「蛮族?」
俺たちは昨日入った食堂に案内され、食堂のテーブルに着き、少々ややこしい話をされていた…
「うむ。元々こちらでの被害は余り無かったんだが、近頃はこっちにも良く現れる様になってな……いや…と言うか、知らなかったのか?」
「えと、はい…」
話を聞けば蛮族ヴェルカントとは…ここ、俺たちの居るムーア大陸から北の方に有る無人島を根城にした蛮族、もとい…海賊の事であり、基本的には比較的島から近いアストラル、シルヴァラント大陸の方を中心に被害を広げていて、本来海域もそれなりに離れているムーアはほとんど対岸の火事だったのが…最近はこちらにも良く現れているのだとか…
「被害報告は前からこちらにもいくらか上がっていたのだがな…こっちも手を出せる状況じゃなかったんだ…」
…まぁ、昨日も人手不足と言っていたからな…その辺が原因だろう…
「それで、何故その話を俺たちに?」
「何度かここの船が襲われて小競り合いになっていたんだが…今までは逃げ切る事が出来ていたんだ…ただ昨日…お前たちが町を出た後に、遂に犠牲者が出たと報告が有った…もう放ってはおけない。」
人手不足とは言え、犠牲が出るまで放っておいて今更と思わないでも無いが…言いたい事は分かるし次に何を言われるのかも何となく予想がついて来た…
「そこでお前たちに一つ依頼をしたい…」
「海賊の討伐…ですか?」
「そうだ…最も、いくらムーアの出身とは言え外から来たお前たちに本来頼む事では無いのは分かっているのだがな…」
「報酬は無罪放免って所ですかね?」
横に居るラティが特に意見を出さないので、自然と俺が話を進めて行く形になる…まぁ内容に関しては危険は有るがそう悪い話じゃない。自由の身になれるなら乗らない手は無いと言える…最も、ハイリスクハイリターンの取引だけどな…
「…いや、危険な事を頼むんだ…非公式にはなるが、こちらから別にちゃんとした報酬も出すつもりだ…引き受けては貰えないか?」
向こうがこっちを騙す理由は特に無いだろう…俺たちを罪人として始末したいならこんな遠回しな事を言わないで普通に極刑を申し渡せば済む話だし、そうでなくても高々ケンカ程度で死刑になるとはさすがに思いたくない…まぁとにかく、リスクは有るが条件そのものも破格と言えなくも無い…ただ…
「話は分かりました。一つ聞いても?」
「ああ、構わんぞ。」
「……何故俺たちに?単に腕っ節の強い罪人なら、そちらにも既に何人か収監されているのでは?」
それこそ今現在も収容されている筈のシウスにでも持って行けば良い話だ…そこだけが、どうしても納得行かない。
「…そもそもこの話はこちらの話をどうやってか聞いていたシウス・ウォーレンが出して来た話だ『そいつらをどうにかしてやるから自分をここから出せ』…とな。」
「それなら…この場で俺たちに改めて頼む必要は無いのでは?」
シウスが話を持ち掛けて来たなら、俺たちに"依頼"として頼む必要は無い…あいつなら一人でもどうにかするんじゃないか?
「その時に奴から条件を二つ提示された…一つ、この件はあくまでこちらからの依頼として扱う事…二つ、もし可能なら…キリト・ツーベルク、ラティクス・ファーレンス、イリア・シルベストリ…この三名を同行させる事…」
……成程、一人ではさすがに無理だと踏んで俺たちの力を借りようと…そして、依頼の形になっているのは俺たちがどうしても嫌なら断れる様にする為か…確かに俺たちが居てもこちらの頭数はたったの四人…向こうの規模が分からない以上…乗るには非常に分の悪い賭けにはなる…最も、俺たちもシウスと同じくいずれ捕まるのは今のあいつの状況でも確実に分かる事で、ほぼ否応無しに俺たちが乗る可能性は高いだろうな…だけどな…
「すみません…この場では…いや、俺たちだけでは決められません…」
「だろうな、そう言うと思っていた。」
俺とラティだけならほぼ確実にこの話に乗るだろう…だが、シウスは一つ大事な事を忘れている…
「この話…イリアさんにも相談しないと決められないよな…」
ラティの言葉に頷きを返す…そう…イリアさんはこの話に乗る理由が俺たちの無罪放免といくらかの報酬…それだけでは弱いのだ…いくら報酬も別に出るとは言っても、変にリスクを負うくらいなら待っていた方が楽だからな…
「イリア・シルベストリ…彼女は今この町に?」
「ええ、宿の方に居る筈です…」
「…ではこちらから呼び出すとしよう…先に言っておくが、別に断っても構わない…その場合、刑に服して貰う事にはなるがな…」
「分かりました…良く話しあって決める事にします。」
「…では、彼女を呼んで来る。」
兵士が席を立ち、部屋から出て行った。