オブリヴィジョン   作:縁迎寺

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オブリヴィジョン人物録vol.3

プロド
性別:男
出身:ペリュトナイ
年齢:43歳
肩書:ペリュトナイ抵抗派司政官/ペリュトナイ支配派貴族
能力:無し
好き:権力、自分より弱い者
嫌い:自身より優れた者

ペリュトナイの抵抗派の司政官である中年男性。立場上はトップだが市民の人気はセレニウスに集まっている上、彼の周りにいる者たちはペリュトナイにおける特権を目当てに集まっているだけであるため、純粋に彼を慕う者はごくわずかしかいない。そんな彼の正体はエリュプスの密偵であり、抵抗派の情報をプリミラを通じて流していた。
意思を保てる獣人の1体であり、更には彼から授かった魔剣である『ステージ・スレイヴ』を使った戦いを得意としている。


17.官軍、賊軍、意志成群

 床に転がる腕を見て、プロドは満足気に笑う。それが、刹那の隙となっていた。

 

「シデロス! …このままだと、いけない!」

 

リトスが咄嗟に杖を振り、少量の天素をシデロスの切断された腕に送った。それは即座に結晶化し、流れていた血を止める。そしてもう一方。転がる腕の切断面も、同じく結晶化させて、傷口を保護した。

 

「…良い、判断だ…。リ、ト…ス…」

「…! シデロスさん!! おのれ! よくも!」

 

剣を構え直したアウラは、これまでに無いほどの怒りに燃えていた。そしてその勢いのままプロドへと駆ける。その隙に、リトスがシデロスを部屋の隅へ運んだ。

 

「考えを捨てたか愚か者! 今度は庇う者もいない! 真っ二つになれ!」

「そろそろ、ですかね…」

 

その突撃を迎え撃つため、プロドは魔剣を振り下ろした。このままでは、アウラは薪割りのように縦に真っ二つだ。

 

「終わり____」

「終わるのは貴方だよ」

 

しかしそんな未来は来ない。刃が何かを裂くことは無く、代わりに1つの声と共に銀の閃光が走った。それはプロドの胸を真っすぐに捉え、彼を吹き飛ばした。その勢いで、魔剣が彼の手から落ちる。

 

「アレは、セレニウスの…」

 

その閃光は、銀色に輝くセレニウスの刀、『永劫(えごう)』であった。プロドの胸を貫き、壁に突き刺さっている。それはどう考えても、物凄い勢いで投擲されたものだった。

 

「みんな! …大丈夫そうじゃ、ないみたいだね」

「グ、オオ…。バカ、な…。何故、お前がここに…」

 

勢いよく入ってきたセレニウスが、真っすぐリトスとシデロスのもとに駆け寄る。そしてシデロスの腕を見て、息をのんだ。

 

「…シデロス。…本当にごめんなさい」

「俺は、いいんです…。リトスが、傷口の保護をしてくれましたから…。今は、プロドを…!」

 

セレニウスは無言で頷き、プロドが動けずにいる壁へと歩を進める。その歩みには、人を超越したような重圧があった。

 

「…貴方は、将来有望な若者たちに害意を向けただけではなく、暴君に与してペリュトナイの秩序を乱そうとした。…これに異議は無い?」

「…何を、言うか。秩序を乱しているのはお前たちだろう! 私は王に仕え、この国を統一しようとしているだけだ! 私は選ばれているのだ!」

 

獣化が解かれ、人の姿に戻ったプロドが醜く吼える。その様は、人の姿をしていながら人よりも獣に近いものだった。

 

「…そう。異議は無いのね。だったら、続きは牢で聞くわ」

 

そしてセレニウスがプロドを拘束するため、彼から永劫を引き抜いた。その瞬間、プロドがニヤリと笑った。

 

「私が…、ここで終わるわけないだろう! …グオオオオオ!!」

 

そして再び獣化したその瞬間、彼の周囲が炎に包まれた。セレニウスは思わず飛び退いたが、これによってプロドには近づけなくなってしまった。

 

「これは…。あの時の奴と同じ!」

「…逃げる、つもりか…」

 

炎に包まれたプロドの姿が揺らぎ始める。その実体は半ば炎になりかけており、最早捕らえることは不可能だった。

 

「お前たちは決して栄えることは無い! 我らがエリュプス様のペリュトナイは、お前たちを赦すことなど決して無い! 決してだ!!」

 

そして炎が消えた時、プロドの姿は何処にも無かった。

 

 豪奢でありながらも、荒々しく傷のついた広間に炎が燃え上がる。そしてその中から、傷ついた人間の姿のプロドが姿を現した。

 

「…エリュプス様。このプロド、帰還いたしました…」

「…ああ、プロドか。こんな時に何故帰ってきた?」

「…それは」

 

玉座に腰掛けるエリュプスは、冷淡に問いかける。その言葉に込められた重圧に、プロドは言葉を詰まらせた。

 

「失礼いたします。それは私から説明いたしましょう」

「プ、プリミラ殿…」

 

