「ふむ、大体聞き終わったか…」
そう言って兵士がペンを置く…ふぅ。緊張した…緊張したせいか凝りを感じる肩をトントンと軽く叩く…
「…終わると同時に随分気を緩めるものだな。」
「あ!すみません!」
しまった…俺は現状犯罪者だった…
「…いや、これは私の意地が悪かったな…何、中々大物だと思ってな…」
悪かったな、と言う割にそういう風に続けられると嫌味にしか聞こえないんだが…
「さて、そろそろ夜も更ける…今夜はここに泊まって貰う事になるだろう…一応簡単な物なら出せるが、食事は取るか?」
「……」
そう言われ悩む…前世で色々危ない橋を渡った事は有ったとは言え、結果的に警察のお世話になる事は無かったが、知識としては知っている…こう言うのは普通容疑者の自腹では無いのかと…
「……金の持ち合わせが無いのか?」
「え…?」
「いや何…そう言う知識は持ち合わせてるのが多いからな、冒険者は。最もこうして捕まるのはお前は今日が初めてだと思うが、どうだ?」
これは雑談か…?
「…はい、そうです…」
「そうか…さて、そうだな…本来は自腹を切って貰うところだが今回はこちら持ちにしておこう。」
「え…?良いんですか?」
「既にお前たちの仲間の一人、シウス・ウォーレンは囚人扱いで持ち物は取り上げられているから衣食に関してはこちら持ちとなる…お前とラティクス・ファーレンスは特例で一度出す事になるが、その後は収監日数の違いを除けば恐らく同じ扱いだ。今日だけ…しかもお前たちだけ金を払わせるのは不公平だろう。ましてや、お前に関しては今回が初めてだと言うしな。」
「…ありがとうございます。」
金が無いとは言わないが、払わなくて済むに越したことは無い…店主に払う金が有る事だしな…
「さて、行く…忘れるところだったな…」
「はい?」
俺は椅子から上げかけた腰を下ろす…まだ何か有るのか…?
「今さっきお前に聞いた内容だ、確認しろ…内容に間違いや、気になる所が有ればこの場で指摘しろ。修正する…無ければここにサインだ。」
そう言って机の上のペンと書類を俺に渡し、書類の最後の一枚の余白を指差す。
「はい…分かりました。」
「…寝る時間が短くなるだろうが確認は時間をかけてしっかりやれ…後で色々言われても困るし、苦労するのはお前だからな。」
「分かりました…」
俺は書類に目を落とした…
廊下を進む兵士の背を追って歩く…兵士がドアの前で足を止めた…
「…ここが食堂だ…と言ってもお前はもう行ったか?その傷は恐らくここで洗ったんだろう?」
「ええ…そうです。」
「そうか…一旦ここで待っていろ。」
そう言って兵士がドアを開け中に入って行く…俺は後ろの壁に背を着け、もたれかかった…
「…今ここで暴れたら逃げられたりするか…?」
ゲーム的には良くやる行動だ…だがここはあくまで現実で…ゲームの世界でも、俺にとってもう一つの現実で有る仮想の世界でも無い…そもそも剣は鞘ごと取り上げられた…俺も武器も無しに無茶な事はしたくないし、こちらを信用してまともな待遇を与えてくれているあの兵士の事を裏切りたいとは思わない…
ただ…こういう事も選択肢に入れないと生きられない世界に俺はいたんだな、と改めて思う…鍍金の勇者、仮想世界の英雄とか…色々呼ばれたり自称した事も有ったが、向こうで死ぬよりもずっと前に引退したし、こうしてこの世界で生きて…気付けば十数年経っているのにまだそういう考えが浮かんで来る自分に呆れの溜め息が出る…そんな事を考えていたら部屋のドアが開いた…
「良いぞ、入れ。」
開けられたドアの先に先程の兵士ともう一人兵士が立っている…俺は指示に従い前に出た、兵士をすり抜ける様にして中に入る…おや?
「あ…」
並べられた多くの人間が座れそうな長い椅子と机の…そこの一角に…
「…見ての通りだ、この後お前らは別々の部屋で過ごして貰う事になるから今の内に話したい事が有れば話しておくと良い…大きな声を上げない事と、我々が立ち会い、記録する事が条件だがな…ああ、言うまでも無いが…手短にな。」
今ちょうどゆっくり話をしたい相手…ラティが座って食事をしていた。