目を閉じ、集中する……仮想世界から脱出した後、俺の最初の悩みはアバターと現実の身体を動かす時のズレだった…まぁ、当たり前と言えば当たり前だ…現実世界では、俺の身体はずっと眠っていたんだから…
ただ…当初歩く事もままならかった俺がリハビリをして日常生活に復帰…それでも残る違和感を少しでも消したくて始めた筋トレ…意外とハマってしまい、続けて行く内に分かったのは…仮想世界≠現実の世界とは限らない、と言う事だ。……ま、結論から言えば仮想世界で俺に限らず、他の攻略組のプレイヤーもやってた人外じみた動き…一部物理的に無理なのを除いて、多くは現実世界でも再現可能、と言う事だ。
……目を開く…視界に入るのは肩を突き出し、突っ込んで来る大男…こうして落ち着いてから見れば、大して圧力は感じない。これなら、あの世界で戦ったフロアボスの方が遥かに怖い。
「遅いな…」
俺は後ろに居る奴にそう声を掛ける…俺は何も特別難しい事はしちゃいない。奴が俺の正面に来た瞬間に片足を踏み出して奴の横をすり抜け、すれ違いざまに逆手で持った剣で奴の腹に一閃くれてやっただけ……いや、カッコつけて何だけど…正直こんな化け物と真っ向からぶつかれる体力なんてもう残ってないから、カウンターで攻撃しただけなんだけどな…あまり深くは斬れなかったし…っ!
「ウオオオオオ!」
さっき俺が出したのとは違う、最早獣としか言えない様な雄叫びが後ろから聞こえる…さすがにビクッとしながらも振り向けば、奴がこっちに走って向かって来る所だった…うお、さっきの倍は速い…どうも怒らせてしまったらしい…そうこうしてる内に奴は既に目の前…柄の短い両刃斧が奴より下に居る俺に向かって殴る様に突き出される…躱せる…!
「!…ゼヤァ!」
突き出された斧を横にズレて躱し、奴から目を離さない様にしながら、肘を曲げて胸の辺りに置いた腕を使っての横凪ぎで俺の横に有る腕を狙う。
「クソが!」
奴の腕が引っ込み、再び俺に向かって突き出される…見えている。
「よっ!」
片手の剣を捨て、空いた手を奴の拳に掛け、飛び越えながら…奴の首に向けて剣を投げる…結果は確認しない…俺はさっさと奴の腕から降りる…
「ふざけるな!」
投げた剣は奴の腕で弾かれ…おっ、ラッキー…こっちに向かって剣が飛んで来る…
「ふっ!」
ジャンプして空中でキャッチ。着地時を狙って突き出された奴の斧を持っていない拳を身を屈めて躱す…ふぅ…やれやれ…
「そこで見てないで手伝ってくれ!」
俺は未だ動く気配の無いラティとシウスに向かって声を張り上げる…いや、黙って見てろとか…偉そうに言って何だけど…思ったよりキツイ…一人じゃ無理だ。…って、うわ!?
「とっ!よっ!うおおお!?ちょっとは手加減しろよデカブツ!」
奴が形振り構わず繰り出す斧と拳を何とか躱して行く…あー!面倒臭い!
「やかましい!チョロチョロと羽虫の様に…鬱陶しいぞ!」
「お互い様だろ!…チッ!」
息を整え様としたタイミングで突き出された斧が俺の頬を僅かに削る…大した怪我じゃないが、思わず悪態をつく。……あー…クソ…やはり俺は決め手が少ないな…コイツを仕留め切る展開が想像出来無い。
「さっさと死ね!」
「うるさい!お前が死ねよ!」
冷静にやるつもりが、ついついイライラしてしまう…やれやれ…短気だよな…俺もラティの事を言えない…