海賊のボスらしき男の繰り出して来る拳と斧のコンビラッシュ…死にものぐるいで避けていたのが、段々その必要も無くなって来る。
「見え見えだ、バーカ。」
「!…貴様!」
形振り構わず繰り出してると思っていたこの攻撃…躱しながら観察すればそこにはほんの一瞬攻撃の来ないタイミングが有る……そして、それは奴のクールタイムにして…俺に仕掛けられた罠でも有る事に気が付いた。
脳筋かと思えば、どうも相手は頭もかなり切れるしい…仮にこれを単なる隙と思って俺が懐に潜り込もうとすればカウンターを捩じ込まれていただろう…なら、答えは簡単だ…その瞬間だけ攻撃が来ないなら動く必要は無い。必然…俺もカウンターが出来ると言う事…!
結果、攻撃の来ないタイミングさえ分かるなら俺は無理に動く必要が無く…奴の手の甲から前腕部に掛けてを深く斬り付ける事が出来てしまう訳だ…何より、はなから奴の狙いがカウンターだったせいで…奴のラッシュの狙う場所もワンパターン…全く、狡猾に奥の手を使う事だけを狙うんじゃなくてメインでも仕留めるつもりで攻撃して来ないと駄目だろ…てか、ここまで来てほとんど手傷無く勝てると思ってるなら俺を舐め過ぎだ…俺は奴の腰を指差しながら言ってやる事にする。
「使えよそれ…飾りじゃないんだろう?」
腰に着けられた…奴の巨体に合わせて誂えてる有るらしく、大きくて異様なそれ…良く見れば俺も向こうで見た事が有る…そう、それは多分…ボクサーが使う様なグローブ…多分アレと手斧を使うのが本来の戦い方なんだろう…
「オオオオオオオ!」
「うっさ!」
俺の前でグローブを嵌めたそいつがまた雄叫びを挙げる…そして再びラッシュを掛けて来る…とは言え、さっきとそう変わらない…躱すのはそう難しくない。ただ…そろそろ一人でやるのもキツい……!
「おっ、確かに分かってれば躱すのも割り込むのも簡単だな。」
「よぅ、シウス。体力は戻ったのか?」
「お陰さんでな。」
「たぁっ!……俺には何か無いのか、キリト?」
「ん?別に無いな。」
「何でだよ!?」
「貴様ら揃いも揃って俺を馬鹿に…!」
「ん?実際バカなんだからバカにしても良いだろバーカ。」
その言葉に奴は身を縮ませ、構える…テレビで見た事の有る程度では有るが、丁度俺の知るボクサーがする構えの様に見える…次の瞬間、奴は思わぬ行動を取った。
「!!!!!!!!!!!」
「んなっ!?」
奴が口から出したその声は…もう声として認識出来無かった…有り得ない…!こんな音が人間の喉から、声帯から…出せる訳が無い!
とは言え、奴の出したその渾身の雄叫びはこちらの可聴域の上限まで易々と到達し、最早高周波…超音波になり…こっちの身体に圧力を掛けて来る…俺たちの動きを止め、更にこの洞窟そのものまでもが揺れた……参ったな、相手は予想以上のバケモノだ…今からでも全員で撤退したいけど、もう逃がしては貰えなさそうだ…コイツをどうにかしないと俺たちは外には出られない…!
「いや~…参ったぜ…!」
「言葉の割に何か嬉しそうだぞ、シウス。」
奴の出した高周波の圧力は俺たちをこちらの意志と関係無く後ろに下げていた… 横にやって来たシウスの顔を見て、俺は呆れる…
「ハッ…キリト、お前も笑ってるぞ?」
「馬鹿言え、これはもう笑うしかないって諦めから来てる笑いだよ。」
……まぁ、正直に言えば全然諦めてないし… 何なら少し楽しんでるのは事実だったりする…HPがゼロになる事が許されないSAO…そのフロアボス戦の時ですら時折感じたあの高揚感…あれを、俺は今再び感じ取っている…
全く、痛みは無いあの時と違って…痛みに苦しみながら死ぬ可能性だって有るのに……本当に楽しくなって来た…!
「お前ら、何でこの状況で笑えるんだよ!?」
少し離れた所に居たラティの後ろに周り、ケツに蹴りを入れる。
「っ!?…何をす「せっかくだから顰めっ面してないで、お前ももっと楽しめよ。こんな体験、多分今しか出来無いんだぞ?」頼まれたって二度とこんな体験したくない!」
「肩の力抜かないと勝てる物も勝てない。敵を見ろ、チャンスを見極めて敵に自分の特技を叩き込め、攻撃は盾で受けるな、躱せ……これらを無意識に出来ればどうにかなる。」
「出来るか!?」
これくらい出来無いと困るな…何せお前の親父さんは普通に出来てたし…
「お前ら!?くっちゃべってないで戦えよ!?」
「分かってるよ、シウス……ラティ、やれ…命令だ…!」
「怖いって!?分かった!やるからその目をやめろ!?」
「良し、じゃあ行くぞ……せっかくの機会だ…合わせろ、ラティ。」
「注文多いな、全く…」
二人して大男に向かって突っ込む…走りながら片手の剣を背中の鞘にしまう…ラティとのコンビ攻撃なら、一刀流でないとやりにくい…
大男の攻撃を大剣で受け止めるシウスの背を壁にしながら接近する…直前、俺は小声でシウスに指示を出す。
『そのまま抑えてろ。』
『チッ…』
舌打ちが聞こえたが指示は聞こえてた筈だ…俺たちはシウスの横をそれぞれ通り過ぎ…左右の奴の足まで向かい、同時に構える…俺たちの繰り出す技は…
『なぁ?』
『ん?何だラティ?』
『俺にもキリトの使ってる技、教えてくれないか?』
『はぁ?お前は確実に親父さんの教えてくれてるエダール剣技の方が向いてるぞ?つか、あっちの方が絶対使い勝手良いし…』
『でも、やっぱり一つぐらいは覚えたいしさ…』
『あのなぁ…俺の使ってる剣技って、要はどれも単なる型の集合体だぞ?覚えるのも大変だし、実戦ではどれもハッキリ言って使いにくいし…』
『でも、キリトは使ってるだろ?』
『ハァ…分かったよ、一つだけ教えてやる…良いか?良く見てろ……ハッ!』
『……これだけか?』
『これだけだ、簡単だろ?構えた時に溜めるのがコツだ…ちなみに、相手と距離が空いてれば空いてるほど更に加速により相手にダメージを与える事も可能だ…まぁ、距離が有り過ぎると走ってる内にかえって攻撃自体の勢いは死ぬから限度は有るけどな。』
『えっと…セイッ!…こんな感じか?』
『良い感じ良い感じ…ただ、構えが重要だ…お前の場合構える時に既に身体がブレてるから、力が上手く乗せられていない。』
『うへぇ…意外と難しいんだな…』
『ま、せっかく教えたんだ…マスターしろよ?』
『分かってるって…と、そう言えばこの技…何て言うんだ?』
『ああ、言ってなかったな…この技は…』
「「レイジ・スパイク!」」
俺たち二人の繰り出した突きは…奴の左右の太腿を貫いた。