金は浮いても時間は掛かっているし、余分な物はちゃんと省いて必要な物を買えば結局残る資金もほぼ予定通り…
結果…港に着くなり俺とシウスはイリアさんから揃って『遅い! 』…とか、色々お小言を頂戴する事になる訳だ…
「…と言うか、キリト君?貴方コート新調してるじゃない…無駄遣いしたんじゃないでしょうね?」
「まさか。残った金は確認したでしょ?…シウスが店主に割引きさせたんですよ…」
「……どれくらい?」
「五割引です。」
「…半額って事じゃない…コレ素材も割と良い物に見えるけど…」
イリアさんが俺の着ているコートの袖に触れながらそう言う(袖にもナイフのケースが付いてるから仕方無いとは言え、長いのに折れないのはやはり不満だな…まぁ後々ナイフを増やせばここのケースも使うかも知れないけど…)
「実は店主はまだ余裕有りそうでしたけどね…」
今思えば…店主は顔こそ引き攣っていたが、言われるままでなくちゃんとシウスときっちり交渉していた……案外元々ある程度割高で売ってたのかも知れない…
「変な脅しでも掛けて無いでしょうね?」
「……そんなに俺が信用出来ねぇか?」
「当然でしょ?信用出来るかは…これからの仕事で判断させて貰うわ。」
「…ふむ、分かった…そう言う事なら俺も真面目にやるぜ。」
……内心…イリアさんに言われてなくても最初から真面目にやれ、と俺は思っていたがもちろん口には出さない。
その後乗り込んだ船内で四人無言のまま支給されたパンを齧り、水を飲む …味気無いが何も口に入れないよりマシだ…何せ俺とラティ…イリアさんが話し合ってこの仕事を受けるのを決めたまでは良かったが、結局手続きに時間がかかりシウスが牢から出て来るのが遅くなった事も有り今はもう昼近い…
時間を無駄にしてる事自体はまだ仕方無いとも言えるが…この仕事は相当に大きくて厳しい案件にになるのは間違い無い…最低限でも飯が食えないと非常に困る… 空きっ腹の方が集中力は上がるかも知れないが、肉体のパフォーマンスは当然落ちるだろうし…何より食事を抜いた上で派手に動くとトイレが近くなったりするから色々と宜しく無い…こんなんでも本当に無いよりマシだ…俺がそんな事を考えてる間も俺たちの乗った船は数人の船員たちの手によって、進んで行く…
船員たちの間にも現状ほとんど会話は無い。緊張してる…とも言えるが、どちらかと言えばシウスとイリアさんがギクシャクしてる事が大きく…俺とラティは気を使ってろくに言葉を発して無いが、彼らも俺たちの醸し出す重ためな雰囲気に当てられているらしい…余計に気が滅入るからいっそ何か喋ってて欲しい、はワガママか…考えてみれば彼らも仲間を失ったばかりだし、明るく振る舞うのは元々無理なのかも知れないな…
「見えて来たぜ、アレが…奴らのアジトの島だ。」
「アレが…」
船員に促され海の方を見た俺の視界に入って来たのは本当に規模の小さな無人島だった…島にはかなり大きな岩山が有るが…逆に言えば他には何も無い…そして船が近付くにつれて、その岩山にそれなりの大きさの穴が空いているのが見えて来た…
「あの洞窟が…海賊のアジトなの?」
「ああ…と言っても中の様子とかは分からん…ただ、奴らがここを出入りしてるのは間違い無い。」
「そう…私たちで実際に入って確かめるしかないのね…」
「本当にすまねぇな…俺たちも仲間を殺されてるし、自分で仇を取りたい所なんだが…」
「気にしないでください…そう言うのは元々俺たちの役割ですから。」
もちろん…城の兵士が本来やるべき事を押し付けられてる形にはなるので納得はしていない…ただ…"仕事"として受ける事を決めたのは俺たち自身だし、被害者の一人で有る彼にこんな申し訳そうな顔されたら俺も気は引き締まって来る…
砂浜に靴を着ける…幸い、海賊たちに見つかる事無く上陸出来た…(そもそも洞窟の入り口に見張りの一人すら居ないのが気になるが…)
「…このままここに船を置くと奴らに見つかりかねん。申し訳無いが、俺たちは一度ここで戻らせて貰う……死なないでくれよ?」
一日で終わる仕事では決して無いだろう…とは言え、素人である俺たちがポートミスからここまで小舟漕いで行くには距離的に厳しい…かと言ってまともな船を船員付きで停泊させれば海賊に見つかって船員たちが殺されてしまう…なので基本的に彼らが早朝に迎えに来る以外、俺たちは島から出る方法が無い…イリアさんが最初一番渋ったのはこの部分だった…敵のアジトで一夜を過ごすなんて愚の骨頂も良い所だ…おまけに同行者の一人は全く持って信用に値しないと来てる上、彼女以外俺たちの中に女性が居ない……まぁ状況が状況だけに最終的にイリアさんが折れたけど。
「善処はしますよ…でも、確約は出来ません…先に言っておきます…もし夜が明けた時点で外に俺たちの姿が見えなかったら…そのまま帰還してください……そして、帰ったらすぐに城の兵士に報告をお願いします。」
例えばの話だが…少数で行っても潰される程向こうの数が多くて俺たちが死んだなら、俺たちの様な奴らを新たに募った所で無駄なのだ…その場合…兵士たち総出で潰して貰う以外に無い…仮に俺たちが帰って来ないなら、その可能性は有るって事になる…
「……それで良いのか?」
「捜索よりここの壊滅を優先する様伝えてください…その方が俺たちが生き残る確率は寧ろ上がります…」
コレは俺とラティ、イリアさんと話し合って既に決めた事だ…シウスには話してないが、アイツなら言わなくても納得するだろう…どっちにしろ、海賊をどうにかしないと俺たちは次の町にも行けないのだ…
「分かった…俺たちもギリギリまでは待つ…何とか戻って来てくれ…」
今度はその言葉に何も言わなかった…確約なんて、出来無い。敵の規模が全く分からない状態で向こうのテリトリーに踏み込むのだ…一筋縄では行かないだろう…正直、死んだら仕方無いとしか言い様が無いのだ…
……俺たちは何度も申し訳無さそうな顔をして島を出るのを渋る船員を説得し、船に乗り込ませ…船が離れて行くのを見送った…