「っ…血が…」
奴の血が目に飛んで来て視界が塞がる…取り敢えずまたコートの袖で拭き取った。
「ふぃ~…思いの外時間掛かったな…」
まさかこんなに手こずるとは…向こうが手練だったのも確かだが、少々腕が鈍ってる気がしないでも無い…まぁ、改めて考えても俺の場合…仮想世界でのアバターの自分の動きが頭に有るから、どうしてもズレを感じるのは仕方無いんだよな…
「終わったのか?」
声を掛けられ、思わず身構えるが…
「落ち着けって…また随分苦戦したみてぇだな。」
「まぁな…悪かったな、手伝いに行けなくて…」
声の聞こえた方に立っていたのはシウスだった…向こうも終わっていたらしい…
「ハッ…要らねぇって言っただろ?…つーか、寧ろ俺の方が来ないといけない状況だったんじゃねぇか?」
「いやまぁ、結果的に勝ててるしな…」
「……まぁ、終わったんなら行くぞ…結構疲労してるみてぇだが、仮に休むにしてもあいつらと合流すんのが先だ。」
「ああ。」
俺は剣を振って、最低限血を落とす……正直さっさと拭き取りたいところだが…生憎、拭く物を持ち合わせてない…奴の服は思った以上に血で濡れてしまったからあまり役には立たないし、一応ナイフを仕込んでる以上…俺のコートを使うのもな…まぁ、何とかなるか…
俺は二振りの剣を背中の鞘に納めた。
シウスの先導で階段を降り、フロア内を探索する…今の所敵の姿も無いが…!
「セヤァ!」
「ギャッ!?」
後ろに気配を感じ、咄嗟に回し蹴りをする……後ろに居たのは身体が茶色の毛に覆われた二足歩行の獣…言葉が通じる訳も無いし、何なら奴は素手……一見、状況だけ見れば無害の奴に俺が過剰反応してしまった様にも思えるが…倒れ込んだ奴は俺から視線を逸らすこと無く、その瞳はギラギラと暗い光を帯びていて…何より腕に嵌められた金属製の腕輪……コイツは多分…徒手空拳が得意で、普通に俺に奇襲を掛けようとしたんだろうな…
「キリト…囲まれたぞ。」
いつの間にか俺が蹴り飛ばした以外にも同族と思われる獣が俺たちを囲んでいた…咄嗟に、こちらまで下がって来たシウスと背中合わせになる…
「どうする?」
「ケッ、どうするも何もねぇだろ?」
「やるしか無い、か…」
「お前は体術もイケるんだ、楽勝だろ?」
「1体1ならまだしも…さすがに多人数とやり合う自信は無いな。」
「そうか…なら、逃げて良いぜ?逃げれるんなら、だけどな。」
「……バーカ、こんな楽しそうなシチュエーション…逃すと思うか?」
「フッ、違ぇねぇ。」
奴らは、未だこちらを睨み付けて牽制するばかりで動く気配は無い…さて。
「今見えてる限り、八人…一人頭四人殺れば良いか。」
「じゃ、俺は五人殺るか。」
「……早い者勝ちって言いたいのか?」
「当然だな、あいつら腕も大した事無さそうだしよ。」
つまり、倒した数で競えてしまう…と。
「……なら、俺も本気でやる。」
「そう来なくちゃあな。」
俺の視界に入ってる連中…そいつらから確かな恐怖を感じた……まぁ倍以上の人数で囲んでるのに相手が笑ってたら、そりゃよっぽどの実力者でも無い限りビビるだろうな…
「じゃ、そろそろ始めるか?」
「だな。」
その会話が終わった瞬間…俺たちは同時に目の前の相手に向かって駆け出す……地味にやりにくい相手だったあの海賊よりは…素直に楽しめそうだ…!