朝…俺はベッドから身体を起こし伸びをする…ベッドを出て、カーテンを明けるとまだ白み始めたばかりの空と家々が目に入った…
ここはクラトスの町…とはいえ、実際は町と呼んでいいのか分からないほどの田舎だ。俺は寝巻きから動きやすい軽鎧に着替えると…鞘に収まった二本の剣を手に取り、背負う。
家のドアを開ける…
「…あら?キリトくん。おはよう。今日も早起きね」
近所のおばさんが声をかけてきた
「おはようございます、今日も良い天気になりそうですね…」
それから軽く雑談を交わし、町の出口に向かう……かつてはコミュ障の気があった俺だが、今となってはこれくらいの会話は普通に出来る。
町の外に出ると、俺は指二本を上から下に振る…
「やっぱり何も起こらないか……」
これはいつもの事だ…俺がこの町で拾われてからもう十年以上経つが、今でも癖でやってしまう…
俺はキリト…これは本名では無い。だが、あっちでアスナより先に死んでから…気付いたら、子供の頃の姿でこの異世界にいた…ここではこの名前の方が都合がいいのでこれで通している。
俺は背中の鞘から剣を引き抜く…もちろん、あの世界で使っていた物ではなく…この世界ではごく普通の、何処にでもある長剣だ。
後ろから襲ってきた兎の姿をした怪物を躱し、そのままソードスキル…レイジスパイクで喉を突く。
ソードスキルの光は当然無い…それに、あの頃は無かった肉を刺す生々しい感覚……今は慣れてしまった…
当時はキツくて仕方なかったが…昔の記憶を呼び起こしてしまった事に気付き、取り敢えず一度…頭を振って切り替えてから、口からゴボゴボと血の泡を出し…ひたすら地面でのたうち回る兎の首を落とす。
…静かになった所で血払い…と、いつの間にか囲まれていることに気付く…俺は溜息を吐いた。
兎共の一斉攻撃を躱し…
「…ワンパターンなんだよ。」
一体ずつ確実に仕留めて行く…
「ウォーミングアップにもならないな」
あっちでの人生は既に終わった…アスナ一人残していくことを除けば、正直…俺は別にやり残したことは無かった。
幸せだった…若い時は仕事も充実していたし、子宝にも恵まれた…子供も大きくなり、やがて自立。俺も仕事もゲームも引退し、満足に身体が動かなくなっても…家族とはずっと繋がっていた。
そうして、とうとう深い眠りに着いた俺が次に見たのがこの世界…
家族もおらず、クラトスの町の人達に育てられた俺が思ったのは恩を返したいだった…
だから、幼馴染のラティやドーン、ミリーと共に自警団に入った。
日々は充実している、だが退屈に尽きる…そもそもこの町…娯楽が少ないのだ、極端に…
自警団としての仕事も時々弱い盗賊が来るくらいで…はっきり言って、歯応えが無さすぎる…分かっている、平和な方が良いということは…でも、せっかく異世界に来たというのにこうまで退屈だと……
「やめやめ…こんなこと考えてても仕方ない、さてと…そろそろラティを起こしてくるか。」
俺は幼馴染兼同僚の家を目指して歩く…俺もあまり朝は強い方でも無かったが、今では普通に明け方には目が覚める…
今日は、どんな起こし方をしてやろうか…?
俺の顔には今、黒い笑みが浮かんでいるだろう…ま、仕方無い…正直娯楽の無い今の身の上では、これが毎日の楽しみなのだから…