「結局…欲しかったのは投げナイフだけか?」
「ああ…中々、便利な物まで手に入ったけどな…」
あの時俺の投げたナイフは…シウスに直撃しないで的に突き刺さった……僅かに頭頂部を掠めたけどな…
「で、本当に怪我は無いんだな?」
「有ったらちゃんと言ってるさ。」
あの瞬間俺の目には飛んで行くナイフがスローに見え、シウスの髪の毛が数本切れて床に落ちるのが見えていた……ほんの僅かに狙いが逸れた事に気付いてヒヤッとしたが…幸い特に怪我は無かった様で何よりだ…
「まぁ…『こんなもんタダ見したんだから、少し融通利かせろ』とか強引な理屈で割り引きさせたんだから、元気なんだろうけどさ…」
持ち掛けたのは俺だけど…最後に見たいとハッキリ言及してるせいか断りづらかったんだろうな…詰められた店主は完全に顔が引き攣っていた……まぁシウスと俺のあのイカれたやり取りにビビったって言うのも有るかも知れないけど。
「何か文句有んのか?」
「無いよ。安く手に入ったのは事実だしな…金も浮いた。」
ついでに…
「こんなコートも値引きで手に入ったんだ、文句なんか言える訳無いさ…」
俺は今着てる新品のコートの片側を掴み、そっと捲る…露わになったコートの内側には、さっきのナイフが数本収まっていた…
「すっかり忘れてたよ…考えてみたら、こんな小さいナイフをポケットに入れてそのまま持ち歩いたら…その辺で落としかねないもんな…」
ナイフを収める為のケースが備え付けられているコート…なんて、普通は売り物としては先ず見掛けないだろう…基本的には自分で改造するしか無い訳だ…が、あの店にはコレが売り物として存在していた…
「今から元のコート弄ってる時間は無いし、コイツが見付かったのも良かった…しかも割り引きで買えたからな……アレだけで五割も引かせるのはやり過ぎの気がしなくも無いけど。」
「何言ってんだよ、ありゃあ見世物としてはそれなりに上等だ…金取れるぞ?」
「そんな大層なモンじゃないって。」
「……あの後お前がやった…三本のナイフを一遍に投げてそれぞれ別の箇所に刺さる…十分に見応え有るショーだと思うがな…」
「別に…俺は大道芸人目指してる訳じゃないんだけど…」
前世ではダーツを嗜んだ事は有る…だけど、必要に駆られてやった面が大きく…特に趣味って程でも無いから大会とかにも出た事は無い…まぁすっかり馴染みになったダイシー・カフェで練習してたら、店主のエギルに出てみないかと言われた事は有る…
……ちなみに、断る時に『俺より上手い奴なんていくらでも居るだろ?』って言ったら溜め息吐かれたけど。
「…へぇ…じゃあ何の為に覚えたんだ?お前も分かってると思うが、ソイツは確実に急所に当てないと意味無いんだぜ?」
「まぁ…俺には切り札が無いからな…使えるなら何でも使うさ。」
この世界ではソードスキルがほとんど役に立たない…だけどそれを嘆いたって仕方無いんだ…俺は…敵を仕留められるならどんな手でも使う。
「普段はほぼ使い道無いけど…今回は役に立つだろ、相手は人間だし。」
モンスターの多くはこんなもん当てても殺せないが、人間なら場所によっては殺せる…
「さて、さっさと準備済ませて港に行こう…あんまり待たせるとイリアさんがまた怒りそうだしな…」
予定外に時間を食った…急がないとならない。
「ああ、そうだな…」