広間に入ってきたプリミラは、開口一番にそう口にする。それは、プロドにとっては都合が悪い事この上なかった。

 

「プリミラか。いいだろう。話してみろ」

「はい。それでは…」

 

プリミラが話し始める。その言葉端には、何処か呆れのようなものが混ざっていた。

 

「結論から言ってしまえば、プロドの裏切りが露呈しました。そして口封じにも失敗し、逃げ帰ってきたというわけです」

「…そうか。…プロド」

「は、はい…」

 

静かに、エリュプスが声を出す。その声に込められた思いは様々だ。中途半端が過ぎる臣下に対する呆れ。これから自身の王国の貴族となるはずだった者に対する失望。これ以外にも挙げればきりがないが、それら全てがいいものではなかった。いや、厳密には1つだけそうではなかった。

 

「…挽回の機会が欲しいか?」

「…え?」

「挽回の機会が欲しいか、と聞いている。どうなんだ?」

 

その申し出は、真っ暗な窮地に立っていたプロドにとっては、まさに救いの糸となった一筋の光であった。勿論、プロドがこの言葉に応えないわけがなかった。

 

「…も、勿論です! 私の失態を挽回できるのであればどんなことだろうと…!」

「フフ…。いいだろう。その言葉を待っていた」

 

その一筋の光は、救いの糸は、確実なものとなってプロドに降りてきた。そしてそれに縋るように、プロドは醜く言葉を紡いだ。その掴んだ糸を、放さないために。

 

「そ、それで、私は何を…」

「まあそう慌てるな。…よし、入ってこい」

 

エリュプスの言葉と共に大扉が開け放たれる。そこから現れたのは、10体の獣人だった。それらは暴れる様子もなくおとなしく広間に入っていき、プロドを囲んだ。

 

「…え?」

「獣10匹分の力をくれてやる。この力を使って、残った反乱分子共を平定して来い。最も、この力をお前に御せるか? さあ、始めるぞ」

 

エリュプスの声が響いた直後、獣人の1体がその隣にいた獣人に喰らいつく。それを皮切りに、他の獣人たちも同様に喰らいつき始める。そしてその中で、プロドにも獣人が喰らいついた。

 

「い、ああああああ!! 痛い痛いいたい! 嫌だ! 私が、私が喰われて…! ど、どうしてこのような!」

「獣は強者を喰って強くなる。そして強者を喰って強くなった獣を更に喰うことでより強くなる。それを繰り返すことで、より強い獣となるのだ。ほら、吼えてないでお前も…、喰うんだよ!」

 

エリュプスが指を鳴らすと、プロドが獣化する。そして彼に喰らいついていた獣人を一瞬で引き剥がすと首筋を喰い千切った。肉を噛み千切り、骨を噛み砕く音がしばらく響くと、先ほどまでプロドに喰らいついていた獣人は跡形もなく綺麗に喰い尽されていた。そしてプロドは言葉を発することなく、次なる獣人へと襲い掛かった。

 

「うんうん…。本当は我に操作をさせるまでもなく喰いに行って欲しかったが…。まあこの際どうでもいい。さあ、現実に目を向けろ」

再び指が鳴らされ、プロドは正気に戻る。しかしプロドの姿は人間のものに戻っていなかった。彼の周りには血が飛び散っており、先ほどまで彼を取り囲んでいた獣人は何処にもいなかった。

 

「な、何だ…? 私の、私の中で、暴れている…!? が、ああっ…!」

 

そして突然、胸を押さえてプロドが苦しみ、そのまま床に倒れ込んだ。倒れてなおもがき苦しむ彼の胸から、何かが見えている。

 

「何かが…。何かが私の中から…!」

 

胸を押さえていた手が、何かに弾かれたように胸から離れる。手のあった場所から見えたのは、太く長い獣人の腕だった。腕が、胸から生えているのだ。

 

「う、あああ!! 何だ!? この、この腕は…!?」

「ああ。お前は抱えきれなかったようだな。だからお前からその分がはみ出ているんだ」

「私が…、私が望んでいたのはこんなものじゃない! すぐに戻、がああっ!?」

 

その言葉が終わるよりも前に、プロドの首筋から獣の頭が生える。それが吼えるとともに、身体中から獣の腕が、頭が、脚が、彼の身体を覆い尽くさんばかりに生えてきた。そうして身体が覆われていくたびに、身体が肥大化していく。

 

「まあ結果的には強くなるだろうからな。では最後に命ずる。我がペリュトナイに残った反乱分子を滅して来い」

「あ、ああ…。いし、きが…。薄れ、うすれて…。わたし、は…、えらば、れ…。き、ぞ…」

 

そしてプロドの意識は、頭や腕に埋もれる彼自身の肉体と同じように、深く沈んでいった。

 

 

 




第十七話を終わりにします。ここから決戦に向かって舵を切っていきます。ペリュトナイ編の最後まで、どうぞよろしくお願いします。それと、人物録で少し触れた魔剣については、追って説明したいと思っています。
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