り裂いた。勢いを失い落ちた弾の断面は、まるで磨かれたように傷一つなかった。そしてすぐに、弾は霧散する。

 

「何あの切れ味!?」

「アレが魔剣だ。…本当に恐ろしい、闇の兵器だよ」

 

魔剣の恐ろしさを垣間見た2人をよそに、アウラは刺剣を抜き放ち、突撃を仕掛ける。

 

「恐ろしいのは魔剣だけです! 身体能力自体は普通の獣と変わらな___」

「あの本能しかない畜生共を一緒にするな! 私は選ばれた! 新たなる王国の貴族として!」

 

しかしその突撃は回避され、アウラの姿勢が崩れる。その隙をプロドが見逃すはずもなく、彼女に向けて魔剣が振るわれる。それは確実に背中を捉えていた。

 

「まずは1つ!」

「…! アウラ、危ない!」

 

咄嗟にシデロスが2人の間に割って入り、手にした剣で斬撃を受け止めようとした。力の問題などがあるだろうが、普通ならこれでどうにかなるはずだ。しかし、今回は訳が違う。

 

「ぐ、あああ…! 俺の、腕が…」

「フン…。阿呆が。言っただろう。そんな剣で受け止められるわけが無いと」

 

そこにあったのは、ある意味では必然的なことであった。宙を舞う2つの何か。1つは、銀に輝く曲剣の切っ先。そしてもう1つは、切っ先が斬れ飛んだ曲剣が握られた右腕。プロドの振った魔剣が、剣ごとシデロスの腕を斬り飛ばしたのだった。

 




十六話でした。今回から不定期で、劇中で書けなかった設定を解説する前書きを書いていこうかなと思っています。解説者も、その都度変えていきます。ではまた次回。

追記:めっちゃ間違えまくったので修正しました 2022/4/25 2:08
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