「投げナイフ?」
「ええ…軽めで小型の……安ければ尚良いです。」
俺は武器屋に着くと、来るなり店主に注文した…既に武器屋、道具屋、食料品店まで俺たちが来る可能性を伝えていたとの事で…来るなり微妙に迷惑そうな顔をされたが、何も金を払わないって訳でも無いし…特に割り引きしろとか横暴な命令は来てない筈だからそこまで嫌そうにされても困るんだけどな…
後ろで興味深げにシウスが見詰めているのも分かるから、余計に居心地は悪い…こっちもさっさと出ては行きたい…
「…無くは無いが、な…滅多に売れないんで余り整備とかはしてないし、作りもそう良い物じゃないぞ?」
店主が数本の小さ目のナイフを出して見せながらそう言う…そりゃ、普通の騎士や戦士の類はそんな物買わないだろう…生き残る為に何でもするだろう根無し草の冒険者でさえ買わないだろうな、と思う…何せ投げて当たらなかったらこっちの隙になる…相当修練積んでないとただ持ち歩く事しか出来ず邪魔になる……あの頃でさえ、俺だってソードスキルに投剣スキルが無ければやろうとも思わなかった…
「ええ、構いません。」
「……そもそも使えんのかい?」
馬鹿に念押しして来る…まぁ腕が伴ってない奴に大事な商品売るのも気に食わないか…店主としては当然なのかも知れないな…
「的になる物…何か有りますか?お見せしますよ。」
俺だって肥やしレベルにスキルスロット埋めてただけで、SAOではほとんど使った事が無かった…が、その後何度か色々巻き込まれた後に思い知った。
……ピンチの時、最後に自分の身を助けてくれるのは何かを、な。
「ダーツの的なら有るが…」
何で武器屋にそんな物が有るのか…滅多に売れないならその為に置いてるとは思えないし、店主の趣味なのか?
店の裏…倉庫に案内され、そこの一角…
「ほら、アレだ。」
確かに多少古びて、ホコリを被ってはいるがダーツの的が壁に架かっている…俺は借りた数本のナイフを手で弄びながら声を掛けた。
「多分、ちょっと大き目の穴が開くと思いますけど…」
俺が今持っているのはSAOで使っていた針剣でも、あっちで練習に使っていたダーツの矢でも無い…小さいが…確かにコレはナイフなのだ…
「構わねぇよ、最近は使ってないからな…とにかく、先ずは腕を見せてくれ。」
「ええ、じゃあ…先ずは真ん中を抜きます。」
俺はこの世界に来てから投げナイフの練習は余り本気ではしていない…ただ、あのジョーとか言う男に投げた剣はちゃんと奴まで届いたし、それ以上に…俺はナイフを持った時に分かった…間違い無く当てられる…と。…その場で深呼吸する…良し、イける!俺はナイフを投げた。
「……宣言通りド真ん中命中…やるじゃ「シウス、退いてくれ…まだ終わってない」あ?」
「一本なら、まぐれ当りだと思われるだろう?…次、今度はすぐ横を狙います。」
その言葉と共に投げたナイフは宣言通り最初に投げたナイフの横を突いた…まだ店主が微妙な顔をしているな…
「……キリト、そんなんじゃあ納得しねぇんだろうよ。」
「いや、十分「じゃあ何でそんな顔してるんだ?」……」
「キリト、見せてやれよ…お前の本当の腕をな…フンッ!」
シウスがダーツの的を止めていた釘を素手で引っこ抜く…突然の事に店主はポカンとしている…
「らぁっ!」
次に元々架かっていたのより少し下の位置で的を止める……釘を裏拳で叩いてだ…とんでもないな、本当に。そして…シウスは的の前に立った。
「……何の真似だ?」
「こうするとどうなる?お前は当てられるか?」
今、シウスが位置を低くした的の前に立った事で…的の半分近くがシウスの頭に隠れている…
「お前を避けて的に当てろって事か…」
「俺は…信じるぜ、お前の腕をな…」
シウスは笑っている…本気で俺の腕を信用しているらしい…場所が場所だ、当たったら死ぬかも知れないのに…イカレている…まともじゃない…そんな事を考えつつ…俺の口角が上がって行くのが分かる…面白いじゃないか…!
「分かった…やってやるよ。」
「おい!ちょっと待ってくれ!もし失敗したら「しませんよ、これから行く場所に何人の敵が居るかも分からないのに…戦力減らしてどうするんですか」そうじゃなくてだな…!」
「心配しないでください…迷惑は掛けませんよ…要は…シウスに当てなければ良い話だ…!」
もう一度深呼吸する…数回繰り返して先程から感じていた手の震えは止まった…
「…行くぞ?」
「…ああ、来いよ…!」
俺はナイフを投げた…!